期末試験と謝罪 1
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あれからすぐにお城で話し合いの席が設けられたのだけど、わたしは呼ばれなかったので参加はしなかった。
陛下とお父様とナルツィッセ公爵、それからルーカス殿下とお兄様とアレクサンダー様の六人での内輪の話し合いがもたれたらしいわ。
……まあ、会議なんてできないわよね。そんなことをすれば、殿下の立場がものすごく悪くなるもの。
陛下は今回の件を「行き過ぎた行動」とし、重く受け止めたそうだけど、だからと言って息子を窮地に追い込みたいわけではないのだろう。
公にはせず、ルーカス殿下にはこれ以上令嬢たちの私生活を暴かないようにと厳重注意ですませられた。
ただし、ナルツィッセ公爵家とアラトルソワ公爵家が、今後ルーカス殿下の味方に付くとは思えないので、殿下にとっては今回の行動は手痛い失敗になるわね。
陛下からも、同じようなことをすれば王位継承の剥奪もあり得ると叱られたらしいし。
ちなみに、今回の件で、ナルツィッセ公爵はアグネスを殿下の婚約者候補から外してほしいと陛下にお願いしたらしいわ。そして陛下も、アグネスの心情を考えて、当然だろうなと了承したそうよ。
それからラインハルト様だけど、殿下に協力していたことがお父様であるグレックヒェン公爵にばれてかなり厳しく怒られたみたいよ。
夏休みの間は領地で監視をつけて謹慎させるんですって。
……なんか、今回の件でいらない恨みを買った気がしなくもないけど、何度も言うけどわたしは悪くないわよね?
こういうのが、悪役令嬢候補の悲しい性なのかしら。
何でもかんでもわたしが悪いみたいになるのは、本当に勘弁してほしいわ。
とりあえず、今回のことはお父様たちを交えた話し合いでいったん解決となったわけだけど、期末試験前にバタバタするのは困るわよねえ。
おかげで全然勉強できなかったじゃないの。
まあ、勉強したところでどこまで学力が底上げできたのかはわからないけどね。
「お嬢様、今更詰め込もうとしたところで無駄だと思いますよ」
明日からの試験。
できるだけ頭に知識を詰め込もうと机に向かっていると、ヴィルマがあきれ顔で言った。
ヴィルマは相変わらずだ。
ルーカス殿下と裏でつながっていたとばれてからも、全然態度が変わらない。
まあ、わたしとしてはそっちの方が気まずくなくていいんだけど、たまに、ヴィルマの図太さがうらやましくなるわよ。
「そう思うならちょっとは協力しなさいよね! もとはと言えば、あんたのせいでもあるんだから!」
「わたくしのせいではなくて殿下のせいでは?」
こいつ、しれっと責任転嫁したわね。
ヴィルマは家族を養わなくてはいけなかったし、身分的に王子からの誘いは断れなかったでしょうけど、でも、ちょっとくらい責任を感じたらどうなのかしら?
まあ、それでこそヴィルマって感じがするけどね。
そしてわたしは、ヴィルマのこういう図々しいところが嫌いではないのよね。たまに腹は立つけど!
ヴィルマは机の上に紅茶の入ったティーカップを置いて、わたしの手元を覗き込む。
「わたくしのせいではありませんが、お手を煩わせたことは認めますのでちょっとだけ助言いたしましょう」
ヴィルマめ、わたしのせいじゃないってまた言ったわ。どれだけ強調したいのかしら。少しは反省しろ!
「試験範囲は?」
「そこにメモしてあるわ」
ヴィルマはわたしがメモした試験範囲を確認すると、机の上に広げている教科書を指さした。
「ここと、それからそこ、このあたりが出るんじゃないですか?」
「あんた、この学園に通ってないくせによくわかるわね」
「この学園に通っていなくとも、わたくしは旦那様に教師をつけていただきましたから」
ああ、そう言えばそうだったわね。
貴族令嬢の中でも、ヴィルマのように早くから侍女として働いている人もいる。
そういう人たちは仕事が優先になるから、貴族学園に入学する年齢になっても、入学せずに仕事に専念するパターンが多い。
その間休職して学園に通う人もいるけど、ヴィルマの場合は家のために働いているから、学園に入学しないことを選んだのよね。
お父様はどっちでもよかったみたいだけど、ヴィルマを採用する時に本人が学園に通わないことを希望したと言っていた。学園に通うのにもお金がかかるからね。
だからお父様は学園に通わない代わりにヴィルマに教師をつけて上げたのよね。
一年間だけだったけど、ヴィルマは優秀だから、学園で学ぶ基本的なことはその一年でほぼマスターしちゃったと言うわけよ。
……くそぅ、ハイスペック、羨ましいわっ!
「お嬢様、それからここ、間違っています。原初の巨人はユミルです。ミルクではありません。どうすれば間違うんですか」
ぐはぁ!
「大丈夫ですか、お嬢様。夏には結婚式があるのに、追試とかになったら予定が後ろ倒しになって大変ですよ。奥様が激怒なさると思うのですが」
う、うるさいわね! だからこうして勉強してるんじゃないのっ!
お兄様もヨルク様から頼まれた魔石から映像を抜く魔道具の研究とか、ルーカス殿下のせいでお城に呼びだされたりとかお父様と今後我が家がどういう対応を取るのかとかの話し合いで忙しくて、お勉強を教えてくださいって泣きつけなかったのよっ!
「はあ、そんなことになったらわたくしのせいにされるんでしょうから、今回は特別に試験に出そうなところをピックアップして差し上げます。はあ、ダメな主人を持つと大変です」
一言余計‼
「って言うか、今回は、じゃなくて毎回協力したらどうなの?」
一応あんた、わたしの侍女でしょう? 主を助けるのが侍女の仕事でしょう⁉
「毎回甘やかすのはお嬢様のためになりませんからね」
「あんたがいつ甘やかした⁉」
むしろ、言いたい放題言ってわたしの精神力をごりごりと削っているわよね?
「失礼な。わたくしはお嬢様には甘いですよ」
どうだか。
まあいいわ。今は言い争っている場合じゃないもの。
ヴィルマがわたしの隣に椅子を持ってくる。
「ここで重要なのはこのあたりですね。たぶん間違いなく試験に出ます。あとは……」
口は悪いけど、頼りになるわねちくしょうっ。
わたしがヴィルマに教わりながら頭に知識を詰め込んでいる側で、ハイライドがクッキーをかじりながら「人間って大変だな」なんて言っている。
ということは、妖精の王子は勉強をしなくていいのかしら?
なにそれ、羨ましい‼