精霊信仰 2
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……ちょっとどういうことかしら? 何でお兄様、あんなに強いの? いかさま? もしかしていかさまなの? そうとしか思えないんだけど!
何度やってもお兄様に勝てなくて、いつの間にかばらばらと人が集まりはじめたポーカーのテーブルで、お兄様は全戦全勝というとんでもない数字を叩き出した。
おおっとみんながどよめく中、一度も勝てないわたしは完全に不貞腐れて、やる気ゼロになってしまった。
……もうポーカーヤダ。というかお兄様と勝負するのヤダ。他に行きたい。
わたしがぶーたれていると、お兄様が苦笑して「ほかに行こうか?」と聞いてくれる。
いい質問ですお兄様。ぜひそうしてほしいです!
けれど、どうやらそうは問屋が卸さないようだった。
お兄様に負け越している他のお客さんたちが「もう一勝負」とお兄様に縋りついたのだ。負けたまんまで終われないと、皆さんが口々に騒ぎ出す。
……そう言うけどね、たぶん無理だよ。お兄様チートだもん。きっと神様から愛されているんだわ。だから何をしても勝てないのよ。
同じチートでもアレクサンダー様くらいならまだ心が穏やかでいられるかもだけど、お兄様は反則よ。なに? この世界の支配者とかなの? わたし、今ならお兄様が世界に君臨してもなにも驚かないわ!
お兄様が困った顔で、「いや、そろそろ」と言うけれど、目を血走らせた他のお客さんたちは意地でもお兄様を離さない。
仕方がないので、わたしはお兄様をこの場に残して他に行くことにした。
「わたしあっちのルーレットで遊んでいますね」
「マリア、私も――」
「逃がしませんよジークハルト様! さあもう一勝負‼」
逃げようとしたお兄様ががしっと腕を掴まれる。
お兄様は諦めたように肩をすくめた。
「わかった。じゃあ、そこのルーレットから動かないように。勝手にいなくなったら……わかっているね?」
「わ、わかっています」
わたしも自分が可愛いですからね。お兄様にお仕置きされるようなことはしませんよ!
わたしはお兄様からチップをもらって、ルーレットのテーブルへ向かった。
テーブルには赤と黒の数字が書かれている。
遊ぶ人はその上にチップを置いて賭けるのだ。
ルーレットのテーブルには、わたしのほかに四人の人がいて、お酒を飲みつつ気まぐれにチップを置いていた。
どこに賭けようかなと数字を見ていたわたしは、ふと、四人の中で一人だけ、賭け事を楽しむのでもなく、ただぼんやりとたたずんでいる女性がいることに気が付いた。
白いシンプルなドレスを着ていて、長い水色の髪が印象的な女性だった。すらりと背が高くて、華奢というか、儚げと言うか、そんな印象だ。
女性の手にはシャンパングラスが握られているが、中身はまったく減っていないように見えた。
ほかの三人の誰かの連れだろうか。
なんとなく見つめていると、女性がふとわたしに気づいたように視線を向けた。
……あ、目が金色。
綺麗だなと思っていると、女性は驚いたように目を見開く。
そしてにこりと微笑まれたので、わたしもにこりと微笑み返しておいた。
女性はしばらくわたしを見つめた後で、白い繊手ですっと赤の七番を指さした。
……ここに賭けろってことかしら?
チップを置こうとすると頷かれたので、そういうことかと思いながらわたしは手元に遭ったチップを二枚ほど赤の七番の上に置く。
女性はわたしの動作をじっと見つめたまま何も言わない。
全員がチップを置き終わると、ディーラーがルーレットにボールを転がした。
ころころとボールが転がって、やがて赤の七番の上で止まる。
……当たった。
びっくりして女性を振り向けば、微笑を浮かべてこくりと頷いた。
そして次は黒の三十三を指さす。
半信半疑で、今度はチップを五枚ほど乗せたわたしは、次も黒の三十三でボールが止まってギョッとした。
……え? このお姉さん、すごくない⁉
ポーカーで負けまくってすさんでいた気持ちがどこかへ飛んでいく。
女性が次に指さしたのは赤の十九だったので、またそこにチップを五枚乗せた。
次は、黒の二十六。その次が赤の一。
女性の指示通りにチップを積めば、面白いくらいに当たる。
……というか、こんなに当たっているのに、なんでみんなお姉さんが指さすところに置かないのかしら?
わたし以外のお客さんは、わたしが続けてあたりを出すからか、驚愕しているみたいだけど、全部お姉さんの指示通りですけどね。皆さんも見てたでしょう?
わたしの手元のチップがどんどん増えていく。
すっかり賭け事の魅力に取りつかれたわたしは、女性が指さした赤の九に、豪快にもチップの半分を載せた。
……さあ来い!
ころころとボールが転がる。
そして、赤の九の上に止まると、周囲からどよめきが起きた。
……なにこれ、快感なんだけど!
積みあがったチップにわたしのテンションがマックスになったとき、ぽんぽんと肩が叩かれた。
振り返るとお兄様が立っている。若干疲れた顔になっているのは、たぶん散々ポーカーに付き合わされたからに違いない。
「マリア、絶好調みたいだね」
「ふふふ、そうでしょう? まあ、絶好調なのはわたしじゃなくてあそこのお姉さんなんですけど……って、あれ?」
後でお姉さんにお礼を言って、勝ったチップの半分をプレゼントしようと思っていたわたしは、さっきまでいたお姉さんの姿がどこにもないことに気が付いた。
「お姉さん?」
「はい、そこに白い服を着たお姉さんがいたんですけど……あれ?」
首をひねると、お兄様が怪訝そうな顔をする。
「私は途中からお前の様子を見ていたけれど、あの場所に女性はいなかったよ?」
「え?」
驚いたわたしは、ルーレットのテーブルにいた男性を捕まえて、あの場に白いドレスの女性がいなかったかと訊ねた。
けれど、男性は不思議そうな顔で首を横に振る。
……え?
わたしはさーっと青ざめた。
も、も、も、もしかしなくても、お化け……。
思わず、お兄様の腕にわたしはひしっとしがみついた。
「お、お、おおおおお兄様、もうカジノはいいです。戻りましょう。早く戻りましょう!」
お兄様はわたしの異変を察したのか、「お兄様」と呼んでしまったにもかかわらずペナルティを要求しなかった。
わたしの肩を優しく抱いて、チップを交換所に持っていく。
お兄様に連れられてカジノから出るまで、震えが止まらなかった。
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