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81.

 デマンドイトガーネットを探す前に取り敢えず休憩しよう、と言う事になり、4人は黄金の小川を眺めながら手近にあった岩に座ってランチを食べる事にした。


 水筒にはリンデンフラワーティーが入っており、ほんのりリンゴの良い香りがついていて、汗ばんだ体に染みわたる。


 お弁当は、片手で持って簡単に食べられるそば粉のクレープだった。

 たっぷりのクリームチーズと甘酸っぱいマルベリージャム(桑の実ジャム)を巻いたものと、スパイシーなひき肉とポテトとチーズを巻いたもの、それに丁度いい塩気のフィッシュアンドチップスが添えられている。


 そば粉のクレープは穀物が育ちにくいラザフォード領では珍しくない料理だが、王都に住む博士達は初めて見る物だったらしい。

 小麦粉のクレープより褐色がかった色合いで少し香ばしく、もちもちしているそば粉クレープは美味しく手軽に食べられる事から、博士達は「フィールドワークにぴったりだ!」と絶賛した。


「このもちもち感がたまらないですねえ」


 シンクレアは桑の実ジャムとクリームチーズのデザート系が特に気に入ったらしい。

 上機嫌なシンクレアの隣では、イルサンが「クレープの重なり具合が地層みたいだ」とマニアックな感想を述べて喜んでいる。


 和やかな雰囲気の中、ヒューイットは先程から疑問に思っていた事を口にした。


「あの、質問なのですが、言い伝えの“緑に輝き……”と言う記述から、なぜ緑の石で有名なエメラルドや翡翠でなくデマンドイトガーネット?と言う石を指すと考えたのですか?」


 どうも自分一人が分かっていないらしい――ヒューイットは戸惑いつつ説明を求めた。

 するとイルサンが「いい質問です!」と嬉しそうに応じた。


「エメラルドは主成分が特殊で、プレートテクトニクス等の大規模地殻変動のあった場所に出来やすいため、産地が特定の場所に限られやすいんです。時々それ以外の場所にも生じる事がありますが、品質が宝石のレベルでなかったり、ほんの少ししか採れなかったりする可能性が高く。それから、言い伝えでは“日の出に緑に輝き”とあります。日の出の光で眩く光るとしたら、ダイヤモンド並みに光の屈折率と分散度が高く、虹色の反射光のファイアが出るデマンドイトガーネットが最有力候補なのです。翡翠だと不透明な石なので、輝くと言う表現には物足りないのです」


 つまり、先程のドラゴンガーネットが不思議な光を放つ様に、デマンドイトガーネットと言う石も輝く訳か。


「しかし、“ロヒカールの息”は硫化水素みたいなガスの事かと思っていたのに、まさかドラゴンガーネットとは――」

「……これは石に詳しくないと分かりませんね。私はドラゴンガーネットと言うのは初めて知ったので、砂金と一緒に拾っても色の薄いガーネットだとしか思いませんでした。デマンドイトガーネットは、高価な石だから知っていたんですが」


 ヒューイットがぼやくと、博士達が一緒で良かったです、とフェリシテも同意した。

 フェリシテの知識もヒューイットに比べたら相当だと思うが、あくまで本で読んで覚えた知識ばかりなので中途半端なのだと、フェリシテは謙遜した。


「宝物を見付けられるのは、本当に賢者だけなんですよ」とフェリシテに言われて、ヒューイットが納得する。


「しかし、この後はどうしましょうか……デマンドイトガーネットが有ると仮定して、何処に有るのかを解き明かさねば」


 真剣に悩むシンクレアに、イルサンが「言い伝えの中に、またヒントがあるのでは?」と言う。


「“日の出にセイティアの山が”とありますが、セイティアとは何でしょうね?」

「“日の出に”と言うのも手掛かりになるんだろうか?」


 口々に疑問を言い合っていると、ヒューイットが何か思い出した様子で「……そう言えば」と呟いた。


「イルの祭りは立冬で、古くは一年の始まりだったそうです。その日は聖地で太陽が昇るのを待ち、供物を捧げていたらしい。ただ、千年以上前の話なので今は聖地が何処かも不明なのだが……」


「セイティアが聖地だとすれば、この山が聖地だったかもしれませんね。ここに導いたイチイの木がまさに千年以上生きている古い木です。昔の人がここを特別な所と思って目印をつけていたとも言えます。この崖で供物を捧げていた可能性もありますよ」


 イルサンが言うと、シンクレアが太陽を見上げつつカバンから懐中時計を取り出した。


「蛇紋岩の磁力で方位磁針が狂うかもしれないから、時計で方位を見てみましょう。――立冬の頃の日の出の太陽は、確か真東のやや南側から昇るはず。現在は午前11時28分――時計の短針を太陽の影に合わせて、その短針と長針のちょうど中間が南になる。……おや?とすると、この山側の岸壁が東の方角なんですねえ。春分と秋分には山に阻まれて、この崖に日の出の太陽光は当たらないらしい」


 フィールドワークで慣れているのか、驚くような方法で博士が方角を特定する。


「本当ですね。でも立冬の頃の日の出の太陽光は、何とかこの崖に当たりそうですよ」


 ここは崖の東側がそそり立つ岸壁で西側が平地で開けている為、日没の太陽光はよく当たるが、日の出の太陽はほぼ見えない状態なのだ。

 だが、かろうじて東南方向は遮るものが無く、うまい具合に立冬の頃の日の出の太陽光がこの崖を照らし出してくれそうになっていた。


「立冬の日の出はこっちの方角ですね」


 休憩を終えて移動した4人が周囲を探索する。

 

「水晶だとペグマタイト、ガーネットだとスカルンと言う所で見つけ易いんですよ。簡単に言うと、岩の壁面の白い模様など、岩に他と色が違う層が見られる場所を探すと鉱脈だったりします。ここの岩盤は蛇紋岩に花崗岩が一部入り込んで複雑な様相をしているみたいです。崩落の危険が無ければ、調査したい場所ですね」


 素人目にはただの一面の黒っぽい岩だが、地質学者が見ると様々な種類の岩が混じって見えるらしい。

 ウキウキと浮足立つイルサンの脇で、山の上方を見上げていたシンクレアが突如「ああっ‼」と大声をあげた。


「あそこにある釣り鐘型のアザレア(つつじ)は見た事が無い物かもしれない!ちょっと採取してきます!」


 学者と言うのは皆似た人種なのかもしれない。

 先程のイルサンの様に、岸壁をよじ登ろうと突進したシンクレアにヒューイットが絶句する。

 しかも、今度は止める間もなくシンクレアは岩場に飛びつき、器用に足を突起にかけてスルスルと登ってゆくではないか。

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