お兄様と結婚式と 1
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ふふふふふ、みなさ~ん!
マリアは、マリアはやりましたよ~!
全教科、追試なしですよ~‼
徹夜してよかった!
ありがとう、ヴィルマ! あんたのおかげよ‼
何とかお母様から大目玉を食らう危機を脱してひと安心だわ。
あとは夏休みを迎えるだけね!
期末試験の発表が終わったら、最後にホームルームがあって夏休みに突入だ。
ごく一部の学生は夏休み期間中も寮で生活するから、寮自体は閉められないけど、ほとんどの人は荷物をまとめて家に帰る。
もちろん、わたしもね!
「ハイライドは我が家に行くのははじめてね」
ヴィルマが荷物を整理してくれている間、わたしはこそこそっと鳥かごの中のハイライドに話しかけた。
今日は王都のアラトルソワ公爵家に移動なので、ハイライドには鳥かごの中に入ってもらっている。
ハイライドが妖精であることは、アラトルソワ公爵家の中ではわたし以外にはお兄様しかしらない。
資格持ち以外にはカナリアにしか見えないので、さすがに肩に乗せて馬車に乗るわけにもいかないのよね。
「俺はクッキーがあればそれでいいぞ」
すっかりクッキーが主食になっちゃったわね。妖精ってクッキーが好きなのかしら?
夏休みが終われば衣替えもするから、寮に持って来ていた服はほとんど持ち帰ることになる。
ヴィルマがせっせとトランクに服を詰めていて、とっても忙しそうだから、「手伝おうか?」って言ったら「むしろ邪魔」って言われたわ。
ヴィルマ、わたしだってね、トランクに服を詰めるくらいはできるわよ!
とはいえ、ヴィルマはヴィルマなりに考えながら詰めているみたいだから、わたしが手を出すとごちゃごちゃになるんだろうけどね。
「ああお嬢様。結局一度も袖を通さなかったこちらの悩殺ランジェリーはどうしますか? ジークハルト様との初夜で使いますか?」
「しょ……! 使わないわよ‼」
すっけすけのランジェリーを手に、なんてことを言うのかしらヴィルマってば!
第一、お兄様とわたしは契約結婚だから初夜なんてないわよ! あったらわたし、卒倒するわよ! ないないないってばないのっ!
「そんなもの、処分よ処分っ」
「お嬢様が気に入って買ったんじゃないですか。店主のリックさんが泣きますよ」
そうだけど、そうじゃないのよ!
もうわたしは、以前のマリアじゃないんだから、そんなものを着て体当たりなんて絶対にしないの! 何と言っても、前世は奥ゆかしい日本人なのよ!
ついでに人生イコール彼氏いない歴の恋愛偏差値ゼロのわたしに、なんてものを見せるのか!
「お嬢様、外見だけはいいですから、似合うと思いますよ」
「似合ってたまるかっ」
それから「外見だけ」ってなによ、「だけ」って! たとえそれが真実だとしても、言い方!
まったく、ヴィルマが余計なものをトランクに詰めないように見張っておかないと!
「そう言えば新婚旅行では海の近くのリゾート地に行くんでしたね。ということは、例の水着の出番……」
「ヴィルマ、それまだ捨ててなかったの⁉」
オリエンテーションでルーカス殿下を悩殺しようと買った布面積の恐ろしく少ない水着が登場して、わたしはくらりと眩暈を覚えたわよ。
鳥かごの中でハイライドが「大胆だな……」とドン引きしているじゃないの!
「そんなもの、絶対に着ないわよ!」
「ジークハルト様はお喜びになるのでは?」
「むしろあきれられて揶揄われる落ちしか見えないわ!」
ああもう、荷物を整理するのを見ているだけなのに、なんでこんなに疲れるのかしら?
わたしがぎゃーぎゃー文句を言うと、ヴィルマが「お嬢様も大人になったんですね」なんて変な感心の仕方をしているけど、大人以前の問題でしょうよ!
わたしがぐったりしていると、ヴィルマが思い出したようにエプロンのポケットから小さなガラス瓶を取り出した。
「そうそう、お嬢様のために媚薬を買ってきましたよ。わたくしからの結婚のお祝いです」
わたしは赤くなっていいのか青くなっていいのかわからずに、ヴィルマを力いっぱい怒鳴りつけた。
「絶対に、いらないわ‼」