言いがかり 7
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本作①巻、12/25にオーバーラップ様で書籍化します(*^^*)
カバーイラスト公開OK出ましたので、あとがきにてご紹介しますね!
三日後。
嵐のせいでいろいろ散乱していたり、小型ボートとかがひっくり返っていたりした港が片付けられ、ようやくヒメル捜索の船が出せるようになった。
ギューデン伯爵は四十歳くらいのおじさんで、赤黒い髪にぎょろりとした黒い目をしている。
どことなくあの子爵令嬢に似ていなくもなかったが、こちらの方が目つきは悪い。
お兄様とヴィルマと一緒に港にやって来たわたしを、じろじろと不躾に眺めまわして、ふんっと鼻で嗤った。
わたしの隣のお兄様と、背後に控えているヴィルマの温度がぐぐんと下がった気がする。
……この人、自分の命が惜しくないのかしら。
わたしは自分が馬鹿にされたことよりも、どんどん機嫌が降下していく二人の方が気になりますよ。怖いです。
……ヴィルマあんた、約束通りあの短剣はホテルに置いて来たんでしょうね?
まあ、ヴィルマは魔法も得意だから、武器があろうがなかろうが関係ないのだけど。
出かけに、にこりと微笑みを浮かべたヴィルマが、まるで「お菓子を買ってきます」くらいの軽いノリで「沖合に出たら、ギューデン伯爵を船から突き落としますね」と言っていたことを思い出す。
……ねえヴィルマ。あれ、冗談だよね?
船が出たら、しっかりとヴィルマを見張っておかないと。というかギューデン伯爵に近づけないようにしないと。
ヴィルマは隙あらば率先してわたしを揶揄って遊ぶくせに、他の誰かがわたしを馬鹿にすると怒るのだ。特に、ルーカス殿下の子飼いでなくなってから沸点が低くなった気がする。何故だろう。
……わたし最近、ヴィルマとお兄様はセットにしたらいけない気がするのよね。
この二人の組み合わせは怖い。
ここにアレクサンダー様やヴォルフラム、ニコラウス先生たちがいたらきっと二人を諫めてくれるのに……。まあ、新婚旅行なんだから彼らがいないのは仕方がないのだけど、今日ほど誰か一人でもいいから来てほしいと願ったことはない。
うちの侍女と夫が海の上の完全犯罪とか起こしたらどうしよう……。
それでなくともお兄様は過去にもやらかしている。ボールマン伯爵や令嬢、それから彼に雇われていた男たちを、「殺さなければいいんだろう」というお兄様理論でめっためたにしたのだ。あれは恐怖だった。魔王降臨。いや、大魔王降臨。むしろ大魔王様の方が優しいかもしれない。
……まさかお兄様、ヒメルが見つかったとしても考えがあるって言っていたのは、ギューデン伯爵を抹殺するってことじゃあないですよね⁉ 違いますよね⁉ さすがに最後の一線は越えませんよね⁉
怖いから、ヴィルマを見張りつつお兄様にしがみついておこう。
お兄様の腕に腕を絡めると、お兄様がわたしを見下ろして目を細める。
「どうしたんだいマリア。船が怖いのか?」
いえ、あなたが怖いんですとは口が裂けても言えない。
わたしが「そうです」と頷けば、お兄様はとろけそうな微笑みを浮かべた。よくわからないが、お兄様の機嫌がいささか上昇したらしい。
……まあいいや、お兄様の機嫌がいいに越したことはないもんね。
それだけで、ギューデン伯爵への物理的な制裁の可能性が減るというものだ。
「よしよし、マリアのことは私が守ってあげるからね」
いったい何から守ってくれるつもりなのかはわからないけど、ここも素直に頷いておく。
「ありがとうございます、ジークハルト」
「私から離れないようにね。海に落ちたら大変だ」
いえお兄様、この船、かなり大きいクルーザーなので、ちょっとやそっとのことで海に転落することはないと思いますよ。
が、学習したわたしは、余計なことは言わない。
「わかりました、ジークハルトにくっついておきます」
わたしを恐怖から救えるのは、この場ではわたし自身しかいないのだ。船が港に戻るまで、わたしはお兄様から離れない。ヴィルマから目を離さない‼
「ちっ、公爵令嬢様はお遊び気分のようですが、遊びじゃないんですけどねえ」
ギューデン伯爵、余計なことは言わないでください‼ ほら、またお兄様とヴィルマの機嫌が急降下したじゃないですか!
「お嬢様、わたくしはいつでも動けますよ」
やめなさい! マジでやめてちょうだいヴィルマ!
動けますってあれでしょ? 船から突き落としますよってことでしょう⁉
「お腹をすかせた大型のサメとかがいてくれたら、チャンスなんですけどね」
ヴィルマーっ‼
お願いだから、ヴィルマもお兄様も、もっとわたしの心を労わって‼
海の中でスプラッタとか、恐怖でもう二度と海に行けなくなるようなことは、絶対にやめてちょうだい‼ お願いよおおおおおおおおっ‼





