恐怖とドキドキの新婚旅行 2
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ちょっとヴィルマふざけんなよ!
食事を終えて、お兄様が「一緒に」とふざけるのを顔を真っ赤にして「無理です!」と断ってバスルームに逃げ込んだわたしは、湯上りに用意された夜着を見てイラッとした。
お兄様はわたしと入れ替わりでお風呂に入っている。
バスローブ姿のわたしの目の前に広げられているのは、隠す意思が感じられないうっすいぴらっぴらのナイトウェアだった。
その横でおすまし顔で立っているヴィルマの頭を、思いっきりひっぱたいてやりたくなる。
だってこれ。これ――
「これ、リッチーがプレゼントしてきたヤバいやつじゃない! 持ってくるなって言ったでしょ⁉ なんで持って来たの⁉ おいこらヴィルマ笑って誤魔化すんじゃないわよ‼」
そう、この、花嫁のベールよりも透けている夜着をわたしは知っている。
リッチーが「どんな夜だったかあとで教えてね♡」というふざけたメッセージカード付きで送りつけてきた結婚祝いの品である。
スキンヘッドのいかついおっさんが何を考えているんだと思いっきりののしりたいが、リッチーは出会ったときからあれが平常運転なので文句も言えない。
「置いていけっていったでしょ!」
「大丈夫ですお嬢様。お嬢様は無駄にエロい体型なので似合います」
「そういう問題じゃないわー‼」
ぐっと親指立てんじゃないわよ‼
そしてマリアがエロい、というか見事なプロポーションをしているのはわかっているわよ!
だからこそ、こんなものを着たらヤバいことになるんでしょうが‼
わたしは怒っているのに、ヴィルマは聞き分けがない子を見るような目を向けてきた。解せないんだけど‼
「奥様が、せっかくだから入れて置けって。これで盛りあがって孫が早く生まれたら万々歳だからっておっしゃっていました」
「お母様ああああああ‼」
元凶は母親だったよ!
「ちなみに、他のナイトウェアもここまでではないですがスケスケですよ。何せ奥様が全部用意されましたから」
「わたしが用意した分は⁉」
「ああ、奥様が――」
ヴィルマが、ばさ~ってトランクをひっくり返すジェスチャーをする。
……やりやがった、やりやがったわお母様め! そしてそれを黙って見ているヴィルマもどうなのよ! 少しは主人の貞操を守ろうという気害はないわけ⁉ ああいや、新婚旅行で貞操を守るって矛盾しているんだろうけども、でもね!
わたしはへなへなとその場に崩れ落ちた。
どうすればいいの、これ。透けてる夜着しかないって、わたし、絶体絶命じゃない?
「あ、ちなみにリボンもありますよ。奥様がプレゼントのようにお嬢様をラッピングしろとおっしゃっていました。ご自身の新婚旅行で演出に使ったのだとか」
「そんな話聞きたくなかったわ‼」
何が楽しくて両親の赤裸々な話を聞かされなきゃならんのだ!
というかその幅の広いリボンは特注か? 特注なのか⁉ わざわざこのためだけに特注したのかお母様は!
頭を抱えるわたしに、ヴィルマはさっと二つ折りのカードを取り出した。
『マリアちゃん。素敵な夜を過ごしてね! 新婚旅行の思い出は一生の宝ものよ。お母様より』
ヴィルマの淡々とした声で朗読されたカードの内容に、わたしは灰になりかけた。
「『――追伸。はじめは女の子がいいってパパが言っていたわよ~』だそうです」
「よしヴィルマ、今から帰ろう」
「ちょっと何言っているのかわかりません。新婚旅行は四週間ですよ。そんなことをしたら、わたくしがジークハルト様に殺されるじゃないですか。やっと殿下からも解放されて、これで心置きなくお嬢様で遊べ……いえ、お嬢様のお世話ができるのに、死にたくありません」
おい、今遊べるって言いかけた? ねえ、言いかけたわよね?
というかあんた、今までだって散々わたしで遊んでたわよね?
わたし、今日ほどあんたが侍女でいいのか不安になったことはないわよ。
「ヴィルマ、他に何かないわけ⁉」
「ビーバーの着ぐるみならありますよ」
「逆に聞きたいけどなんでそんなものがあるの⁉」
「お嬢様が媚薬をいらないとおっしゃったので、代わりの結婚祝いのプレゼントを買いにリックさんのお店に行った時に買いました」
「買うなよ‼ まさかそれがわたしへのプレゼントだって言わないでしょうね⁉」
「いえ、これはおまけです。プレゼントはこちらでございます」
ヴィルマはピンク色をしたガラス瓶を取り出した。
「あら綺麗ね。香水かしら? ありがとうヴィルマ、大切に使――」
「いえ、避妊薬です」
ヴィルマ。
ねえ、今すぐさっきの感動を返してくれるかしら?
受け取った体勢のまま、さてこれをどうしたらいいのかしらと固まっていると、ヴィルマがまるで聖母のような微笑みを浮かべて、そして――
「お嬢様は学園を卒業なさりたいのだと思いますので、今できたら困るでしょう?」
………………。
わたしは、怒ったらいいのかしら。それとも悲しめばいいのかしら。それとも……。
「感謝は結構です」
「するかー‼」
わたしはピンク色のガラス瓶をヴィルマに突き返した。
「ふざけてないでもっとまともなナイトウェアを出しなさいよ‼ お兄様が萎えそうな分厚いやつがいいわ! 侍女ならわたしの貞操を守るくらいしなさいよ!」
「新婚旅行で貞操守ってどうするんですか?」
「いいからっ‼」
ヴィルマはやれやれと嘆息して、それからしれっとビーバーの着ぐるみを――
「これなら、確実に萎えると思います」
こいつ、確信犯なんじゃないかしら?
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