第十一話・常念穂高は松本城を爆破する
「梓、次に松本市長に送る要望をいろいろと考えてみたんだが……どれがいいと思う? 金銭的な部分は無視して」
そう言って、梓の家にやって来た穂高は、テーブルの上に自筆のカードを並べた。
部屋のテーブルの上にタロットカードのように並べられた、要望カードに梓の頬は引き攣る。
「さあ、選べ」
並べられたカードに書かれていたのは、梓から見て、どーでもいい妄想要望ばかりだった。
交通インフラ関連の要望だと。
『松本駅にリニア・モーターを開通させる』
『ついでに、路面電車復活!』
『美ヶ原に下から、繋がるロープウェイを作る』
『松本空港を発着する旅客機に、アルピコグループのラッピング機を作る』
と、言う荒唐無稽に近いモノだった。
穂高が一枚のカードを指差して言った。
「この『美ヶ原に下から繋がるロープウェイを作る』というのはオレは面白そうなので、賛成だが景観の方面からは反対の意見も出そうだな……次にこの」
穂高は『松本駅にリニア・モーターを開通させる』と書かれたカードを指差す。
「ぶっちゃけ、長野市に対する競争心だ……長野市は、市内に地下鉄造ったり……新幹線が駅に発着するからな……それなら、松本はリニアー・モーターで勝負だ!」
松本市と長野市──どことなく、両市は競うあって発展してきた感がある。
「最後の『松本空港を発着する旅客機に、アルピコグループのラッピング機を作る』ってのは、個人的な願望だ……想像しただけでワクワクしないか、あのアルピコのラッピング旅客機が空を飛ぶんだぞ!」
アルピコというのは、長野県を中心に活躍するバスやタクシーや鉄道の交通系企業で、ある地域密着型スーパーの店舗経営も手がけて地域を支えている。
信州人にとっては、アルピコは無くてはならない神のような存在だった。
「アルピコさまには、昔からお世話になっているからな……どこかで恩返しをしたいとオレは日頃から考えている、松本駅の広場にアノ変な像をとっぱらかって、アルピコの社長や会長像を建てたいくらいだ」
ここで、穂高が地域あるあるを、梓にぶつける。
「言っておくが……松本市に本社がある『デリシア』は、他県では知名度が薄いからな……信州二大巨頭のスーパーマーケットでデリシアと並ぶ、小諸市に本社がある『ツルヤ』は他県にも店舗を広げているかは知らん……検索して調べろ」
デリシアが全国区展開していないと聞かされて、ショックを受ける梓。
「そんな……ずっとデリシアは、全国チェーンだと思っていたのに……デリシアで買い物をしてきた、オレの半生はなんだったんだ」
「まぁ、そんなにしょげるな……コレでも食べて元気だせ」
そう言って穂高は、諏訪郡原村に本社がある、タコ焼き屋から買ってきたタイ焼きを梓に差し出して。
梓は半分放心状態で、頭から竹輪が大砲のように突き出した、タイ焼きを食べた。
梓がタイ焼きを食べている間に、次のカードを出した。
「これは、施設や建造物の要望カードだ」
『松本が援助してアニメ制作会社を設立させる』
『松本に巨大アミューズメント遊園地を招致する』
『長野県に海から水路を引いて、長野の海と海水浴場をリアルに作る』
完全に目が横線になる梓。
「はぁ?」
穂高が説明する。
「山岳県にも、娯楽を増やそうと思ってな……巨大アミューズメント遊園地を招致するなら、松本近辺にいざとなったら山を切り崩して土地を作ればいい、山が無くならない程度に」
穂高が松本にアニメ会社設立のカードと、海水浴のカードを指し示す。
「『松本アニメ』なんて名称のアニメ会社があってもいいんじゃないか……長野の海は県民総意の願いだ、諏訪湖で海産物が獲れて、サーフィンをする日焼けした信州ボーイが誕生するぞ」
穂高が。
「どの要望を松本市長に送ったらいい?」
の、質問に半ば諦め気味の梓は……もう、勝手にやってくれ、とカードを放り投げた。
梓の態度に少し、ヤケになった穂高がまた脈絡がないコトを口走る。
「今度、金曜日の夕方四時に、松本駅近くのFM長野の放送局に二人で見学に行くぞ! 道側のガラス張りに、顔を近づければ放送しているところを覗ける……金曜日がダメなら平日の朝でもいいぞ、伊織さんに会える」
梓が冷めた目で言った。
「勝手に一人で行って、ガラスに変顔を密着させてくれ……オレは恥を晒すのはイヤだ」
「寅年生まれの県民のマドンナ……伊織さんのどこが恥だ! 失礼なコトを言うな!」
「恥は、そこじゃない」




