生徒指導室の常連 2
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
「……それについては、えーっと、まあ、はい、そうですね」
諦めたわたしが仕方なく白状すると、ニコラウス先生が目頭をもんだ。
「本当だったんですね……」
「にわかには信じられない話だがな」
「つまりマリア、お前は資格持ちだったということかい?」
ニコラウス先生に続き、アレクサンダー様、お兄様が次々にわたしに話しかける。
ヴォルフラムは「やはり見間違いではなかったか」と呟いていた。
……くっそぅ、ヴォルフラム! 見間違いだとちらっとでも思ったのなら、そのまま見間違いってことにして忘れてくれればよかったのに!
って八つ当たりしたくなったけど、見間違いって流せなかったのもわかるよ。
ニコラウス先生が驚きと感動と狼狽とその他もろもろいろんな感情をないまぜにした表情で、わたしをじっと凝視した。
「マリアさん、それが本当ならとんでもないことですよ? 光魔法の使い手……すなわち資格持ちなんて、文献でしか読んだことがありません! 少なくともここポルタリア国では数百年は現れていないはずです!」
うん、まあ、そうだろうな~。
わかるよ、わかる。
ゲームの「ブルーメ」でも、リコリスが資格持ちで大騒ぎになっていたもんね。
本来妖精たちは妖精の世界で暮らしているので、人間の世界にはほとんどいない。
世界を渡るためにはノルンの森へ入らなくてはいけないけれど、そこは三人の女神に認めらなければ入れないからだ。
妖精がいなければ妖精が見える資格持ちかどうかなんて判別できないし、もっと言えば妖精から力も借りられないので光や闇の魔法も使えない。
だから資格持ちが文献にしか載っていないとか、数百年現れていないとか言われても、それは当然のことなのだ。
そんな伝説と言い換えてもいいはずの「資格持ち」が、わたしみたいな万年落第すれすれのポンコツ令嬢だなんて、信じられないわよねえ。
初級魔法すらろくに使えないマリア・アラトルソワのくせになんでだ! って思われても仕方がないのである。
「マリア、お前はまたとんでもないことを……」
お兄様が疲れたように天井を仰ぐ。
「今のところここにいる人間とヒルデベルトしか知らないが、こんなことが世間に知られたら大騒ぎだぞ」
アレクサンダー様もはあ、とため息だ。
「間違いなくルーカス殿下の妃……つまり次期王妃に担ぎ上げられるな」
ヴォルフラムがぽそりと言って、わたしはぎょっとした。
何ですと⁉
嫌ですよ! だってわたし、ルーカス殿下に滅茶苦茶嫌われてるんですよ⁉
前世の記憶を取り戻す前のわたしなら「きゃー!」と騒いで小躍りしたかもしれないけど、今のわたしは破滅回避のために極力攻略対象とお近づきになりたくないので、その筆頭ともいえるルーカス殿下の妃とか死んでもごめんです! いや、死にたくはないけど!
お兄様も「ルーカス殿下の妃」という単語に、ぐっと眉を寄せた。
「それは困るね。マリアは私の可愛い婚約者だ。いくら殿下と言えど、マリアは渡せない」
いやいやお兄様。お兄様との結婚は契約結婚でしょう? わたしが卒業するまでに結婚相手を見つけたら離婚するって約束でしょう? まあ、わたしもルーカス殿下はお断りなので、渡されても困りますけどね。
アレクサンダー様も神妙な顔で「それは困るな」なんて言っている。
何が困るのかはわからないけど、ルーカス殿下の妃になりたくないわたしは全力で乗っかりますとも。
「わたしには王妃とか無理です!」
「「「それは間違いない」」」
お兄様、アレクサンダー様、ヴォルフラムの声が重なった。
ニコラウス先生は苦笑を浮かべて黙っているけど、そう思っているのは間違いない。
……う、その通りだけど、はっきり肯定されるとそれはそれで虚しいような。
公爵令嬢という最高の身分を持ちながら王妃は無理だと断言されるわたしって、いったい……。
もちろんわたしがポンコツなのは自覚していますけど、肯定するにしてもオブラートに包んでくれればいいのに。
ニコラウス先生が、腕を組んで「うーん」と困ったような声を上げる。
「本来であれば、マリアさんの存在は陛下に報告した方がいいのですが……」
「「「やめましょう」」」
また、お兄様たち三人の声が重なる。
わたしもこくこくと頷いたよ。
陛下に報告
↓
ルーカス殿下の婚約者に決まる
↓
次期王妃に決定
↓
ヒロインの恋路を邪魔して破滅ルート
ってな具合に進みかねないからね!
ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ