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前方で話す小春ちゃんと小池君。
料理の話をしているらしく、内容が出来る女子会っぽい。
視覚的には男とゴリラ…飼育員さんとゴリラかな?。
「へぇ~小春ちゃんお菓子作りが趣味なんだ。俺も料理とか結構するよ」
「ウホウホ」
「シュークリームにはまってるんだ。凄いね、俺もお菓子作りやってみようかな」
「ウホホ」
「え、教えてくれるの!池田ちゃんはシュークリーム好き?」
振り返った小池君。
私は腕で大きく○を作った、シュークリームは大好きです。
わかったーと小池君は再び会話に戻っていく。
聞くということは作ってくれるんだろうか。勝手に期待しちゃうよ?
「ていうかね、なんでここにいるのかな?」
隣にいる石橋君やい。
身をギクリと固め、居心地が悪そうに頭をかいた。
「いや」
「さっき果敢にも話しかけてたよね?なんで1分もかからず戻ってくるの!」
初めましてウホで諦めるって早すぎる。
腕を組んでうんうん唸る石橋君に反省の色は見えない。
「正直、何言ってるか全然わからん」
「今更じゃん!石橋君の性癖ってその程度だったの?!」
「それがまず誤解だ!」
ビシッ!と叩きつけるように突き付けられた指先に視線を寄せた。
視界の先で2人が私達をおいてどんどん先に進んでる。
「誤解?」
「小池、お前はゴリラの小春さんが好きだと思っているだろ!」
「うん」
「違う!俺は小春さんの顔に惚れたんだ」
「?」
「なんで分かんないんだ!」
「あー、言われてみれば…普通のゴリラより、目が大きいようなぁ」
流石に可哀そうだと話に合わせることにした。
一般的なメスゴリラの顔、ちゃんと見た事ないけど。
「違うそうじゃない。きめが細かい白い肌に大きな目、頼りない華奢な体!守ってやりたくなるよう動作。分かるだろ??」
「全然、石橋君の頭がおかしいってこと?」
何言ってんだこいつ。
痺れを切らしたように石橋君が食って掛かってきた。
「嫉妬は見苦しいぞ!」
「流石に怒るぞ!待って、本当に待って。どこに嫉妬するの?握力、迫力、手の大きさ!?」
「何言ってるんだ!お前もゴリラ前の小春さんの顔を見ただろ!」
「見てない!最初からゴリラだったもん!」
「えっ?」
「えっ?」
「最初から?」
「ゴリラ!」
「えっ?最初から?」
「なんで2回言ったの。石橋君は、途中からゴリラになったってこと?」
そもそもなんだこの会話。
最初からゴリラと途中からゴリラなんて会話、死ぬまでするとは思ってなかったよ。
「俺はそうだな。すれ違ったときに一目惚れして、もう一度見ようと思って振り返ったらもうゴリラだった」
「不可解すぎるでしょ」
「ゴリラが街中にいても誰も何も言わないし、最初はどっきりだと思ったんだ。だから小春さんは芸能人なんだと思ってたんだ。調べても当然何の情報も出てこなかったけどな」
「オッケー続けて」
「次の週、また出会った場所に来たらゴリラがいてな、普通にウホウホ言いながら本屋で店員と話してるんだ。それが4度ほど続いて、ようやくこれは吊りじゃないなと思った」
「3度目で察して」
「それで5度目に確認もかねてお前たちを呼んだんだ。まさか同志が増えるとはな。俺は非常に嬉しい」
肩を抱き寄せられそうになって全力で避ける。が無理やり抱き寄せられた。
男でも女でも距離感変わらない人っているよね。凄い苦手です。
「なんで私にもゴリラに見えるんだろう…」
「知らん。近寄りたいにも何を言ってるか分からないし、俺はもうどうすればいいのか…」
「会話がまともにできるの小池君だけだしね」
石橋君が空いてる手を顎に当てて唸った。
通行人の邪魔だから、道の真ん中で止まるのやめて。
「小春さんがゴリラでさえなければ」
私は石橋君の言葉に深く同意した。
そしたら私がここにいることもなかったのにと。
だが、ここで問題が発生した。
眉間に皺を寄せた通行人、私達の横を通り過ぎるでもなく。
「————おい」
石橋君の短い前髪を掴んだ。昼間見た、ハニーフェイスのイケメンサラリーマンだ。
暴行かと思ってカバンの中で携帯を手に持った、いつでも警察は呼ぶ準備は出来ている。
「うちの小春がゴリラ?随分なこと言ってんじゃねぇか!!」
「うぇえ!」
前髪を掴んだまま自分の顔の近くまで石橋君を持っているサラリーマン。自然と私の体もサラリーマンに向かって傾いた。
石橋君も唖然としたまま、目の前のサラリーマンを見つめている。
いや、いい加減石橋君は私を放してくれ。