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「申し訳ない!落ち着かなければ……ところでフェリシテ嬢、この辺りの土や植物を採取してもよろしいかな?」
いや、許可する前から、目にもとまらぬ速さでカバンから小ビンとピンセットを取り出し、しゅたっと位置についているではないか。これで断れるはずがない。
「は、はい。どうぞ」
「ああ、感謝します‼」
笑顔でひたすら地面をほじくり返すシンクレアを、そっとしておく事にする。
フェリシテには分からないが、彼の興味をひく物があったらしい。
「ウフフフ、この種……!この松は火山にのみ生える特殊な松なんですよ。非常に珍しくて、パイロファイトと言う山火事の後に繁殖する植物があるんですが、それの近似種で、どういう仕組みかまだ謎なのですが、火山が噴火した溶岩の熱でしか硬い外殻が割れなくて、発芽できないんです。……溶岩に全て飲み込まれ、辺りが黒々とした死の支配する地に変わり果てたとしても、この松が灰燼に帰した地にエメラルド色の生命の息吹を立ち上がらせ、荒廃した山に再び生命の輝きをもたらす輝ける一番星となるのです‼」
途中、ポエムが差し挟まれていたが、何となく凄い木だと言うのは分かった。
ほう、と真顔で頷くと、シンクレアが早口で説明する。
「この辺りの松、細いから若い木だと思うでしょ?でも、多分1000年から2000年くらい生きてるんじゃないかなあ。こんなに沢山、この松の古い木が生えてるのは初めて見ました。歴史書ではお隣や近隣の領の火山噴火が500年前や190年前にあったことが記されているんですが、ラザフォード領では記述がありません。つまり、歴史書が書かれる、ずーっと前に噴火したと言うことです」
「えーと、この裏山は近隣領地にまたがる山脈の一部だと思うんですが……他の領地でも同様ではないんですか?」
ピンと来なくて首をかしげるフェリシテに、シンクレアは手近な松の幹へ手を置いて言った。
「同じではないと思いますね。この山とつながる東側三つの領地のフィールドワークは済んでいますが、こんなに古い松や古代シダは生えてませんでした。建築資材や開発で樹木が乱獲されたとしても、古代シダもないし、地質が全く違うんですよ」
隣り合っていても、だいぶ違うらしい。
それにしても、さすが王立アカデミーの教授だけあり、舌を巻く博識さである。
「やはり様々な事をご存じですね。勉強になります」
フェリシテが感心していると、シンクレアが「ほう」と眉を上げる。
「学生には授業を超えてしゃべるなと大不評なんですが。逃げる生徒はあれど、こんなに長い間、飽きもせずに聴いてくれたのはフェリシテ嬢くらいですよ」
ずばり生徒に指摘されているらしい。
というか、自覚があるなら、授業時間くらいは守ったらどうか。
フェリシテの内心を読み取ったかのように、シンクレアが肩を落として反省の色を見せる。
「いえ、私も毎度反省はしているんですよ。しかしですね、植物を前にすると、パッションが沸き上がって語らずにはいられないんですよね」
ーー結局、語るのは止められないらしい。
「成程、博士は植物を見ると幸せになってしまうんですね」
フェリシテが納得すると、シンクレアは「分かってくれますか⁈」と瞳をキラキラさせた。
「ご理解いただけるとは、今日は最高な日だ……!フェリシテ嬢、私の弟子になりませんか?」
王立アカデミーの栄えある博士が、そんな理由で弟子をとっていいものだろうか。
「いえ、それはさすがに生徒さんにも申し訳が無くーーどうでしょう、代わりに、茶飲み友達になっていただけませんか?」
こうしてフェリシテは博士と茶飲み友達になった。




