生徒指導室の常連 3
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「ですが、光魔法ですよ。研究者が食いつくのは間違いないですし、伝説上の資格持ちが現代にいるのですから、魔法研究も飛躍的に進むと思うのです。それを黙っておくなんて……」
ニコラウス先生がものすごく葛藤していらっしゃる。
お兄様が、にこりと笑った。
「魔法研究は進むかもしれませんが、マリアが王妃になったら国が滅びますよ」
お兄様、それは言い過ぎではありませんか?
さすがにムッとしていると、アレクサンダー様がお兄様に援護射撃を放った。
「資格持ちがいるなんてことが国外に知られたら、間違いなくマリアを欲しがるはずです。マリアは戦争の火種になりますよ」
ちょっと、わたしが悪いみたいに言わないでくださいよ。
「アレクサンダー先輩に同意します。マリアを欲しがる国は一国にはとどまらないでしょう。この大陸のすべての国から集中砲火の憂き目にあいますよ。そうなれば国は亡びるでしょう」
ヴォルフラムまで国が亡びるって言ったあ!
……ひどい、ひどすぎる。みんな、もっとわたしに優しくてもいいと思うよ!
悪役令嬢候補とはいえ、わたしまだ、ヒロインに何もしてないのに!
ニコラウス先生はものすごく悩まし気な顔で唸っている。
「……ですが私も教師として、そして一研究者として、光魔法についていろいろ知りたいのですが」
先生、それが本音ですか?
わたしの身の安全より研究ですか?
それはそれでひどくないですか⁉
ここにわたしに優しい人は一人もいないのかもしれない。
泣きたくなっていると、アレクサンダー様がニコラウス先生にいい笑顔を向けた。
「ほかに黙っているだけで、マリアから話を聞いてはいけないというわけではないと思いますよ」
訳・内緒にしていれば、マリアから情報をもらってもいいんじゃない?
ってところかしらね。
するとニコラウス先生がぱあっと顔を輝かせた。
「そうですよね⁉」
そこに食いつくんですね、先生。
陛下に内緒で研究するって、それはそれでどうかと思うけど……うん。余計なことは言わないよ。せっかく内緒にって方向で話が進んでいるからね。
……というか皆様、わたしに意見は聞かないんですか~? 聞かないんですね~。くすん。
「それでマリア。光魔法が使えたということは、お前の側に妖精がいるんじゃないのかい?」
想像していた通り、お兄様がそこを突っ込んできた。
事前にハイライドに相談したんだけど、お兄様やアレクサンダー様たち相手に下手に隠そうとする方が危ない気がするという意見に落ち着いた。わたしの嘘なんて簡単に見破って、絶対にわたしの周辺を探ろうとするからね。
そうなると、わたしが突然飼いはじめたカナリアの存在を疑うのも時間の問題だ。
だったらはじめから白状しておいた方が、被害が少ない気がするとハイライドが言ったのだ。
白状したところで、お兄様たちには妖精は見えない。ハイライドが妖精の世界の王子だとかは伏せておくけど、わたしの側のカナリアが妖精だというのは話しておくことにした。
「そうですね! その通りですよジークハルト君! マリアさん、妖精が近くにいるんですか?」
……まあわたしも、ニコラウス先生がここまで食いついてくるとは想像していなかったけどね。
研究者って、探求心が旺盛よね。
外見はちょっとクールで、その実、穏やかでとっても優しいニコラウス先生が、まるで別人のように熱くなっていらっしゃるわ。
アレクサンダー様が苦笑しているから、魔法研究部ではよく見る光景なのかしら。研究魂に火がついた、みたいな?
「ええっと、光の妖精が近くにいますけど……」
「どこですか⁉」
「こ、ここにはいません。寮にいます」
たぶん、今頃クッキーを食べながらごろごろしていると思うわよ。
「会いたいです! 連れてきてください!」
「あの、ニコラウス先生。連れて来たところで、見えないと思いますよ」
ニコラウス先生の勢いにたじたじになりながら言うと、ニコラウス先生があからさまにショックを受けた顔になった。
「そうでした……、資格持ち以外、妖精の姿は見えないのでした……」
ショックを受けたせいかニコラウス先生が静かになったので、わたしはホッとしつつお兄様に向き直る。
「妖精は近くにいます。わたしの部屋にいるカナリアがそうなんですよ、お兄様」
「……なるほど、お前が急に飼いたいと言い出したあのカナリアか」
お兄様は合点がいったと頷いた。
動物の世話などできそうもないわたしが急にカナリアを飼いたいと言い出したので、ずっと引っかかっていたらしい。
……いやお兄様。わたしだって動物のお世話くらいできますよ! それほど難しくない動物限定ですけどね!
もちろん、動物を安易な気持ちで飼ってはいけないことくらいわかっている。その命を背負い、一生大切に育てられる覚悟がなければ、可愛いという理由だけで動物を飼ってはならない。
だけど、世話ができないと決めつけられるのは納得がいかないわよ。
実際ハイライドはわたしの部屋でのびのびしていますからね! まあ、彼はペットではなくて妖精なので自分の意思で好き勝手しているだけですけど!
「カナリアと言うと、あの日も君のそばにいたな。なんで攫われたにもかかわらずカナリアがいるんだろうと思ったんだが、そういうことか」
ヴォルフラムもなるほどと頷いた。
「そのカナリアがそばにいたら、マリアさんは光魔法が使えるんですね?」
あ、ニコラウス先生がいつの間にか復活してた。
「ぜひ、伝説の光魔法をこの目で見たいです。ヴォルフラム君は見たんですよね?」
「え? ええ……、光の矢のようなものが、黒豹のメンバーの持った弓矢を打ち落とすのを見ましたけど……」
ヴォルフラム、それはね、わたしじゃないのよ。
ハイライドがやってくれたの。
わたしにそんな高度な魔法が操れるわけないでしょう?
という言い訳をする前に、ニコラウス先生が俄然勢いづいて、テーブルに両手をつくとわたしの方に身を乗り出してくる。
「見たいです!」
「えっと、無理です」
わたしが断ると、ニコラウス先生が大きく目を見開いた。アクアマリン色の綺麗な瞳が、心なしかうるうるしていらっしゃる。
「何故です?」
「せ、先生、落ち着きましょう」
今にもわたしにつかみかかってガクガク揺さぶりそうな勢いだったので、アレクサンダー様が慌ててニコラウス先生を止めに入ってくれた。
「マリア、無理ってどういうことだい?」
お兄様がにこりと訊ねてきたので、わたしもにこりと返す。
「お兄様こそ、わたしがそんな高度な魔法を使えると思いますか?」
「というと?」
「わたしが使えるのは、ほんの一瞬、光の玉を生むくらいですよ? ヴォルフラムの言う光の矢は、光の妖精が使った魔法で、わたしではありません」
むしろ、お兄様たちはわたしが使えると本気で思っていたのかしら?
ほほほほほ、自慢じゃなけど、ファイアーボールとストーンブレットしか使えないわたしが、光の矢なんて難しそうな魔法を使えるはずないじゃないの。というかたぶん、魔力が足りないわ。
実はあれから、スマホで自分のステータスを確認してみたのよ。
そうしたら魔法が増えてたの。
名前 マリア・アラトルソワ
誕生日 四月一日
称号 アラトルソワ公爵令嬢
レベル 五
魔力 五十八
習得魔法レベル 三
火 ファイアーボール 消費魔力 五
土 ストーンブレット 消費魔力 十三
水 なし
風 なし
光 ライト 消費魔力 五十
ってな具合にね!
多分あの日、短い時間だったけど「ライト」に成功したから増えたんだと思うけど、その消費魔力のえげつなさに思わず「はあ⁉」って声を上げたわよ。
だって、消費魔力五十よ、五十!
ただ光らせるだけの魔法のくせして、消費魔力を五十も使うのよ?
ちなみにわたしの魔力の最大は五十八だから、ほとんどの魔力を持って行かれるってことなのよ。
そんな魔力を大量に使う光魔法のライトより高度な魔法が、わたしに扱えるはずないでしょう?
「ほほほほほ、お兄様たちの中でマリアはとってもすごい魔法使いになったみたいですけど、そんなもの幻想ですわ~。やっと火と土の初級魔法をちょっとだけ覚えたわたしが、高度な魔法なんて使えるわけないでしょう? 天地がひっくり返っても無理ですわ~」
「マリア、自慢にもならないことを高笑いしながら宣言するんじゃないよ」
お兄様が「そうだった」と今更ながらに気づいたように額に手を当てた。
ヴォルフラムがぽそりと「どうして君が資格持ちなんだろう」とつぶやいたけど、わたしもそう思うわよ。こう言うのを宝の持ち腐れって言うんでしょうね~。
アレクサンダー様は苦笑。
ニコラウス先生に至っては、ショックのあまり灰になりかけている。
光魔法が見られると思ったのに、肝心の資格持ちのわたしがポンコツすぎてまともに魔法が使えないからショックなのね、きっと。
やれやれと笑った後で、お兄様がわたしの頭をこつんと小突いた。
「光魔法について知ろうと思ったら、お前を一流の魔法使いにしなければならないのだろうが、おにいちゃまはできる気がしないよ」
その通りですよお兄様。マリアには無理です。
だけど、諦めきれないニコラウス先生が、カッと目を見開いて復活した。
「諦めてはいけません、ジークハルト君! マリアさんを一流の魔法使いに育て上げて、ぜひとも光魔法の研究をしなくては!」
ひっ!
ニコラウス先生、目がマジですよ!
いやですいやですよ! わたしは、別に一流になりたいなんて思っていません! この学園を無事に卒業できさえすればそれでいいの‼
というか、一流の魔法使い? なにそれおいしいの?
血反吐を吐いたって無理に決まってるわ‼
わたしは恐怖のあまり、ひしっとお兄様に縋りついた。
ニコラウス先生は普段は優しいけど、今日の先生はいつもと違って怖いです!
「おに、おに、お兄様、お兄様あっ!」
マリアは血反吐を吐くような特訓とか無理ですからね! 絶対に無理ですからねえ‼
ガクガクブルブルと震えていると、お兄様がよしよしと頭を撫でてくれる。
そして、微苦笑を浮かべながらニコラウス先生に向き直った。
「先生、マリアを一流にするのは無理がある気がしますけど、マリアは妖精と会話ができるんでしょうから、妖精から情報を聞き出すだけでも充分に研究になるんじゃないですか?」
「なるほど、それもそうですね」
長い時間をかけてわたしを一流にするより、妖精から情報を聞き出したほうがずっと早くて無駄がないと判断したらしいニコラウス先生が、上機嫌になってにこにこと笑い出す。
「マリアさん、今度ここに、妖精を連れてきてください」
もちろん、わたしは拒否なんてしなかった。
だって断ったら、わたしを一流にとかまた言い出す気がするもんね‼
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