表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/114

33. 登山

 背負いカバンに荷物を詰め、フェリシテはしっかりブーツを履き、腰に帯剣した。

 シンクレアもさすがにトランクは止めて、フェリシテの貸した背負いカバンに荷物を詰め込み、意気揚々と足を踏み出す。


「屋敷内に温泉を引き込む水道管を伝って、山の中腹まで進みます。そこから源泉の周辺を探索するのですが、よろしいですか?」

「もちろんだとも!」


 道のない、下草の生い茂る山へ入ったフェリシテは、隣のシンクレアが、ぱああっと顔を輝かせているのを見て口元を緩めた。


「お疲れではないですか?お休みしなくて良かったのでしょうか?」


 徹夜のうえ山登りとは大丈夫かと、さすがに心配になって尋ねると「心配無用だよ!」とシンクレアは自慢気に胸を張った。


「年に一度しか咲かない花を見るために、山の中を彷徨って四日間完徹した時に比べたら、このくらい普通普通」


 それよりも足元に生えている雑草や周りの樹木をキョロキョロ眺めて、感嘆の溜息をついている。

 身体が細いのに、底なしの体力はどこからくるのか本当に不思議だ。


「王都や南方ではまず見られない針葉樹が生えてますね。王都のレーヌ河を境に、南北で気候ががらりと変わるんですよね。思ったよりシダ類が目に付くなぁ……これ、山の中に温泉が湧いているんですよね。ここら辺って、鉱山じゃありませんか?」

「お分かりになるんですか⁈」


 まだ何もそれらしきものが無いうちからのセリフに、フェリシテが驚く。


「地質学は専門じゃありませんが、自然科学分野はひと通り頭に入っているもので。こういう場所って、水晶や鉄、金が産出される事が多いんですよ。似た所だと王都の南のサロワ領ですかね。昔は金で有名で、他にカンラン石やザクロ石も産出してます。現在の産出量はもう多くないですけど」


 頭上でバサッと鳥が羽ばたく。

 背の高い木々の間から、晴れ渡った蒼い空が見えて、二人は眩しくて手で目の上を覆った。


「ーー実は、お話していなかったのですが」


 フェリシテは源泉近くの岩場で、露出した硫黄とミョウバン石らしき物を見つけた事を伝えた。


「それは見てみたいですね、国内で採れるのは珍しいはずですよ!」


 シンクレアが声を弾ませ、浮足立つ。


「見る限り、ラザフォード領では硫化水素の発生がおさまってますから開発も可能じゃないですか?お隣なんかは山中で硫化水素が発生していて入山も難しいらしいですからね」

「硫化水素って、あの源泉近くに湧くガスの事ですよね?あれが湧くと獣は避けてくれるから、獣狩りをしなくて済むんですよね」


 ヒューイットが、北東地域で獣が出没して困っている、と言っていたのを思い出す。

 畑を荒らしたり農作物を食い散らかすので、狩りが必要なんだとか。


「そうですねぇ。どっちかと言うと、領主にとってはガスが湧かないで鉱石を採取するのがお得なんですが。硫黄やミョウバンと言ったら、薬師の垂涎の的ですよ。吹き出物や臭い消しの鉱物なんて、王都じゃ需要しかありませんからね。知ってます?騎士たちの間では、香水と同じくらいミョウバンが売れます。立ちっぱなしでブーツが蒸れますから、ミョウバンで消臭するんですよ」


 シンクレアの話に、フェリシテがふっと笑う。


「それは貴重な情報ですね。だとすると、屋敷の使っていない客室を保養所にしたら人気が出そうです。屋敷の風呂に引き込んでいるお湯がミョウバン泉だと思うんですよ」

「おお!では今晩、私がその温泉に入れると⁈そりゃ嬉しいですね!」


 喜びつつ、シンクレアは手近に落ちていた枯れ枝を持って、土を軽く掘り返した。


「ラザフォード領ですが、周辺領地と比べても、農作物の生育が突出して悪いみたいなんです。土が痩せているのはその通りなんですが、こちらだけ、かなり古い古代の地層が露出しているのかもしれませんよ」


 意外な事を言われ、え?とフェリシテが瞬きする。


「古代の地層って、恐竜のいる時代レベルの、遥か昔と言う事ですよね?」

「そうですそうです。国内だと、六十年ほど前の地震で隆起したミュラー領の海岸に出現しました。海外でも海岸線や山奥など、相当な僻地に露出してたりする珍しいものなんですが、そこの土質と似てる気がするんですよね」


 本当だろうか?見て分かるのかとフェリシテも足元の土を見るが、どこがどう他の土と違うのかよく分からない。


「これ、私が植物の専門家だから分かる事なんですよ」


 ニヤリと笑って、シンクレアが眼鏡を押し上げた。


「皆さん、シダって全部同じに見えるでしょ?でも違うんです……!実はこれ、古代シダと言って、この辺りに群生しているほとんどが特定の土壌にしか生えないんですよ‼ーーああ、何てことなんだ!私はきっと運命に導かれてラザフォード領へやって来たんだーー‼」


 おお、神よ‼と、はしゃいで両手を天に突き上げたシンクレアが斜面を転がり落ちそうになって、慌てて支える。

 間一髪で転がるのを免れ、ふぅ、とシンクレアは心臓のあたりを押さえて息を整えた。

 フェリシテもホッとするが、本当に心臓に悪い。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ