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120.依頼の進展…吸血鬼たちの傷

〔マグ〕


コンコン


私ががっかりしているところに扉がノックされた音がした。


「誰だろう?ちょっと見てくるね」


そう言ってララさんが扉の方へと向かっていった。


「は〜い…あっ、ダニエルさん!」

「よう、ララ」


ノックしたのはダニエルさんだった。


ここまで来るなんて、どうしたんだろう?


「はい、ご無沙汰しております。今日はどうされたんですか?」

「あぁ、お嬢がこっちにいるって上で聞いてな。あとお前を呼び戻してくれとも頼まれたぞ」

「えっ!?そんなこと頼まれたんですかっ!?お手数をおかけしてしまい申し訳ございませんっ!」


隠密ギルドのギルドマスターに伝言を頼ませてしまったことに謝罪するララさん。


まぁ…ダニエルさんが隠密ギルドのマスターだってことを知ってる人が少ないからね……。


この前コウスケさんがララさんに聞いてたけど、このことを知ってたのは本当に限られた人だけだった。

隠密ギルドの人でも、Aランク以上の人しか知らないって。


…だから試験の時、あの部屋にいたヘンリエッタさんやベックはAランク以上ってことだね。

あとはユーリさんが特別に知ってるね。


「こんぐらい構わねぇよ。入っていいか?」

「はい、どうぞ」


そう言って部屋に入ってきたダニエルさんは、私の側にいたフルールさんとメリーちゃんを見つけると、2人にも声をかけた。


「ようお嬢。それに、珍しい顔がいるじゃないか」

「…どうも」

「…………」


軽い挨拶をするダニエルさんに、警戒心むき出しで挨拶を返すフルールさん。

メリーちゃんは、そんなフルールさんの後ろに隠れている。


…さっきまでの人見知りしているような隠れ方じゃなくて、少し震えてる……。

もしかして怯えてる……?


「そんな顔すんなって、用事が終わったらすぐ帰るからよ」

「…そう」


フルールさんもどこか居心地が悪そうな感じだし……最初に会った時の印象がなぁ……。

ダニエルさんが言ってたことは正しいんだけど…確かにちょっと怖かったよね……。


「んで、俺の用事ってのはお嬢への報告だ」

「報告…ですか……?」


なんだろう…わざわざダニエルさんが来るってことは……もしかしてロッサ村のことかな?


「…あんた…お嬢じゃないな?もしかしてマーガレット嬢か?」

「えっ?は、はいっ!そうですっ!」


私が用向きを予想していると、ダニエルさんがそんなことを言った。


今の返事だけで違うって分かったの……?

すごい…さすがだ……。


「そうか。お嬢…コウスケはどうしたんだ?」

「えと…!今は休んでましゅ…ます!」

「お、おう、そうか…」


あぅ…噛んじゃった……!

やっぱり、まだメイカさんやフルールさん以外と話すのは緊張するよ……!

ララさんは優しいし、いつもお仕事の様子を見てるから大丈夫だけど、ダニエルさんはあんまり会わないし、それに……


「あ~…そんな緊張することないぞ?」

「は、はい…すみません……」

「…あのときのことか……?」

「!えっと……その……」

「あ~…やっぱりか……」


あのとき……隠密ギルドでいきなり落とされたときのこと……。

あのときのことはもう話はついてるし、私もあれで納得したのに……それでもちょっと怖くて……。


「すまなかった……あれはちと悪ふざけがすぎたよな……」

「い、いえ!そのお話はもう終わっていますし、ちゃんとそのときに謝ってもらいましたし……!」

「それでも直接言わせてほしい。本当にすまなかった」

「あ…えっと……」


ど、どうすればいいんだろう……?

えっと…えーっと……。


こんなときコウスケさんなら……


「…えと……あのときのことは、本当に怖くて…その……今でもちょっと…その……思い出すと怖くなります……」

「……」


ダニエルさんは静かに私の言葉を待っている。


うん、やっぱり優しい人だ。


「けど……皆さん優しくしてくれましたし…ダニエルさんも本当は優しい人だって分かりましたし……」

「いや、俺は別に優しいなんてことは……」

「いいえ、優しい人です」


私はダニエルさんの言葉を切って、そう言い放つ。


「なんで……」

「あんなに真剣に謝ってくれて、いろいろお詫びもしてくれて…悪い人はそんなことしません」

「いや、それは…ハルキやコウスケと縁を切られないためにだな……」


確かにそうなのかもしれない。


「それでもしっかり謝ってくれました。だから優しい人だと思います」

「……あ~…」

「それにコウスケさんも、ダニエルさんのことを「根はしっかりした人だ」って言ってました」

「そ、そうか……」

「はい。だからもう大丈夫です。だから…えっと……」


私はそこで区切ると、ダニエルさんに手を差し出す。


「…これからも、よろしくお願いします」

「!……はぁ…そんなこと言われたら断れないだろ……」


そう言ってダニエルさんは私の手を握り返してくれる。


その手はごつごつしてて、でも優しく握ってくれてるから痛くない。


…昔、お父さんの手を握ったときと同じような感覚だ……。

少し安心する……。


「…なんでそんな安心した顔……はぁ……こりゃコウスケよりよっぽど手強いな……」

「?」

「いや…何でもない」


なんだろう?よく聞こえなかった。

…あっ…と、そうだ。


握手を終え、手を離した私はダニエルさんに今日ここに来た用件を聞く。


「ダニエルさん。何か私にご用があるんでしたよね?」

「何事もなかったように……はぁ……まぁいい。今日来た理由は、この前お嬢が依頼した「ロッサ村の調査依頼」のことだ」


あっやっぱり。


「えと…もしかして何か不備がございましたか……?」

「いや、そういうことじゃない。ただ単純に依頼を受ける冒険者が決まったってだけだ」

「わっ!ほんとですか!」


やった!これで村の様子を知ることが出来る!


「あっ…でも、誰が行くんですか?場合によってはかなり危ない依頼になりますし……」

「あぁ、それは心配すんな。Aランクの冒険者チームが向かうことになったからな」

「Aランク……!」


それなら確かに安心感がある。

それに期待感もすごく持てる!

あとは大体の日数だけど……


「ん~…ここからロッサ村まで馬車で半日ぐらいだったから……」

「往復で丸一日としても、村の様子によっちゃ3日4日かかるかもしんないし、すぐに帰ってくるかもしれない。ま、少なくとも今週のうちには来るだろう」


ロッサ村自体はそこまで大きい村じゃないからね。

ゆっくり見て回っても1日あれば全部見れる。


…瓦礫だらけだろうから、その下とかも調べて回るのなら確かにそれぐらいかも……。


「…なるほど……分かりました」

「おう。んじゃあ用は済んだし、俺は戻るぜ」

「えっもうですか?」

「そりゃあここにいてもやることがねぇし、俺だって仕事とかあるからな」

「そうですか…わざわざここまでありがとうございました」

「問題ねぇよ。じゃあな」

「はい、また」


用件が済んだダニエルさんは、私と挨拶を交わして部屋の入口へと向かっていき、ララさんとお話しする。


「邪魔したな」

「いえ、こちらこそ、こんな雑用を頼ませてしまって……」

「構わねぇって。それより、お前も上に戻らないとだろう?」

「はい。それじゃあマギーちゃん、フルールさん、メリーちゃん、私は上に戻るけど、何かあったらよんでね?」

「はい、ありがとうございます」


そう言ってララさんとダニエルさんが部屋から出ていった。

私は扉が閉まるのを見届けてから、フルールさんたちを確認する。


「…大丈夫ですか……?」

「…感謝はしてるのよ……」

「えっ?」

「あのときアイツに言われたことは正しいことだって理解しているし、そのあとローズにだって言われたんだもの……」

「フルールさん……」

「…でも…もう少し……待ってちょうだい……」

「……」


フルールさん……やっぱりまだ、人間の大人の男性が怖いのかな……?

…そうだよね……襲われたんだもん……。怖いに決まってるよ……。


…でも、ディッグさんやケランさんは大丈夫なんだよね……?

なんでだろう……?


…ん~…私とコウスケさんが普通の人間じゃないからで、そのことを知ってても気にしてないから…とか……?


…まぁ…今はいっか……それよりも……


「……」

「…メリーちゃん…大丈夫、もうダニエルさん行っちゃったよ」

「……(ぎゅう~)」


メリーちゃんがフルールさんに抱きついて離れない……。


…どうしよう……元気付けてあげたいけど、なんて言ったらいいか……。

えっと……こういうときは……


私は2人に近づいていき、そのままメリーちゃんを挟むようにしてフルールさんに抱きつく。


「…大丈夫…ここには、いじめる人はいないから……」

「……ん…」

「…ありがと…マーガレット……」


…これでよかったのかは分からないけど、2人から少しだけ力が抜けたような気がした。

その後しばらくの間、静かに時間だけが過ぎていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


(ふあぁ~…はぅ……ん~……)

(あ、コウスケさん。おはようございます)

(…ん……マグぅ…おはよ……)


私たちがベンチに移動して、メリーちゃんを中心にくっついて座っていると、コウスケさんが起きた。

でもまだ完全に起きたわけじゃ無いみたい。ぼんやりした声が返ってきた。


ふふふ……なんだか、こんなにぼんやりしてるコウスケさんって珍しいかも。


(コウスケさん。まだ眠そうですね)

(ん~……そうなぁ……くぁ……んぅ……)


…かわいい。

いつもしっかりしてるコウスケさんが、今はすごく隙だらけ……。

しかもそれを知ってるのは私だけ……か……。


…これはまずい……。

顔が自然とにやけちゃう……!


まずいまずい…!今はにやけるような状況じゃないのに……!

そんなことしたら2人に申し訳ないのにぃ……!


(……ん……マグ……?)

(は、はい!なんでしょう!)

(…今は何をやっとん……?)

(…あっ……)


そうだぁ……!

魔法の研究まったく進んでないんだったぁ……!


えーっと…えーっと……!

と、とりあえず、ここまでの出来事を話そう!

そして正直に謝ろう!


覚悟を決めた私は、コウスケさんが寝た後のことをありのまま話した。


(ん……了解了解。村の件はまた連絡待ちだな。んで、今は2人を慰めてると)

(はい。…といっても、あんまり力になれてるとは思えませんけど……)

(こういうのは誰か寄り添ってくれる人がいるだけでも違うもんだよ。マグはしっかり2人の力になれてるから大丈夫)

(…ありがとうございます…)


コウスケさんに励まされて、私は少し心が軽くなった。


(でも…魔法の研究が……)

(あぁ、それは別に。というかすまん。マグが魔法を使えないって聞いてたはずなのに、すっかり忘れてた)

(いえ!私も自分のことなのに忘れてて…なのにあんなに自信満々に答えちゃって……)


うぅ……やっぱり気を遣わせちゃった……。

こんなはずじゃなかったのになぁ……はぁ……。


(でもそうか…マグも魔法が使えるようになったか……ふむ……)


私が気を落としている中、コウスケさんは何かを考え始めた。


(あの…どうしたんですか……?)

(ん……ちょっと試したいことがあったんだけど……うん。増えた)

(えっ?)

(マグ、ちょっと俺の実験に付き合ってくれない?)

(?はい、それはもちろん良いですけど……)


何を思いついたんだろう……?


「ん…もしかして、コウスケ起きたの?」

「あっはい。今起きて、ここまでのことをお話したところです」

「そう……」

「えっと…すみません…勝手に喋っちゃって……」

「えっ?あなたとコウスケは同じ体なんだから、どっちかが知ったらもう片方も知るに決まってるんだから、そんなこと気にしないわよ」

「そ、そうですか……」


人のお話を勝手に話しちゃったから少し気になってたんだけど、あんまり気にしてなくてよかった……。


くいくい


「……(じー)」

「えっと…もしかしてコウスケさんに変わってほしいの……?」

「……(こくり)」

「そ、そっか……」


…やっぱり私じゃダメなようです、コウスケさん……。


「……マーガレット」

「…?どうしたの……?」


今日何度目かの心の傷を負っている私に、メリーちゃんは再び話しかけてきた。


私が答えると、メリーちゃんは少しもじもじしたあとに…


「………ぎゅってしてくれてありがとう…」

「!」


そう、お礼を言ってくれた。


「…えへへ…どういたしまして…!」

「……ん…」


私がそう答えると、メリーちゃんはそっぽを向いてしまった。


…耳が赤くなってる……ふふ…照れてるんだ……♪かわいい……♪


(それじゃあコウスケさん。お願いします)

(は〜い。…よかったね、マグ)

(はい♪)


元気にそう答え、私はウキウキ気分でコウスケさんと交代した。

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