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123.お昼ご飯問題…魅惑の揚げ物

闘技場の受付でナバロさんに連絡を入れたらしいララさんの案内で、今出てきた練習部屋のある闘技場と同じ迷宮第1階層の屋台エリアへとお昼ご飯を食べにやってきたマグたち。

…を見ている私、コウスケです。腹減った。


さて……ぶらぶらのんびり散策…するもんだと思ってたんだけど……。


「おっ!ララさんにマーガレットちゃん!昼飯ならうちの肉はどうっすか!」

「いやいや!うちの魚でしょう!迷宮内で獲れた新鮮な魚ですよ!」

「どっちにしろパンは食わなきゃいけないでしょう?うちのパンなら肉も魚も合いますよ!」

「サラダいかがですかー!」

(わぁカオス)

(あはは……どうしましょう……?)


マグは苦笑いを浮かべ、どうしたもんかと俺に聞く。


そうだねぇ…腹減ったもんね~。

ここに来る途中でマグもお腹の虫が鳴ってたもんね~。

恥ずかしがるマグの姿はとても可愛かったよ、ありがとう。


それはともかく、この状況はどうしようか……。

この感じじゃあ、どこを選んでも落ち着けなさそうだぞ……。

フルールさんとフルールさんにしがみついてるメリーちゃんのためにも、さっさと選んでゆっくりしたいのに……。


(う~ん……マグ、とりあえず変わっとく?)

(そうですね……あ、でも…ショコラが……)

(あ~…そうだなぁ……)


さっき知らない人みたいで不安になったって言ってたもんなぁ……。

それじゃああんまりショコラちゃんの前で俺が出るのはよろしくないか……?


(ん~…ならやっぱりマグに任せるか……すまんのぅ……)

(いえいえ、私もショコラとまだまだお話したいですし…あっでもちゃんと助けてくださいね?)

(当然。んじゃ、まぁとりあえず……)

「うちで昼飯を!」

「いやうちで!」

「そいつのパンよりも私のところはもちもちですよ!」

「あんだとっ!?お前んとこよりもうちのが他のもんと合うんだよ!パンだけじゃ飽きられるからなぁ!」

「なんですってぇ!?」

「サラダはどうですかー!!」

(…いつの間にか増えたこれをどうするか考えないと……)

(…これ収集着くんですか……?)


無理じゃないかな……?というわけにはいかない。

さ~てどうしたもんか……ん?


(マグ、今の店……)

(えっ?どれですか?)

(右向いて~…あれ、あの豚のマークの屋台)

(あぁ、あれですか。う~ん……?お肉……?でも焼いてるようには……)


確かに焼いてる感じではない。

店主は何かとても集中しているようで、じっくりと鍋を見つめている。


いったい何の料理を……?

そう考えたところで店主が動いた。


手に持ってるあれは……ざるおたま!【正式名称:網杓子(あみじゃくし)】


(ということはあれはもしや……!揚げてるのでは……!?)

(あ、揚げですか……!?)


マグが驚くのには理由がある。

この世界の料理も、元の世界と同じく、煮る焼く炒めるエトセトラとさまざまな調理法があり、もちろん揚げ物も存在する。

だが油をガッツリ使う揚げ物は、このいろんなものがいっぱいある迷宮都市でも中々お目にかかれない。


別にこの迷宮で油が取れないわけでは無く、ただ単純にみんなが遠慮しているだけである。

というのも、どうやら油はランタンなどに優先して使っているらしく、軍や非常用にため込む人などが多く買い込んでしまい、料理用に回ってくることはほとんど無いらしい。


なので揚げ物が出来るのは、油を多く確保できる裕福な者だけ。

庶民には贅沢品なのだ。


さらに、揚げ物を作るのは難しく、今までやったことの無い素人が調理するには険しい道。

そこで諦める者が多かったとのこと。

それだけでも十分珍しいと分かる。


だがそんな中、無事に成功して揚げ物を販売したお店が登場。

目新しいものが大好きな冒険者を中心にブームが起きたのだが、あまりの旨(うま)さにバカ食いする者が多発。

そんなもん当然体に良いわけが無く、体調を崩すものが後を絶たず、「揚げ物は魔の料理」という言葉も生まれ、「結局油は生活用」、ということで短いブームは終わった…とこの前グルメな先輩に聞いた。


さて、そんな話を思い出した我々の視線の先には、豚ちゃんロゴの屋台がある。

そして俺たちが見守る中、主人はそのざるおたまを鍋に突っ込み、そして上げた。


(ふおぉぉぉ!!)


上げたおたまの上には、美味しそうな色目の衣に包まれた物が見える!

あれはもしやコロッケですか!?


(…コウスケさんコウスケさん。揚げ物って美味しいんですか?)

(俺の好きなものが数多く存在するジャンルです)

(食べましょう)

(お願いします)

「…お嬢ちゃん……?」

「(はっ!?)」


おかしい……。

俺たちはこの屋台を遠目で見ていたはずなのに、何故かもう目の前まで来てしまっている……。


(ま、まぁいいや!とにかく買おう!)

(そ、そうですね!)


俺たちは気を取り直して店主に話しかける。


「こほん…えと…そ、その美味しそうなものはおいくらですか?」

「えっ?あ、あぁ…200ゴルだよ」

(ふむ……)

「あ、揚げ物なのにですかっ!?」

「あぁ、ここじゃあ油はいつでも取れるからな」


マグは安いって思っているようだが……前世の総菜屋さんやらで50円とか100円とかを知ってるから、俺は少し高く感じてしまった。


う~ん…お国の違い…いや、世界の違いがこんなところでも……。

…あ、でもちょっと大きめ?かも?

どんなもんだったかうろ覚えだなぁ……。


まぁでも食べるのに変わりはない。


「えっと…じゃあ……!」

(…いくつにしましょう……?)

(そうさなぁ……)


みんなの分も買っとくか……?


マグもそれを考えたのか、他のみんながいるであろう方向を向いてくれた。


するとそこには、フルールさんたちと、さっきまでお昼ご飯の呼び込みをしていた人たちが、マグを見守るように静かに見つめていた。


「……ふぇ…?な、なんでしょう……?」

「…マギーちゃんが急にふらふら~って歩いて行ったから見守ってたの」

「えっと……なんで見守ってるんですか……?」

「だって、呼びかけても聞こえてなかったみたいだし……」

「(えっ?)」


呼ばれてたの?

全然気が付かなかった……。


「…それで?今日はそれにするの?」

「は、はい……!そうしようかなと……」

「う~ん……悪いことは言わねぇ、やめときなマーガレットちゃん」

「えっ…?な、なんでですか……?」


フルールさんの問いに答えると、最初に話しかけてきたお肉売りの男性がそんなことを言った。

マグが理由を尋ねると、今度は魚売りの女性が答えた。


「それを食った女の冒険者がね…こう言ってたんだよ……。あれは人を簡単に太らせる魔の料理…ってね……」

「か、簡単に太る……!?」

(魔の料理ってそういうこと?)


まぁ確かに油物は太りやすいって言うけど。


(ど、どうしましょうコウスケさん……!こんなにいい匂いの食べ物…絶対美味しいのに……!太るのはちょっと……!)

(う~ん……こればっかりは口を出しづらいなぁ……)

(そんなぁ!?何かこう……食べるでも食べないでもいいので、どっちかに決められるような情報とかありませんか……!?)

(えぇ~!?…う~ん……)


食うにしろ諦めるにしろ、確かに踏ん切りは大事かぁ……。

う~んでもなぁ……!


俺としては絶対に食べたいし、マグも絶対気に入ると思う。

でもそれでマグの体がふくよかになったら、マグは気にするだろうし俺も罪悪感が……。


う~ん…!難しいなぁ…!


(情報ってもなぁ……あ~……1つだけちょっと思い出したものが……あ~いや、忘れてくれ)

(えっ!?なんですかっ!?気になるじゃないですかっ!教えてくださいよぉ~!)

(う~ん…いや、これは確証が無いし……!)


下手したらセクハラかもしれないし……!


(コウスケさぁん…!)

(~~っ!そんな甘えた声出さないのっ!分かったよもうっ!)


はぁ~……やっぱりマグには敵わねぇ…いや、年上の威厳と理性は死守しないと……。

そのための布石は打ってあるし…ふふふ…今夜が楽しみだな?


それはさておき。


(ん~とな?前世で読んだ本に載ってたことで、自分で調べたこととかないから確証は無いし、ちょっとデリケートな部分だから……まぁ…広い心で聞いてね……?)

(はい!)

(あ~……太るってのは、まぁ…お腹に脂肪が付くことじゃん?)

(しぼう?)

(あ~…まぁいわゆる…贅肉?)

(な、なるほど……)

(んでまぁ…その脂肪なんだけど……)

(はい……)

(……胸…も脂肪で出来てるので…そっちにも流れればお胸が大きくなる…っていう説を読んだことがあります…はい……)

(…………)


うおぉぉぉこえぇぇぇ!!

マグ黙っちゃったよ!?やっぱり女性に体の話はNGだった!?


(…コウスケさん……)

(はいっ!?)

(…ありがとうございます、おかげで決まりました)


えっあっ…?怒ってるわけでは…なさそう……?

というか今ので決まるの?


(えと…それで……どちらに……?)

(…私…これから毎食これを食べに来ます)

(それはさすがに太るよ……?)


マグの答えに反射的にツッコんでしまう俺。


うん、毎食はヤバい。

それはさすがに止めるわ。


(ま、まぁとりあえず1つ試してみたら?それで満足ならそれでいいし、また食べたいなぁって思ったらそのときはまた考えりゃいいし……)

(あっそうですね。それでよかったですね)


ホントにね。


というわけで、マグ、出撃。


「…1つください」


ざわっ…!っとなるギャラリー。


「い、いいのかいお嬢ちゃん……?」

「……」


マグは答えずに、何故か自分の胸を軽くふにふに……なんでや。


それにまたざわっ…!っとする周りを気にせず、マグは再び店主と目を合わせると、


「お願いします」


そう、力強く注文した。


……なんでコロッケ1つ食うのに、こんなに疲れているんだろうか……。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」


お金を渡し、コロッケとお釣りを受け取ったマグは、ちょっとその場からずれると、早速コロッケにかぶりついた。

サクッ!と良い音を立てながら、コロッケをもぐもぐ。


…あぁ……うまそう……!


やがて、1口目を咀嚼(そしゃく)し終えたマグはそれを飲み込むと…


「美味しいぃ~!!」


満面の笑みでそう言った。


「衣…って言うんですよね?衣がすごいサクサクで食べててすごく楽しいし、中はジャガイモかな?とってもホクホクで美味しいです!」

「おぉ…!そんなにウマそうに食ってくれると、こっちとしても嬉しくなるなぁ!」


マグの屈託の無い笑顔と素直な感想に、少し気恥ずかしくも嬉しそうな顔の店主。


そしてマグは2口目をほおばり…


「んふ~♪」


再び満面の笑みを浮かべ、嬉しそうな声を上げる。


(いいないいなぁ~!マグぅ、それ食べ終わったら交代して!俺も食べたい!)

(んふふ~♪いいですよ~♫)

(やった!)


久しぶりの揚げ物♪

いいねぇ~、コロッケ~♪ハッ!

良いこと思いついた!


「ごくん…んふ~♪ごちそうさまでした!」


俺が名案を思い付いてる間に、マグはコロッケを完食したようだ。


口の周りに付いている衣の破片をペロッとなめとり、店主に元気にそう告げる。


「いい食べっぷりだったよお嬢ちゃん!」

「えへへ♪…それでですね…その……もう1ついいですか……?」

「うん?おぉ、いいよ!」


およ?

マグがおかわり言ってくれるの?


(自分の分ぐらい自分で頼むよ?)

(いえいえ、先に楽しませてもらいましたから)


なんて出来た子でしょう……。

この子俺の婚約者なんですよ皆さん。

そんな彼女にはお礼しなくては。


マグと交代した俺は早速店主に話しかける。


「すみません。やっぱりもう1つ追加で」

「えっ?わ、分かった……」

(コウスケさん?)


ふっふっふ……多分必要になるからね……。


あぁ……それにしても、終始美味しそうに食べるマグを見ていたので、もう俺の腹は鳴りっぱなしだ。

同じ体だからそんなことはないけど、気分的にはそうなのだ。


「はいどうぞ」

「ありがとうございます!」


先ほどのお釣りの中から、ピッタリ400ゴルを支払いコロッケを2つ受け取る。


ふふふ…あとは……


俺は先ほどケンカしていたパン売りの方々の元へ行く。


…ていうかいつまで見てるつもりだこの人らは。

暇なの?


「パンを1つずつくださいな!」

「お、おぉ……」

「え、えぇ…分かったわ……」

(コウスケさん、もしかして……)

(そう…挟むのだ!)

(わぁ!いいですねぇ!)


ふふふ…やはり食いついたな?


この街には元から肉サンドや魚サンドを売っている屋台もある。

だがこんな風にバラバラに売ってるところもあり、そうしたお店をはしごして、自分の好きなものを作るという楽しみもあるのだ。

だから店の人に「邪道な真似をっ!」と怒られることもないのだ。


パン売りの方々に切れ目の依頼もして、それを待っている間にサラダ売りにも話しかける。


「お野菜をください!」

「サラダとしてワンセットだからごめんね!」

「ではサラダをお1つ!」

「喜んでー!」


…凄く訓練された人だな……。

…あの店ブラックだったりしないよな?

カッチリした人だからってそれはさすがに失礼か?


「お待ち!」

「おいくらで!」

「150ゴルです!」

「…ひーふーみーの……はいどうぞ!」

「ちょうど受け取りました!ありがとうございます!」

「ではこれで!」

「はい!お気をつけて!」


……ほんとにブラックじゃないよな?

あの人がガッチガチなだけだよな?


「マーガレットちゃん、切れ込み入れたぞ~!」

「こっちも入れたわよ~!」

「ありがとうございます!」


パンの代金もそれぞれ支払い、俺は早速作業に……取り掛かるには立ってやるのは危険だな……。

どうしよ……。


「マグ?どうしたの?」

「ショコラ…ごめん、これ持っててくれない?」

「ん?うん、いいよ」


ごめんね顎で使って。


ショコラにパンを持ってもらい、俺はコロッケパンの作成に入る。


…本当は野菜いらないんだけどなぁ……。

マグの体に悪いから食べなくちゃなぁ……。

あとやっぱりソースが欲しいなぁ……。

サラダ解体してごめんね……?


心の中でマグにも聞こえないようにわがまま放題言いながら、黙々とコロッケパンを作成。

そして完成。


(ん~…いいんじゃな~い?)

(おぉ~!美味しそ~う!)


やったぜ。

マグのお墨付きももらったところで……


「いただきま~す!」


がぶっと豪快にかぶりつく俺。


うむうむ……マグのお口は小さいので、パンと野菜にまでしか届かなかった。

あれだな…コロッケもカットしてもらえばよかったかもな。

でも十分美味い。


さてもう1口……今度は届くだろう。

あむっ…もっきゅもっきゅ……ごくん。


「ンマ~!」


はぁ~…美味い……!

この街には前世の食べ物も結構あるけど、こういうコンビニパンとかじゃないからなぁ……!

なんか自分が学生だということを再確認したわ……!


(…じゅるり……)

(ふふふ…マグの分もあるよ……?)

(えっ!?も、もしかしてもう1つ追加したのはパンの相性比べじゃなくて……!?)

(ふっ……おあがりよ……)

(~~~~っ!も〜♡コウスケさんは私を喜ばせるのが上手なんですからぁ♡)


ふふふ…よせやい照れるぜ……。


俺がマグと話しながら、至福の時を堪能している横では、フルールさんたちがなにやら話始めた。


「…ねぇララ?揚げ物1つ分なら、動いてればすぐよね……?」

「うん……しかも野菜と一緒だから2ついけるかもだよ、フルールさん……」

「……美味しそう……」

「ごくり…そうだね……」

「よし、決まりね。今日のお昼はあれにしましょう」

「大丈夫…なんだかんだ動くお仕事だから大丈夫なはず……!」


大人組がカロリーを気にしているが、それでも誘惑に抗えずにコロッケを買っていく。


…そういえばフルールさんお金持ってたっけ?


「…あっ…ら、ララ…ごめんなさい……」

「うん?あっなるほど。大丈夫だよこれぐらい」

「…悪いわね……」

「ふふ、気にしないで」

(あのお2人…もうすっかり仲良しですね)

(うん。よかった、フルールさんも楽しめてるようで)


やっぱりララさんが人間じゃなくてハーフエルフだっていうのが大きかったかな?


「……(もきゅもきゅ)」

「ん~!美味しい~!」


そこの2人も仲良くなってくれると嬉しいねぇ。


そうこうしてるうちに1つ目のコロッケパン完食。


(マグ)

(わ~い!)


マグと交代してコロッケパンをプレゼント。


しかしあれだね。

今更だけど、このパンボリュームあるよね。

それ2つって……食べれるかな?


「いただきま~す!」


大丈夫そうかな?


「…なぁ…そういやしばらく食ってないよな……?」

「あぁ……美味そうに食べるなぁ……」

「1つ2つなら動けばすぐ…か……」

「……いっちゃう?」

「いっちゃう?」

「…駄目だ!我慢できない!俺にもくれ!」

「お、俺も!」

「私にもちょうだい!」

「サラダもらうぞ!」

「こっちにもくれ!」


なんだか急に冒険者たちがコロッケ屋台に殺到し始めたっぽい。

サラダ、パンも同様に大盛況となっているっぽい。

凄いね。視界の外だからよく分かんないけど。


「んふふ…♪」


…もしかしてマグの食べっぷりがあまりにも美味しそうだから?

ありえるな……。凄い幸せそうに食べてるもの……。


そんなことをぼんやり考えながら、その幸せそうに食べるマグにほっこりするのだった。


「ん~♫」


ちなみにコロッケ屋台は、前のブーム時と遜色(そんしょく)ないほどの売り上げを叩き出したそうだ。

よかったね。

めっちゃ美味いコロッケパンなりカツサンドなりが食いたい。

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― 新着の感想 ―
やはり美味しそうに食べるのが食べ物最大の販促だよなぁ。美味しそう。
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