突然の言いがかり 3
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唖然という言葉は、今日のためにあるものだったのね。
ルーカス殿下ってば、突然何をわけのわからないことを言い出すのかしら?
あんぐりと口を開けるわたしの横で、アレクサンダー様もあきれ顔をしている。
「……殿下の疑心暗鬼も、ここまでくれば病気ですね。一度ホルガー侍医長に診てもらったらいかがですか?」
ちょ、アレクサンダー様、辛辣! 相手は王子だから~! 気持ちはわかるけど~‼
ルーカス殿下がムッと眉を寄せている。
ラインハルト様が何かを言いかけて、アレクサンダー様に睨まれて押し黙った。
……えっとぉ……、わたしも何か言った方がいいわよね。だって、殿下はわたしに問いかけたんだもんね? 黙ってたら肯定していると思われるわよね? でも、あまりに予想外のことを言われて、わたしの頭の中は真っ白ですよ。
「あ、あの……、殿下がどうしてそのようなことをおっしゃられるのか理解できませんが、わたしは殿下の王位継承を阻むつもりはございませんよ?」
というか、わたしごときが浅知恵を働かせて何かしたところで、そんな大それたことはできませんよ。ルーカス殿下はわたしのスペックを買いかぶりすぎています。万年落第生のようなわたしに、そんな高度なことができるはずないでしょう?
だけど、わたしのこの答えは、殿下のお気に召さなかったらしい。
「君とナルツィッセ公爵令嬢がブリギッテとお茶会をしたことは知っているんだよ。そのとき、盗聴防止の魔道具が使われたこともね」
……あ~、あの魔道具! あれのせいで逆に怪しまれたってわけね。
ブリギッテとルーカス殿下が仲が悪いのは周知の事実だ。
そして、王位継承を水面下で争っているのもまた、周知の事実である。
ルーカス殿下としては、今まで殿下を追いかけまわしたわたしが急におとなしくなったから、妃になることを諦めてブリギッテについたと疑っちゃったのね。
もともとわたしはブリギッテと仲が良かったし、疑いたくなるのもわからないでもないけど……。
……でもさ、殿下が王位継承に王手をかけられない理由は、ブリギッテの存在だけじゃないでしょう?
陛下は確かに、ブリギッテとルーカス殿下のどちらを王にするかで悩んでいる。
でもそれは、殿下が「聖剣」に選ばれていないからだ。
ポルタリア国の城の地下には、聖剣が置かれているのよ。
あの聖剣は、ポルタリア国を建国した初代国王の持ち物で、代々の王に引き継がれて来た魔道具の一種だ。
平和な今の時代に聖剣が必要になることは早々ないけれど、ポルタリア国の王は代々、聖剣に選ばれたものがなると決まっている。
だから、第一王子であるルーカス殿下は聖剣に選ばれさえすれば、王位継承に王手というわけ。
でも、いまだに殿下は選ばれていない。
もちろん、ブリギッテも選ばれていない。
というか、ぶっちゃけると、城の地下にある聖剣は偽物だから、選ばれる以前の問題なのよね。
もちろん、あの聖剣が偽物だってことは、誰も知らない真実だ。
わたしはゲーム知識があるから知っているだけなんだけど、あの聖剣は、現王の末弟がすり替えちゃったのよね。
現王の末弟は病弱で、それゆえ王位継承順位も与えられなかった。
そのことを恨んでいた末弟は、死ぬ間際に地下の聖剣を盗ませて、とある場所に隠したの。
そしてその聖剣を探し出して聖剣に選ばれることこそ、ゲームでのルーカス殿下ルートのストーリーってわけ。
……だから、この場ではそんなこと教えられないでしょ? ついでに、そんなことを言えばどうしてお前が知っているんだって、今度はわたしが難癖付けられて疑われるのよ。
そんな危険は冒したくありませんからね。
アレクサンダー様やヴォルフラムのときのように、人的な被害はないんだから、わたしはゲームのストーリーを妨害するような手出しはしたくない。
ルーカス殿下はゲーム初期の攻略対象の一人だし、メイン攻略対象だから、ヒロインが殿下と恋に落ちる可能性が高いじゃない?
もっと言えば王子と王女だもの、そうなるのが自然だと思うわけよ。なんとなく。
だから、ルーカス殿下のルートだけは、絶対に妨害したくないのよ!
わたしは「今度こそ攻略対象の攻略ルートをそのまま残す!(ただし悪役令嬢であるわたし以外)」という目標を胸に、ルーカス殿下に向き直った。
「おっしゃる通り、盗聴防止の魔道具は使われました。ですが、殿下の王位継承を阻む算段をしたわけではございませんよ」
「では何の話をしたんだ」
……え~、それ聞いちゃうの?
この様子だと、ナルツィッセ公爵家はまだ王家に苦情を入れていないんだろうな。
だから殿下は、わたしやアグネスの私生活を探らせていたことを知られていないと思っているはず。
ここで暴露しちゃっていいのかしら?
それ、気まずくない?
わたしも、殿下もさぁ?
どうしたものかと悩んでいると、逆に怪しまれてしまったみたいで、殿下がじろりと睨んでくる。
いつも微笑んでいる人に睨まれると、ものすっごく怖い。
……これ、言わないとどんどん疑われるパターンよね?
でも、言ったら言ったで、それもまたまずい空気になる予感がプンプンするわよ。
「あの、殿下……、何の話をしたのかお伝えするのは構いませんけど、それを言うと殿下が困ることになるかもしれませんよ」
「僕の何が困ると言うんだ。僕に困ることは何もない」
あら、言いきっちゃったわ。どこから来るの、その自信。
もしかしなくても、妃候補に挙がっている令嬢の近辺を探られていたことに気づかれるはずがないと高をくくっていらっしゃる?
……ああもう、知らないわよ~、わたし。
わたしはちゃんと警告したもんね。
だからわたしは何も悪くないもんね!
殿下のためを思って黙っていることが馬鹿馬鹿しく思えてきて、わたしは正直に話すことに決めた。
「じゃあお答えしますけど、あの日、ブリギッテ王女殿下とアグネス様とお話したのは、殿下が妃候補のご令嬢たちの私生活を探らせていた件についてご相談を受けたからです。わたしや、アグネス様の近辺も探らせていましたよね? これについて、どうすべきかブリギッテ王女殿下が悩まれていらっしゃったんですよ!」
はあ、言ってやった~!
すっきり~と額の汗をぬぐうふりをすると、目の前で、ルーカス殿下が青を通り越して白くなっていた。
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