二学期と特別実習 4
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「……」
「……」
わたしは、じっとこちらを見つめて――いや、睨んでくる視線に振り返り、うっと心の中でうめく。
今日は例の特別実習。
転移魔法陣で学園が保有している森へ向かったわたしたちは、転移魔法陣に定員があるため、森の入り口で全員が転移してきて揃うのを待っている……のだけど。
……視線が痛い。
わたしたちより先に到着している三学年。
こちらもどうやら特別実習のようだが、二年生よりも森の奥へ向かい、強い魔物を討伐するらしい。
そしてその三年生の集団の中には当然のことながら、いた。
ラインハルト様と、ルーカス殿下である。
……なんでこっち見てるの?
ルーカス殿下は普通だが、ラインハルト様の視線が鋭い。絶対に睨んでいる。なんで⁉ わたし、何か悪いことした⁉
ま、わたしに対するラインハルト様の当たりが強いのは、今にはじまったことではないのだが。
ヴォルフラムもラインハルト様の視線に気づき、不快そうに眉を寄せた。
だが、さすがに伯爵令息であるヴォルフラムが、面と向かってラインハルト様に文句を言えるはずもなく、こそっとわたしの耳元に囁いてくる。
「なあ、なんか睨まれていないか? 君を見ている気がするんだが……君、何かしたのか?」
「何もしてない……はず。ただ、ラインハルト様はわたしが嫌いだから」
「そうなのか? 何故?」
「わたしがばかだから?」
馬鹿で、ルーカス殿下に付きまとっていたからだろう。もっと言えばお兄様と結婚式を挙げる前にルーカス殿下に求婚(でいいのよね、あれ)されたのを断ったからに違いない。
が、ルーカス殿下に求婚されたなんて言えるはずもないので、もちろんこれは秘密である。
「そんな理由でか? いや、君がばかだと肯定するつもりは……。と、とにかく、いくら何でも令嬢に向ける視線ではないだろう。まあ、俺も以前は人のことをとやかく言えるような態度ではなかったが」
ヴォルフラムってば、まだ昔のことを気にしているの?
あれはわたしが悪いんだし、ヴォルフラムは気にしなくていいのにね。
思わずふふっと笑うと、ヴォルフラムがバツの悪そうな顔で頬を掻く。
「三年生はわたしたちより先に移動するみたいだから、もう少ししたら……あ、ほら」
もう少し辛抱したら大丈夫よねと思っていた矢先、三年生の引率の先生が生徒たちを率いて歩き出した。
ようやくラインハルト様の鋭い視線から解放されて、ホッと息をつく。
何かあるたびに揚げ足取られて攻撃されそうだから、ラインハルト様には極力近づきたくないのよねえ。
「三年生は森の奥の少し強い魔物を狩るんだったな」
移動する三年生を見ながらヴォルフラムが言う。
「ええ。わたしたちの実習は成績は伴わないけど、三年生は持ち帰った魔石と魔物の素材で成績をつけるんだったわね。それが二学期末の評価の一つになるとかって聞いたわ」
「毎年無茶をする生徒がいて怪我人が出ているとも聞いた」
あら、そうなの。
怪我をするほど頑張るなんて、皆さんどれだけいい成績が欲しいのかしら……って、ん?
……怪我?
何かが頭の隅に引っかかる。
もうちょっとで思い出せそうなんだけど、思い出せない。
うーむと首をひねっていると、二年生が全員移動したのか、先生たちが「班ごとに分かれろ、移動するぞー」と声をかけた。
今から予定のスポットに移動して、班ごとに実習を開始するのだ。
弱い魔物を、班で合計三匹討伐したら終わりである。素材は捨て置いていいことになっていて(欲しければ持って帰れとも言われている)、三匹分の魔石を持ち帰ればオッケーだ。
わたしたちの班はヴォルフラムと言う主戦力がいるため人数は五人で、同じクラスのゲルダ・ベルゲン子爵令嬢と、違うクラスのイルメラ・ベル伯爵令嬢、ドミニク・アスマン子爵令息である。
小テストの点数は……悲しいかな、わたしが一番低い。
だけど、ヴォルフラムがいるおかげか、ゲルダとドミニクはわたしと似たり寄ったりの成績だもんね! これでわたしだけ落ちこぼれじゃないわ! ふははははは……って、虚しくなってきた。やめよう。
イルメラは、小テストで真ん中より少し上くらいの点数だった。
魔法の方は、ヴォルフラム以外は全員初級レベル。ま、イルメラは、初級レベルでもわたしよりはるかにいろんな魔法を使えるんだけどね。
ゲルダの方は、補助魔法に特化しているようで、攻撃魔法はファイアボールくらいしか使えない。
だけど、初級の風の防御魔法が使えるから、何かあった時に頼りになる。
ありがたいことに、女子二人はわたしを敵視していないタイプの子たちで、ちょっと遠巻きにはされているものの、悪意は感じなかった。
ドミニクの方もそんな感じなので、安心して実習に望めるわ!
……これを機にお友達になりたいけど、ど、どうしたらいいかしら?
話しかけたいな~とそわそわしながらも、チキンなわたしはなかなか女の子たちに話しかけられない。
目が合えば、ぎこちなくにこっと笑いかけてくれるので、わたしもにこっと微笑み返して……それだけ。うぅ……。
「マリア、しっかり足元を見て歩かないと転ぶぞ」
ちらちらと女子たちを見ていたわたしに気づいて、ヴォルフラムがそっとわたしの腕をつかんだ。
「ほらそこ、木の根が飛び出している。君は迂闊だからな。歩くことに集中した方がいい」
そうだけどっ! でもお友達大作戦がああああああっ!
ヴォルフラムがわたしを子ども扱いするから、未来のわたしのお友達(予定)がくすくす笑っているじゃないの。
結局女の子たちに一言も話しかけられないまま、わたしたちは森の中のちょっと開けたところに到着した。
ここからは各班で魔物討伐である。
引率の先生はこの場に一名、森の中のそれぞれのポイントに五名立っていて、何かあれば魔法具で報せるように言われていた。
緊急信号を発する魔法具は、代表してヴォルフラムに預けてある。
「この付近の魔物リストを見るに、スライム、一角兎、イエローホーンディア、グリーントード、あとは大ネズミか。この中で一番手こずりそうなのはイエローホーンディアだな」
ヴォルフラムが事前に配られて森の地図と魔物リストをみんなに見えるように広げた。
「今回は成績に関係しないから、手ごろな魔物を三匹狩ればいいと思うんだが、どう思う?」
うんうん、それがいいと思うわ。
いいカッコしようとして手ごわい魔物に挑む必要なんてないもの、成績関係ないんだから!
「あ、あの」
その作戦で行こうと頷き合っていると、ゲルダが手を上げる。
「手ごろな魔物を狩るという部分に異論はないんですけど、できれば素材が取れるものがありがたいです」
すると、イルメラとドミニクも頷く。
ヴォルフラムが顎に手を当てて考え込んだ。
「素材か。……まあ、売れば金になるからな」
ああ、なるほど!
学園に通う生徒たちの中には、もちろんあまり裕福でない貴族の子たちもいる。
そういう子たちは、実習の時などの魔物討伐で得た素材を換金してお小遣いにしているのだ。
リストの中で一番倒しやすそうなスライムは、討伐したら溶けてなくなるので魔石しか回収できない。だからスライム以外にしたいのね!
「社交シーズンがはじまるからな。王都でも、学園でも。……得られるときに素材を得ておいたほうがいいな」
社交シーズンは何かと入用になるからね。
学園内でも、お茶会に出席したりお茶会を開いたり。たまにダンスパーティーが催されたり。
もちろん実家からの支援は禁止されていないけど、支援の少ない生徒たちは今のうちに稼いでおきたいのだろう。
……マリアちゃんはそういうのとは無縁だったからね。
前世の記憶が蘇ってからはじめての社交シーズンだからわたしも失念していたわ。お金持ちならいざ知らず、そうじゃない生徒たちにとっては、華やかだけどシビアな季節である。
「そうなると、この中で一番儲かりそうな素材はイエローホーンディアか。グリーントードは魔石以外には肉くらいしか得られるものがないし、大ネズミの毛皮は安いからな。一角兎はまあまあだが……どうする? イエローホーンディアを三体となると、多少時間がかかるかもしれないぞ。探すのにも時間がかかるだろうし」
そこでこの中で一番手こずりそうな魔物を上げるのがヴォルフラムよね……。
手ごろな魔物を狩るという最初の言葉を忘れているとしか思えないわ。
とはいえ、お金が絡むからね……。自力で稼がなくてもいい恵まれた家庭環境にあるわたしが、とやかく口を出していい問題じゃないと思うのよ。
しかも、主戦力はヴォルフラムだから。
ヴォルフラムに決定権があると思うのよね。
ヴォルフラムは少し考えて顔を上げた。
「イエローホーンディアを探しつつ、見つからなければ一角兎を狩る。これでどうだ? それから、三
匹とは言われているが三匹以上狩ってはならないとも言われていない。時間ギリギリまで使ってできるだけ多くを討伐しよう」
すると、わたしとヴォルフラム以外がホッとしたような顔で頷く。
……もしかして、わたしが嫌がるとか思っていたのかな。いたのよねえ、たぶん。
なんたって、ついこの前まで我儘し放題だったマリア・アラトルソワである。わたしが嫌だと言えばそれまでだと緊張していたのかもしれない。
うぅ、過去の行いを反省しよう……。
わたしたちはヴォルフラムを先頭に、魔物討伐に出発した。
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