第十二話・松本市を通年仮装のハロウィン都市に変えろ!
その日──穂高と梓は、松本から電車に乗って少し離れた塩尻広丘駅に。ほど近い大型ショッピングセンターの、フードコーナーの椅子に座っていた。
穂高と梓の目前には、塩尻市民の平出 巴がいる。
店内のスーパーマーケットで買ってきた、塩尻市民の心のフード……山賊焼きを食べて。
ドリンクを飲んでいる巴が言った。
「で……わざわざ、松本市民が塩尻の大型ショッピングセンターのフードコーナーにまで足を運んで、あたしを呼び出してなんの用?」
独特の味付けをした鶏肉に、衣をつけて揚げた山賊を箸で豪快に千切って口に運んでいる巴を眺める。
梓は以前、平出 巴の口から聞いた。
『巴』という名前は、巴の両親が木曽町にある鎌倉時代の武将、木曽義仲の資料を集めた『義仲館』で、女武将巴御前が敵を左右の脇に挟み込んで絞めあげ。
二人の武者の頭がもげて、死んだと伝わっている怪力武勇に感激して、強い女の子に育ってほしいとの願いから『巴』と名づけられたと話していたのを思い出していた。
山賊焼を食べていた巴は、思い出したようにディーバックから地域限定の胃腸薬の箱を取り出して、梓の前に置いた。
「これ、木曽方面に天龍お兄ちゃんと遊びに行って、奇岩景勝地の〝目覚めの床〟を見てきた帰りに買った、お土産の〝御岳百草丸〟……梓のお母さん、胃腸が弱いって聞いていたから、帰りの道の駅で食べた御岳百草丸アイス……エグい味だったよ」
タコ焼きを食べながら、穂高が巴に質問する。
「少し教えてくれ……塩尻市民って、盆踊りの玄蕃祭りと──塩尻ハロウィンの時だけ、どこから湧いてきたかと思うほど、大通りを市民が埋め尽くすんだよな」
「まあ、その表現間違っていないけれど……なんか、虫の大量発生みたいでイヤだな」
穂高が珍しく巴に頭を下げる。
「教えてくれ……その市民エネルギーはどこから出てくる……仮装してバカみたいに騒ぐエネルギーは」
バカみたいなエネルギーと言われて、巴は少し不機嫌そうに穂高を睨む。
「はぁぁ? バカみたいなエネルギー!」
「いや、悪口じゃないんだ……松本市でも以前は、ハロウィンパレードが行われていた時があった……もう一度、あの熱気を取り戻すには、どうしたらいいかと思ってな」
「一日だけの、街中ハロウィンを復活させるの?」
ここで、穂高はまた突拍子もないコトを言った。
「一日だけじゃない……通年通して市民が仮装をしている【コスプレの街に松本市をしたいんだ】」
穂高の言葉に絶句する巴──梓がアイコンタクトで「適当に話しを合わせてくれ」と巴に送る。
巴が穂高に訊ねる。
「通年通して市民がコスプレをしている街ってどういう意味?」
「その、まんまの意味だが……楽しいと思わないか、通学や通勤をしている松本市民がコスプレをして生活している光景って」
穂高の話しから巴の頭の中に、とんでもなく奇妙な光景が浮かぶ……市役所でコスプレして役所の仕事をしている職員。
街中をコスプレして歩いている市民。
駅員もコスプレで、観光客を出迎え。
腰を曲げた高齢者もコスプレして、松本市を散歩している。
おそろいのコスプレをした、飼い主と愛犬が街を歩く。
頭を抱えた巴が穂高に質問する。
「その流れだと、穂高や梓もコスプレするコトになるけれど」
「覚悟の上だ、推しの松本市を目立った街にするためなら、この身を捧げる」
「はぁ? それで塩尻市民の、あたしにどうしろと?」
「どうやって、松本市の潜在意識に働きかけて、自然に仮装生活を浸透させるか……その方法に悩んでいる、塩尻ハロウィンでは市長も仮装して弾けて楽しんだんだろう」
「まぁ、お父さんから聞いた話しだと過去の塩尻市長が、路上プロレス興行イベントがあった時に、仮装してリングに上がったって……話しも聞いたことあるけれど」
「それだよ、どうすれば松本市をごく自然に仮装生活している、市民の街に変えられる?」
少し考えて、巴が答える。
「こっそり、枕元で囁いて睡眠学習するとか」
「一軒一軒、夜中に回って眠っている市民の耳元で囁くのかよ……ムリだろう、他にはないのか」
「地道な方法だと、松本市で【仮装の日】を制定して……市民の抵抗感を無くしていくとか」
「そこまで待てない……他にもいろいろと松本市を、変えていかないとならないからな」
「じゃあ、穂高と梓が見本を示して浸透させるのが一番じゃない……梓だったらドラキュラとか、フランケンシュタインの怪物の仮装が似合いそう」
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次の休日──巴と穂高は、梓の家の玄関にやってきた。
巴と穂高が、持参した紙袋を梓に渡して言った。
「それじゃあ、頼む」
紙袋を受け取った梓が、露骨に嫌な顔をした。
「本当にやるのか……オレが」
「シュミレーションだから……玄関からでてきた時に、どんな風に見えるのかを、確かめるだけだから」
「今回だけだぞ……着替えるのに時間がかかるからな」
梓が紙袋を持って家の中に引っ込んで、十数分後──玄関のドアを開けてドラキュラが現れた。
「吸血鬼の格好、なかなか似合っているぞ」
「ほめられても嬉しくない……次の仮装に着替えてくる」
梓が家の中に引っ込んで、数十分後──今度はフランケンシュタインの怪物が、玄関ドアを開けて現れた。
「その仮装も似合っているな……梓はどんなファッションでも着こなすな」
「だから、ほめられても全然嬉しくないんだってば……最後の仮装に着替えてくる」
数十分後──ドア開けて、キョンシーに仮装した梓が、両手を伸ばした格好で、ピョンピョン飛び跳ねながら外に出てきた。
それを見て穂高が言った。
「やっぱり、市民が通年コスプレして過ごす計画は……断念しよう、他の都市から松本市民が、バカにされるのは耐えられないから」
梓は、額に貼ったキョンシー札を地面に叩きつけて言った。
「だったら、ワザワザオレを使って試すな!」
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その後も穂高の、松本市を盛り上げる奇抜なアイデアに、周囲の人間たちは振り回された。
★このエピソードで、とりあえず完結させておきます、なにかアイデアの泉が湧いたら再執筆するかも知れません。




