124.わんこな友達…ドワーフな友達
お昼ご飯を終えた俺たちは、再び先ほどの練習部屋「13号室」へと戻っていく。
帰り際にお肉売りとお魚売りの方々に、「今度はうちのを食べてくれ!」とかなり真剣に頼まれた。
う~ん……やはり美味しそうに頬張ってるのを見ると、食いたくなるよなぁ……。
「腹が…減った……!」でおなじみのあれも、美味しそうに食べるから飯テロになるわけだし……。
しかもマグの場合、演技とかじゃなくて本心からのものだから余計にじゃないか?
いや別にゴロウさんが演技してると言ってるわけでは無く。
あぁ~…でもこのペースで買い食いしてると、すぐお金無くなっちゃうなぁ……。
え~っと…?今いくらぐらいだ……?
お昼ご飯からマグに体を任せっぱなしなので、俺はゆっくりと今までの収入と支出を数える。
表では、マグがショコラちゃんたちと話してながら歩いており、その話し声が聞こえてくる。
「マグってホントにすごい人気者なんだね……」
「あはは…皆さんが優しい人だからね。よく気にかけてくれてるんだよ」
「そうかなぁ?それだけじゃないと思うけど……」
そうさなぁ……。
特に問題は起こしてない…はずだし、冒険者の人たちとも頑張って自分から話しかけに言ってるから顔見知りも増えてきたし仲良くもなってる…はず……。
それにマグの言う通り、話しかけたら答えてくれる、困っていたら声をかけてくれる優しい人ばかりだからな。
突っかかってくるようなのは、フルールさんたちと会った日の、あのルークの兄らしい冒険者以下4人以降誰もいないし、《戦慄の天使》なんて異名は付いてるが、それでからかわれることはあっても、いちゃもん付けられたことは無いし、冒険者ギルド勤務初日の、クエストボード前でケンカ腰に話しかけてきたあの人らも、マグを心配してくれてただけだったし。
うん、優しい人ばかりだよほんと。
「マギーちゃんは頑張り屋さんだからねぇ~。しかも貴族だからって偉そうにしないし」
「それはまぁ……必要な時にはちゃんとしますけど、それ以外だったら普通に話した方が話しやすいですし、別に偉ぶってもどうにかなるわけでもありませんから」
うんうん、マグは昔から冒険者の人たちとお話してるらしいし、そんな貴族のプライドなんて知ったこっちゃないんだろうねぇ。
「…そういう考えの貴族が…ううん、貴族だけじゃなくても、もう少しでもいてくれればなぁ……」
ララさんが小さい声でそう言ったのが耳に入った。
(…ララさんはハーフエルフというだけで迫害を受けてきたんだって言ってたよね……)
(はい……きっと、とてもつらい目にあってきたんだと思います……)
(そうだね……それでも、今のララさんからは、無理してるとかは感じないね)
(…ハルキさんのおかげ…でしょうね)
(うん。…俺たちも、その要因の1つになれるといいね)
(はい!そのためにも、いろいろ頑張らないとですね!)
(うん!)
そう決意を固めたところで、「13号室」についた。
(さてと…それではコウスケさん、お願いします)
(ん……もういいの?)
(はい、十分楽しみましたから♪)
(そっか。ショコラちゃんとは?)
(それはまぁ…まだまだお話したいですけど…際限がなくなってしまいますし、それに…いつでも会えますから!)
(…そうだね…うん、分かった。じゃあ交代しようか)
もう、会えるか分からないってわけじゃないもんね。
(はい!お願いします!)
(ん、ありがと)
マグと交代した俺は、荷物をさっきと同じテーブルに置き、早速魔法の練習を再開する。
さて…まずはマグに手伝ってもらって……
「ねぇマグ」
「ん……どうしたの…ショコラ?」
何をするか考えているところにショコラちゃんが話しかけてきた。
危うく「ちゃん」付けで呼びそうになった俺は、少し間を置いてどうにか抑える。
「!……?」
「……?」
何故かショコラちゃんが返事をしてくれず、ただ俺の顔をじっと見つめてくる。
(ど、どうしたんだろう…?ショコラちゃん……)
(…もしかしたら、私とコウスケさんが入れ替わったことに気づいたのでは……?)
(…そういや「今日はいつものマグだね」って言ってたな……)
なんてこったい……。
たった一言返しただけで感づかれるなんて……。
…もっと精進しなければ……。
「う~ん……?」
それはともかく、今はめっちゃ訝しんでるショコラちゃんをどうにかしないと……。
「えっと……どうしたの……?」
「ねぇマグ…」
「う、うん……?」
「頭撫でて……?」
「(えっ?)」
「ねぇねぇ~」
「う、うん…分かった……」
なにゆえ急にそんなことを……?
そう思いつつも、断る理由もないのでショコラちゃんの頭を撫で始める俺。
「…♪」
嬉しそうに耳と尻尾を動かすショコラちゃん。
「……(じ~)」
羨ましそうにこちらを見つめるメリーちゃん。
…なにこれ……?
「…やっぱり……」
「えっ?」
「ううん、何でもない。ありがとね、マグ!」
「う、うん…どういたしまして……?」
なにやら納得した様子のショコラちゃんが俺から離れる。
(…やっぱり何か感づかれてる……?)
(う~ん……そうだとしても、まさか私の体に2人の魂が入っているとは思わないでしょうし……)
(それはまぁ……専門技能でもない限り、そこに考えが行くとは思いづらいけど……)
あ~でも、そういう前例がある、とか本とかに載ってたら気付かれる可能性が微レ存……?
などと考えてると、誰かがぴとっと抱きついてきた。
「……(じ~)」
見ると、メリーちゃんが俺に何かを期待するような眼差しを向けていた。
「……(なでなで)」
「……♪」
…ご満悦なようです。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しばらく撫で続け、ようやく満足して離れていったメリーちゃんが、フルールさんの所に戻るのを確認した俺は、改めて魔法の練習を始めるべく、マグに声をかける。
ちなみに、俺がメリーちゃんを撫でている間にララさんは仕事に戻っていった。
(マグ、魔法が使えないか試してみてくれる?)
(は、はい……!頑張ります……!)
(ははは、そんな気張らなくても大丈夫だよ。ちょっとした実験なんだから)
(は、はい……!)
ありゃりゃ……余計だったかな……?
まぁサクッと確かめて終わらせちゃおう。
(俺はマナウォールを唱える)
(私は今のところサンダーオーブしか成功していないので、それを……)
(分かった。せーので行くよ?)
(はい……!)
(せーのっ)
「《【我が前に現れよ】、[脅威防ぐ]【魔力の壁】。[マナウォール]!》」
(《【我が意志に応える雷[玉]】よ、[我が手より現れ出でよ]…【サンダーオーブ】!》
)
マグと共に、それぞれ魔法を唱える。
すると俺の目の前には、俺が唱えたマナウォールだけが出現し、マグが唱えたサンダーオーブは現れなかった。
(ふ~む……駄目か……)
(あぅぅ……ごめんなさい……)
(いや、マグは悪くないよ。…う~ん、心の中だと反応しないのか……?あ~…もしかしたら無詠唱として捉えられたかも……?)
(無詠唱…ですか……?)
(うん。言葉に出すことで魔法の成功率が上がって、詠唱文が長いほど威力が上がるのなら、もしかしたら言葉に魔力が宿ってるのかも……)
(言葉に魔力が……なるほど……)
ウチの世界で言う…《言霊》ってやつかな?
口にしたことが現実になるってやつ。
こっちにもあるかもだけど。
それがもしかしたら、魔力が乗ってるのでは?と思ったわけだが……
(でもこれだと…確かめようがなぁ……)
(う~ん……自分の魔力量が同じでないと比較になりませんけど…それを正確に知るには……)
(ハルキに付きっ切りで手伝ってもらうぐらいしか……ねぇ……?)
(さすがにそれは……ですよねぇ……?)
ただでさえ忙しいであろうダンジョンマスターのハルキにそんないつまでかかるのか分からないことに時間を割かせるのはちょっと気が引ける。
(ん…?あっそうだ!)
(うん?)
(それなら無詠唱が使えるコウスケさんがこっちにきてくれれば行けるのでは!?)
(!確かにっ!)
なぜ気付かなかった、俺。
あまりの記憶力の無さに、疲れ以外の要因がある気がするが、そんなことより実験優先なので、黙ってマグと入れ替わる。
(それじゃあいきますよ?)
(バッチ来い!)
(せーのっ!)
「《【我が意志に応える雷[玉]】よ、[我が手より現れ出でよ]…【サンダーオーブ】!》」
(《【我が前に現れよ】、[脅威防ぐ]【魔力の壁】。[マナウォール]!》)
再び魔法を唱えると、マグの手のひらから雷球が1つ出てきたが、それ以外は特に何も起きない。
「(あれ~……?)」
マグと共に首をかしげる俺。
(やっぱり体を動かしてる方しか魔法は使えないのかなぁ……?)
(…あっ……)
(ん?どったの?マグ)
(いえ…あの……魔力の流れってあるじゃないですか……)
(そうだねぇ……)
(それで…その……魔法を使う前にそれを感じ取れば、すぐ分かった…かなぁ……?って……)
(……)
(……)
お互いに黙り込む俺たち。
うん、あれだね……。
(1回俺ら完全休暇が必要かもしんない)
(そうですね。どこかで1度、マッサージをうけるなりのんびりお昼寝をするなりしましょうか)
はぁ……まさかマグまでこんなうっかりをかますなんて……。
俺のが移ったんだろうか……?
(…まぁ今はとりあえず、魔力を感じるか試してみるよ……)
(はい…お願いします……)
というわけで早速試す。
さてさて……魔力の流れか……。
う~ん……感覚は少しだけだけど繋がってるわけだし、魔力の回路もいけてもいいと思うんだけど……。
空気中に混じってはいるとはいえ、魔法の使用のために出たり入ったりするわけだから、血や酸素を一緒に抜いてるとは考えにくい……。
だから…そうだな……生み出すほどではなくても、すでに出ているものを動かすぐらいは……。
と、そこまで考えた俺は、マグが出したオーブを見る。
…魔力は感じないが、そもそも感覚が鈍いだけで魔力自体は使えたりしないかな……?
俺は早速、マグの出したオーブに向かって、WiーFiの説明書に書かれている電波のような感じをイメージしつつ、指令を出してみた。
するとオーブは少しゆっくりながらも、俺の指令通りに動き始めた。
(おぉっ!)
「わっ!すごいっ!」
「えっ?マグがやったんじゃないの?」
「(ふぁっ!?)」
動いた喜びでついうっかり言葉に出てしまったマグに、ショコラちゃんが不思議そうに聞いてくる。
(どどどどうしましょうコウスケさんっ!?)
(おちおち落ち着けマグっ!とりあえずあれだっ!あの~…「壁と一緒に出せたのが初めてだったものでつい…」って言っとけっ!)
(にゃるほどっ!)
「ああああの~…か、壁と一緒に出せたのが初めてだったのでつい……」
「?そうなの?」
「そうだよっ!」
「そ、そっか…よかったね……」
(コ、コウスケさん……なんだかショコラが引いている気がするんですけど……!?)
(引いてるねぇ……)
(な、なんでですかっ!?)
(圧が強かったんだろうねぇ……)
(そんなぁ……!?)
(どんまい……)
傷心のマグと入れ替わり、俺はそろそろ杖を使っての練習に取り掛かろうとする。
ショコラちゃんがいるからノートにメモは残せないしな。
心の中の別人格が動かしたとか書いたら、いらん心配をかけそうだし……。
さてと……んじゃあ練習用の杖を……
コンコン
「ん?」
「誰だろう?」
「私が行くわ」
「あっお願いします」
マジックバッグに手を突っ込んだところで扉がノックされた。
「どちら様?」
「えっ!?あっえっと…か、鍛冶ギルドで見習いやってます、リオです!マ、マーガレット…さんがこちらにいるとのことなので…えっと…よ、様子を…あ、いや、武器の具合を見に来ましたっ!」
「そう。じゃあ中へどうぞ」
「お、お邪魔します……」
フルールさんが扉を開けると、そこにはリオがいた。
何故かガチガチに緊張しておられる。
そんなリオは、俺を見つけると早足で向かってきた。
「こんにちはリオ」
「お、おう……」
「そんなに緊張してどうしたの?」
「い、いや……あれだな……お前のねぇちゃんってスッゴイ美人なんだな……」
ん?あぁなるほど。
他人の家族って緊張するよね。
…でもフルールさんって、見た目はお姉さんだけど、どっちかって言ったらお母さん…いや……おかん……?
まぁともかく…
「…へへっ、いいでしょ?」
「!」
「あぁ…兄弟ってちょっと憧れるんだよなぁ……」
「へぇ…そうなの?」
俺の自慢に驚くフルールさんには気付かずに、俺と兄弟談義を始めるリオ。
ははは、どっちにしろ家族のようなもんだし、細かいこたいいや。
「ほら、オレんところは鍛冶ギルドだろ?」
「んっ?もしかしてギルドが家なの?」
「あぁいや、違う違う。確かに繋がってるようなもんだけど、一応別だよ。んでも、まぁ家っていえば家だな。だから鍛冶ギルドの人たちもオレの家族みたいなもんだ」
「そうなんだ。なら、その中にお兄さんのような人はいないの?」
「それなんだよ」
「(ほぇ?)」
どゆこと?
「確かにグラズさんとか、兄のように思ってる人はいるんだよ。でもな?鍛冶を習おうっていう女の人が少なくて……」
「あ~…つまり、姉妹を持ってみたいってこと?」
「あぁ……」
なるほど……確かに見学した時も、男率が圧倒的だったような……。
「あれ?でも、いないわけじゃなかったような……」
「まぁ…いるよ?だけどなぁ……みんなガサツっていうか…職人としては細かいとこまでやるプロなんだが……」
「片付けが出来ないとか?」
「……(こくり)」
「そっかぁ……」
職場が男性だらけの鍛冶ギルド…さらにはマスターもヤバけりゃ客も基本我が強い冒険者……。
性格が多少荒くなるのも頷けるような……。
…そういえばメイカさんも片付け苦手だってのが今朝分かったよなぁ……。
…我…強いからなぁ……。
「う~ん…グラズさんみたいな人はいないの?」
「いないんだよなぁ…不思議なことに……」
「なんで~?」
「分から~ん」
グラズさんという落ち着いた人がいるんだから、女性陣にだっていても良いと思うんだけど……。
不思議~。
でもそっかぁ……ん~…なら……
「…リオお姉ちゃん」
(ふぇっ!?)
「はっ!?」
じゃあ気分だけでも…と思い言ってみたのだが……
「…そんな驚かなくても……」
「いや…急に言うから……それにマーガレットってしっかりしすぎてて、妹って感じじゃねぇんだよな……」
「そう?リオって何歳だっけ?」
「11。マーガレットは?」
「私10」
「一応年下だけど…やっぱり落ち着かねぇかなぁ……」
「そっかぁ……」
まぁ俺は20だしね。
「あぁでも、この前あの…ユーリさん…って狐人族の人に甘えてるときは確かに10かそれ以下に感じたぞ」
「あぁ~……」
(そ、それ以下……)
あ、マグが深刻なダメージを……!
しょうがないよマグ。だって甘えてるときのマグ、少女じゃなくて幼女だもん……。
凄くふにゃっ…って笑うんだもん……。
…そっかぁ……そう考えたら、俺はそんな幼女にドギマギするロリコンなのかぁ……。
今更って感じだけど、改めて考えると…ちょっと…そっかぁ……てなる。
まぁ今更戻る気はねぇけど。
「それじゃあ……お姉ちゃんでいってみる?」
「いや…まぁ……いや、やっぱいい。そ、それよりも練習の途中なんだろ?」
「あっそうだった」
ちょっと忘れてた。
まぁでも、リオも甘えたいし甘えられたいお年頃ってことは分かったし、今日は大人しく練習をしよう。
誰目線の発言だよっていうね。
「それじゃあリオ。チェックよろしく」
「おう、任せな」
話を終えて練習に戻る俺と、その練習を見てくれるリオ。
「姉…ねぇ……」
「……よかったね」
「!……ま、まぁね……」
「……ん♪」
「…お姉ちゃんかぁ……」
それを傍から見ていた他の方たちの呟きは、俺たちには届かなかった。




