恐怖とドキドキの新婚旅行 5
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着ぐるみをリッチーのお土産にしようか本気で悩んだけど、お兄様に「邪魔になるからやめなさい」と言われてあえなく断念。
白い石畳の坂道を下りながら目につくお店に立ち寄ってお買い物をしていたら、お兄様が両手に大きな袋をたくさん抱える羽目になった。
わたし?
わたしは手ぶらです。
持とうとしたんだけど、お兄様が持たせてくれなかったの。
お兄様を荷物持ちに使っているみたいで心苦しんだけどね。
二時間くらい買い物をして、わたしたちは今、赤いハイビスカスが植えられている可愛らしいカフェに立ち寄った。
ちょうど、わたしたちのあとをついてきている護衛の交代の時間なんだって。
護衛の手が塞がったら意味がないと、お兄様は護衛にも荷物を渡さなかったんだけど、交代時間でホテルに戻ると言った彼に袋を渡してついでに運んでもらうことにしたようだ。
……これで手が空いたからまだ買えるよって、お兄様、もう充分買いましたよ?
とはいえ、わたしのことだから、また可愛いものを見つけたら「お土産」と言う理由をつけてぽんぽん買っちゃいそうな気がするんだけどね。
王都の高級店と違って、このあたりのお店はお安いから、気兼ねなくポンポン買えるというか……うーん、わたしもすっかり公爵令嬢の金銭感覚なのかしら? たぶん前世だったら、一個買うのもお値段を見てどうしようって悩んでいたわね。
「そう言えばマリア。さっきのハイビスカス柄の青いシャツは、何に使うつもりで買ったんだい? ずいぶんたくさん買い込んでいたようだが……」
「え? お父様とアレクサンダー様とヴォルフラムと、ニコラウス先生とヒルデベルトへのお土産ですけど?」
「……そうか。うん。可哀そうに…………」
何か言いましたかお兄様?
だって、ギリシャのサントリーニ島っぽいリゾート地にアロハシャツみたいなものが売られてたのよ? 面白いから買うでしょ? というかハワイ土産と言えばアロハシャツだったんだから、きっとあのシャツもここロンベルク島のお土産の定番なのよ! そうに違いないわ!
「まあ父上なら……、お前のお土産だったら泣いて喜んで着るだろうね。センスの欠片もないものであっても、たぶん……」
お兄様、しれっとアロハシャツをディスりましたか?
それともわたしをディスりましたか?
むっと口を尖らせたとき、店員さんが美味しそうなレモンタルトを運んで来た。
爽やかな味は、なんとなく「海~!」って感じがするわね。わたしだけかしら?
「それにしても、イルカが精霊の使いなんてはじめて聞きましたね、おにぃ……ジークハルト」
「そうだね。だが、信仰とは本来はその地に根付くものだからね。その土地その土地で信じられているものは何かしらあるだろう」
そういうものなのかしら。
でも、ウンディーネに使いがいるなら、サラマンダーにもいるのかしら?
ウンディーネがイルカならサラマンダーは何かしらね? トカゲとか?
「ロンベルク島の精霊信仰にご興味がおありですか?」
わたしとお兄様がレモンタルトを食べつつ話していると、水のお代わりを運んできてくれた店員のお兄さんが笑みを浮かべて話しかけてきた。
……あら、ちょっと日に焼けた野性味のあるイケメンさんね。
つい見とれていると、お兄様が低い声で「マリア」とわたしの名を呼んだ。
びくっとして慌てて店員さんから視線を逸らす。
……見とれていません、マリアは見とれていませんよ。わーイケメンさんだーとか思ってません。サーフィンとか似合いそうだなとか思ってません!
ちょっとお兄様狭量じゃないかしらと思わなくもないけど、新婚旅行で他の異性を見つめるのはまあ、あんまりよろしくはないわよね。反省。
お兄様が怖くて黙り込んだわたしの代わりに、お兄様が店員さんに話しかける。
「はじめて聞いたもので、少し」
「それでしたら、ここから西の方に十分ほど歩いたところに資料館がありますよ」
へー、資料館なんてものもあるのか。
って、当たり前かも。
前世でも、その土地その土地の歴史を集めた資料館はあったもんね。
ロンベルク島みたいに独自の精霊信仰がある場所なら、語り継がれてきたものも多いはずだ。
そこでわたしはふと、あることを思い出した。
……そう言えば、スマホに精霊を集めろとかなんとか書いてあった気がするわ。
サラマンダーと遭遇した日に拾ったスマホのブルーメのアプリを開いたら、そんなような指示が書かれていた気がする。
正直なところ、その指示に従ったからと言って何になるのかわからないし、従う義理はないのだけど、ついでだし、この土地でウンディーネ情報を調べてもいいかもね。
……というか、そうよ。サラマンダーが暴走したときのためにウンディーネ仲間にしておいた方がいいんじゃないかしら?
サラマンダーは火の精霊。
対してウンディーネは水の精霊だ。
万が一火事になったときに水の精霊は必要だろう。
……ま、サラマンダーを使う予定はないんだけどね。前みたいに死にかけたら怖いし。
スマホの指示はこの際どうでもいいが、身の安全のためにウンディーネを確保できるなら確保しておきたい。
って、四大精霊を「確保したい」なんて思えるわたしって、なんか図々しいわよね。本来精霊を目にすることすらないのにね。
「マリア、どうする? 昼食を食べた後にでも行ってみる?」
「そうですね。まだまだ旅行は長いですし、お土産ばかり買っても仕方がないので行ってみませんか?」
わたしが頷くと、お兄様が驚いたように目を丸くした。
「マリアが歴史に興味を示すなんて、昼から雨かな」
ちょっとお兄様、それ、どういう意味ですか?
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