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嵐 5

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 巨大スクリーンには、目を疑いたくなるような色のイルカが映し出されていた。

 さすがのお兄様も絶句し、スクリーンに見入っている。

 生き物を会場まで運べなかったからか、イルカはどこかの湾か水槽にいるようで、飼育員のような恰好をした人がイルカの隣でにこやかに手を振っていた。


「あれ、本物でしょうか……?」


 わたしがぽつりとつぶやけば、お兄様が首を横に振る。


「わからないが、さすがにイルカに着色は無理だろう」

「そうですよね」


 ということは、あの色のイルカは本当に実在しているということでいいだろうか。

 それにしても、イルカが本日最大の目玉とは……。

 わたしたちは茫然としていたけれど、会場はひどい盛り上がりを見せていた。


「先日、このホテルのオーナーが偶然発見したイルカです! 推定二歳の雄のイルカでございます。競り落とした暁には、このイルカをどうするかは皆様の自由! 飼うもよし、魔法で剥製にするもよし! さあ、最初は一千万マルスから!」


 ……剥製って…………。


 前世の常識ではイルカを剥製にするのは無理だと思うのだが、この世界には魔法がある。おそらく海洋生物を剥製にする方法があるのだろう。

 しかし、そうだとしても、生きているイルカを剥製にするってあんまりじゃないかしら。飼うとしてもちょっと抵抗があるわよ。


 前世の水族館とかは生物の保護目的もあるし、それぞれの生物の飼育のノウハウがしっかりしている。

 けれども、今この場にいる人のどれだけがイルカに適した環境を用意し、きちんと飼育することができるだろうか。わたしはゼロ人だと思うわ。


 我がアラトルソワ公爵家でも無理だと思うもの。いえ、お金に糸目をつけずに巨大な水槽とか循環装置とかを用意すればあるいはいけるかもしれないけれど、大海原を悠々と泳いでいたほどの自由をイルカに用意してあげることはできない。

 どんなに頑張ったところで、イルカには不自由を強いるし、きっとあの子も仲間に会えず不幸せな結果になってしまうだろう。

 剥製なんてもってのほかだ。


「お兄様……、あの子を競り落として海に返してあげられませんか?」


 わたしがこっそり囁けば、お兄様は難しい顔で唸った。わたしがついうっかり「お兄様」と呼んだことは許してくれているようだ。


「競り落とすのは可能だろう。しかし、競り落とした後で海に逃がしたところで、また捕獲される可能性が高い。何度も網にかかるのはイルカの負担になるだろう。追いかけまわされる可能性もある」

「でも……」

「わかっている。正直、私もいい気はしない。……まったく方法がないわけではないが、さすがに私が自由にできる金と権限では無理だろう。父上を通さなくては」

「方法って?」

「この湾ごと買い取り、保護施設を作る。そうだな、沖合二百メートルあたりに常時結界を張り、イルカがそれ以上外に出られないようにし、湾内をすべてアラトルソワ公爵家のものとすれば、誰も手出しはできないだろう。特定の生物以外や船は自由に出入りできるようにするため、かなり大掛かりで細かい設定の結界を作らなければならないが、大変なだけで無理ではない」

「お兄様、それは非現実的だと思います」

「できないわけじゃない。かなり無茶な方法になるが、この島の領主には顔がきくし、父上も私も王家にはいくつか貸しがある。陛下の口添えがあれば可能だ」


 要するに、権力にものを言わせて強引に進めるってことですね。

 お兄様はあまり気が乗らない顔をしているので、本当に無茶な方法なのだろう。わたしもそう思う。けれど、そこまで無茶を通さなければあのイルカを守れないということなのだ。

 悔しいけれど、わたしたちには何もできない。

 わたしたちがこそこそと話している間にも、どんどん入札価格は競りあがっていた。


 やがて――


「二十四億三千八百万マルス! 二十四億三千八百万マルスで落札です‼」


 司会者が興奮した声を上げる。

 二十四億三千八百万マルスは、言わずもがな、今日のオークションでの最高額だ。

 まさか遠く離れたオークション会場でこんなやり取りがされていると思っていないイルカは、映像の中で飼育員から魚をもらって美味しそうに食べていた。


 願わくは――、落札した人が、あのイルカを大切に飼育してくれますように。


 わたしは自分の無力さに唇を噛みながら、じっとスクリーンを見つめていた。





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