お兄様と結婚式と 4
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パイプオルガンの荘厳な音色が響いている。
結婚式の種類っていろいろあるけど、ポルタリア国では父親と一緒にバージンロードを歩くのが主流なのよね。
一人で参列客の間を歩いていけと言われなくて本当によかったわ。そんなことになったら膝が震えてカクンってなりそうだし。さすがに花嫁がバージンロードで転んだら恥ずかしいわよ。特にわたしの場合は過去にいろいろやらかしすぎてるから、絶対に笑われると思うもんね!
ゆっくりと両開きの扉が開いて、広い大聖堂が姿を現す。
左右の椅子には、ずらりと参列客の姿があった。
これはお兄様やお父様、お母様の人望だってわかっているけど、大勢の人に祝福されている気がしてとっても嬉しい。ついでに滅茶苦茶緊張するわ。
……かぼちゃじゃがいもさつまいも‼
ここにいる人は全部かぼちゃや芋だと自分に言い聞かせても、人の顔が芋に変わることなんてないわよね。
どれだけ念じても緊張はどこにも消えなかったわ。
パイプオルガンの重低音が、心臓を震わせる。
お父様にエスコートされて、ドレスの裾を踏まないようにゆっくりと足を前に出した。
祭壇前では、純白のタキシード姿のお兄様が柔らかく微笑んで立っている。
……改めてみると、本当にイケメンねお兄様ってば‼
今日のお兄様は、青銀色の髪を後ろになでつけている。
髪を後ろになでつけたお兄様って、毎日のようにその顔を見ているわたしですらドキドキするほど色っぽいのよ。
結婚式なのに、わたしガン無視でお兄様をぽーっと見つめている令嬢が、一、二、三……くそう、数えきれないほどいるわ!
わたしよりお兄様が注目されているとわかると、なんか、途端に冷静になれる気がしてきたわ。
バージンロードを進んでいくと、祭壇に近いところにアレクサンダー様やヴォルフラム、ニコラウス先生、ホルガー政務次官の姿があった。アグネスもいるわ。ピンクのドレスが可愛らしい!
最前列には国王陛下夫妻とルーカス殿下、ブリギッテの姿がある。
ブリギッテはわたしの瞳の色のような紫色のドレスだわ。白いハンカチを噛みしめながら涙目になっているのは……うん、見なかったことにしよう。
祭壇前に来ると、お父様がわたしの手をお兄様に渡す。
お兄様の腕に手を添えて正面を向くと、パイプオルガンの音が鳴りやんで、司祭が口を開いた。
「はじまりは、一本の大樹でした。天と地を貫く世界樹は我らをはぐくみ、導き、守り……」
結婚式でいきなり世界の成り立ちが語られはじめたのにはびっくりしたけど、この世界ではこれが普通みたいよ。
人は世界樹から生まれて、世界樹に見守られて生きる。
世界樹のために愛をはぐくみ生を繋ぎ、結婚式はそのための儀式の一つ。
要約するとそんな話が続いて、ようやく耳なじみのある「やめる時も健やかなるときも~」というくだりがはじまった。
どうしてこういう気持ちになるのかはわかんなかったけど、「誓います」って言葉を口にした時、まるで今までの自分が終わって新しい自分になるような不思議な気がした。
お兄様がわたしのベールをそっと持ち上げる。
ベール越しじゃなくて、直接視線がからんで、そこでわたしはハッとした。
……って、ちょっと待って! もしかしなくても誓いのキスあるの⁉
お馬鹿なわたしは、想像すらしていなかったよ!
待って待って待って、お兄様とキス⁉
ぶわわっと顔が真っ赤になって、結婚式の最中だというのに逃げ出したくなった。
だけど、逃げ腰のわたしの背中にはお兄様の手が。
……さ、さすがはお兄様、わたしが逃げると思って先手を……!
誓いのキスから逃げ出した花嫁なんて前代未聞もいいところだから、お兄様が許すはずがない。
そして誓いのキスをしなければ結婚式は終わらないから、腹をくくるしかないのだけど。
……心臓が、ばっくんばっくん言ってますよ! 壊れる、壊れるよ~‼
おそらく涙目になっているだろうわたしに、お兄様がくすりと笑う。
パニックを起こしている花嫁を見て笑うなんてお兄様、意地悪ですよっ。
そして、見つめあうこと数秒。
わたしには時間が止まったように思えたけど、そんなはずもなく。
ゆっくりと上体を倒したお兄様が、わたしの唇に優しく触れた。
わたしが倒れないように配慮してか、触れたのは一瞬だったと思うけど、もうわたしの頭の中はゆだる寸前だ。
「マリア、退場までが式だよ」
お兄様が耳元でささやいたけど、もはや半分魂を飛ばしかけていたわたしは、もはや立っているだけで精いっぱいだった。
だからだろう。
お兄様が「仕方のない子だね」と笑って、ふわりとわたしを抱き上げて。
きゃーっと、結婚式とは思えない悲鳴のような歓声が、会場内のあちこちから響いた。
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※次は諸事情があって3/6に更新します(;'∀')
次で第一部ラストです!