嵐 4
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フライシャー子爵たちと談笑している間に、オークション開始の時間になったようだ。
客席の照明が少し落とされて、代わりに一段高くなっているステージが明るく照らされる。
司会者のアシスタント役なのか、妖艶なスリップドレス姿の女性が二人出てきた。
……なーんだ。バニーガールじゃないのか。
なんとなく、オークションと言えばバニーガールのイメージだったんだけど。わたしだけかしら?
わたしがそんなくだらない感想を抱いている間に、司会者がオークションの収益金の一部が海の清掃費用に当てられると説明していた。
この、一部っていうところが狡いわよね。具体的に説明しないんだもの。例えば金貨一枚だけであっても一部なのよ。
まあ、ホテルが主催しているのだからさすがにそこまでケチなことはしないと思うけれど。
オークションの一品目は、なんとかっていう年代物の壺だった。
わたしには小汚い壺にしか見えなかったけど、あっちこっちから声が上がるので有名なのかもしれない。
「四百五十万マルス! 四百五十万マルスが最後ですか?」
司会者が煽るような声を上げるけど……げ! あの小汚い壺に四百五十万マルス⁉
お金の価値は大体前世と同じで、一マルスが一円くらいだから、四百五十万円ということだ。あり得ない。
……アンティーク、怖い。
そう言えば前世でも、ただの茶色い色をした茶碗が何百万円とか付けられていたのをテレビで見たわ。わたし、一生かかっても……ううん、何度転生しても、アンティークの価値は理解できない気がする。
「おっと手が上がりました! 四百六十万ダルス! さあ、これが最後ですか⁉ いいんですか? いいんですね⁉」
司会者、うまいわね。入札しなくていいのかって強迫観念を植え付けるような絶妙な煽りだわ。
最終的にわたしにはまったく価値が理解できない古い壺は、四百八十五万マルスで入札された。買ったのは西の鉄道王である。あんなもの、どこに置くつもりだろう。
「続きまして――」
一品目から会場が白熱した空気に包まれてしまった。
司会者が目をギラギラさせている皆さんに向かって二品目を紹介する。
二品目、三品目と続き、四品目でついに来た。『イルカたちのダンス』の絵画である。
わたしの隣で、フライシャー子爵夫人が緊張したのかぴくっと震え、姿勢を正した。その表情はこわばっていて、じっと商品が運ばれてくるステージを見つめている。
……どうしても欲しいって気概が伝わって来るわ。
フライシャー子爵も妻の希望を叶えたいのか、緊張しているように見える。
お兄様が苦笑して、フライシャー子爵になにやら耳打ちした。どうやら、子爵の代わりに入札に参加するようだ。
……うん、お兄様なら安心ね。絶対競り落とすわ。しかも一番いい形で。
お兄様は計算高いので、じわじわと値を吊り上げつつも無駄に金額を跳ね上げたりはしない気がした。
何というか、真綿で首を絞めるみたいに競争相手の心を折りに行くのよ。絶対に。
お兄様が浮かべている余裕の笑みからも自信がうかがえる。というか、本気になったお兄様にかなう人なんてどこにもいないのよ。チートだもん。
しばらくして、カンカンッと入札の鐘が鳴る。
「五百九十万マルスで入札です!」
当初、もっと吊り上がるだろうと思われていた『イルカたちのダンス』を、容赦なく競争相手の心を折ったお兄様が五百九十万マルスで見事に競り落とした。
……皆様、ご愁傷さまです。
そりゃあねえ、値を吊り上げるごとにその上の金額をポンポンと笑顔で出されれば、競争相手も青くなるわよ。しかも相手はアラトルソワ公爵令息。勝てないと踏んで、次々に脱落して行ったわ。可哀そうすぎる。
まあだけど、フライシャー子爵も夫人もとっても嬉しそうだからいいんだけどね。競争相手は可哀そうだったけど、いいことしたわ~って思えるもの。
予定よりもはるかに安い額で入札できたからか、お兄様がフライシャー子爵に渡した小切手の金額の半分以上が残ったようなんだけど、お兄様はそのままその小切手を子爵に押し付けた。それを事業の足しにしてほしいって言いながら。
これでフライシャー子爵はお兄様に二つの恩ができたわけで……うぅむ、頭のいい人は、こんな風にして自分の都合のいい状況を作るのね。フライシャー子爵は今後お兄様に頭が上がらなくなるわよ。
なるほどなるほどと感心したわたしだけど、わたしでは逆立ちしたって同じことはできないわ。
一番の目的だった『イルカたちのダンス』を入札するという大仕事を終えて、わたしたちは安心して続きのオークションを見学する。
次々に大金が飛び出していくけれど、このオークションの収益ってどのくらいになるのかしら。オークションってすごいわね。
「それでは最後のシークレット商品のご案内です‼」
カタログに載っていたすべての商品の入札を終え、司会者が今日一番の大声を出した。
「皆様心の準備はよろしいですか? それでは、ご紹介いたしましょう! 最後の品はこちら!」
司会者が、魔法具の巨大スクリーンに手の平を向け――
「刮目してご覧ください! 伝説の、ロイヤルブルーのイルカです‼」
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「枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉」
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