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嵐 6

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 一夜明けても、わたしの頭からはあのイルカのことが離れなかった。


 あのイルカはどうなったのかしら。そればかり考える。

 昨日の夜もなかなか寝付けなくて、何度かお兄様が心配そうに声をかけてくれたけれど、瞼を閉じれば、剥製にされそうになるイルカの怯えた顔が瞼の裏に描かれるのだ。


 剥製にされると決まったわけではない。

 大切に可愛がられるかもしれないというのに、どうしようもなく不安になる。


 ……オークション主催者も主催者よ。大切に育てることっていう条件くらいつけなさいよね。


 毛皮のために動物を狩るのが許されている世界だ。

 貴族たちの狩りの文化も残っている。

 我がアラトルソワ公爵家は狩りを好まないため主催することも参加することも滅多にないが、貴族の中には領地に専用の狩場を持っている家も少なくない。

 王家だって狩場を持っているのだ。

 年に一度、王家主催の狩猟大会があり、普段は狩猟大会に参加しない我が家もこればかりは強制参加させられていた。


 ……魔物の狩りならいいのよ。でも、動物は……。


 魔物は増えるとスタンピードを巻き起こす。

 狂暴で人や家畜を襲うし、体内には魔石もあって、それはわたしたちの生活にはなくてはならないものだ。


 魔物はよくて動物はだめなんて差別だと思うかもしれない。

 実際同じ命だし、わたしも自分の考えは差別なんじゃないかなと思う。

 だけどこればかりは理屈じゃなくて――わたしは、無害な動物を、自分の快楽のために狩ったり、コレクションのために捕縛したりするのが嫌だし見たくないのだ。


 偽善者と言われればそれまでだけど、もやもやして仕方がないのである。

 部屋に運ばれて来た朝食をぼーっとしながら食べていると、テーブルを挟んで反対側に座っていたお兄様が肩をすくめた。


「マリア、スープがこぼれている」

「え? あ……」


 服は汚していなかったけれど、真っ白なテーブルクロスの上にスープが少しこぼれていた。

 わたしのためにデキャンタからオレンジジュースを注いでいたヴィルマが軽く眉を上げて、黙ってテーブルクロスを拭いてくれる。


「心ここにあらずだな。この提案はあまりしたくなかったんだが、仕方がない。……マリア。昨日のうちにオークションの主催者に例のイルカを飼育している場所を確認してきた。イルカの引き渡しは入札者が支払いを終えてからになるそうで、さすがに額が額なため、今日明日のことにはならないそうだ。それまでは飼育している場所にいるらしいが、行きたいかい?」


 わたしは驚いて顔を上げた。


「行きたいです!」

「行ったところで、私たちにそのイルカをどうにかすることはできない。それでも?」

「そ、それでも!」

「下手に情が湧けば余計につらくなるかもしれなくても?」

「はい!」


 お兄様はやれやれと息を吐いた。


「濡れてもいい格好に着替えておきなさい。食事が終わったら連れて行ってあげよう。だからここに出されているものはきちんと食べること。それからヴィルマ。今日は一緒に来なさい。マリアが暴走しないように見ておいてほしい。私も見ておくが、この子は何をしでかすかわからないときがあるからね」

「かしこまりました。ですがジークハルト様。わたくしは基本、お嬢様の味方ですよ」

「マリアに味方して飼育施設を破壊したら即刻クビにするがそれでも?」

「全力でお嬢様をお止めします」


 ちょっとヴィルマ手のひら返しが早いわよ!

 そしてお兄様、いくらわたしでもそんな無茶なお願いはしないわ!


 わたしはムッとしたけれど、ここでごねてイルカに会いにつれて行ってもらえなかったら困る。


 腑に落ちないと思いながら、わたしは冷めたオムレツにスプーンを突き立てた。





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