118.魔法練習の続き…連日の頑張りの代償
俺に疲れている疑いが出たところで、そろそろいい加減このマナウォールを動かそうと思う。
とはいうものの……もうすでに生み出してしまったものに何かを追加するというのは初めてだ。
どうしたもんか。
ん〜…まずは壁に魔力を注ぎながら、動かせるようになれ〜って念じてみるか。
THE・力技。
てなわけで早速トライ☆だ。
ん〜……。
……そろそろいけるかな?
(よし行くぞ!)
(おぉ!がんばってくださいコウスケさん!)
(まかせておけぇ〜!)
マグの声援を受け、俄然やる気を出した俺は、あろうことか停止地点を決めずに、腕を明後日の方向にそーい!
壁もそっちにゴー!
「あっ」
(えっ?)
「「んっ?」」
「……?」
俺の声にみんなが反応したとき……動かしたマナウォールがその先にあった魔鉄鉱人形に直撃した。
ドン!
「やべっ!」
(ひゃっ!?)
「きゃっ!?」
「えっ!?」
「……っ!!」
部屋に響く音に全員が驚く。
だがさすがのハルキ厳選、究極の魔鉄鉱。
この交通事故並の威力を持ってしても壊れない。
やばかった……!
(あっぶねぇ……!あらぬ方向に飛ばしたかと思った……!)
(ひぇ〜……!魔鉄鉱の人形のところでよかったですね……)
(あぁ…向こうのベンチとかに当たってたら壊してたかもしれない……)
だってあの壁、中学生の立ち漕ぎチャリぐらいは出てたぞ?
推定30〜40キロ…もしかしたらそれ以上かな?
それであの質量なんだから、もはや車だよ。
魔鉄鉱が赤くなっちゃってるよ。
だよね〜、致死量のダメージだろうね〜。
分かるよ〜、俺も食らったもん。
交通事故で死んだ俺が、交通事故起こせる魔法を使ってしまったよ。
なんという皮肉!
「言ってる場合じゃねぇや……とりあえずこれも記録しとかないと……」
もう今後、こんな事故紛いのことを起こさないようにしっかり記録を付けて自分を戒めとこう……。
「あ、赤って……」
「うわぁ…確か赤は相当なんじゃなかったっけ……?」
「う、うん……普通の人は死んじゃうよ……」
フルールさんとララさんが何か話しているが、俺は俺でマグと話しているので内容を気にすることはなかった。
(…コウスケさん…大丈夫ですか……?)
(うん?)
(なんだか頭が回ってないような……)
(あ〜……)
遂にマグに言われてしまった。
あれかな〜……寝不足かなぁ〜……。
でもそんなこと言ったら、マグが遠慮して夢の中で会えなくなるかもだからなぁ……。
それは嫌だ。
(あれかな〜…連日のイベント疲れが出てんのかなぁ〜……?)
(…私、夜会うのは控えた方がいいですか……?)
(それは嫌だ。会う。絶対会う。今の1番の楽しみそれなんだから)
(!そ、そうですか…!へぇ〜…!1番の…!ふ〜ん…!……えへへへ……♫)
マグは何でもないように振る舞おうとしていたが、最後には嬉しそうな声が漏れ出てきた。
毎日毎日、今日は早く切り上げて休もう、って思っても、マグと会ったらそんな考えすぐどっか行って、結局やや寝不足気味になりつつ元気に朝を迎えるんだから……。
罪作りな子やでホント!
まぁそれはともかく、やっぱりどっかでがっつり睡眠は取っときたいよなぁ……。
思考力がちょっと下がってるっぽいからな……。
っと、そろそろあの壁どうにかしないと……。
マグと話しながらマナウォールの内容を書き終え、俺はとりあえず壁の設営をやり直す。
あの壁、横幅と高さはそこそこなのだが、奥行き…つまり壁の厚みがあまり無い。
俺の手で掴めるぐらいしかないので、多分大体5cmぐらいじゃなかろうか。
で、その5cmほどの側面部分を直撃させてしまったので、こっちから見るととても薄い。
これじゃあやりづらいので、正面になるように、今度は慎重に壁を動かす。
…これでよし。
(んじゃあ早速、サンダーをぶつけてみよう)
(瀕死攻撃並のオレンジ色だったので、それを防げればかなり硬いということですよね?)
(ザッツライ)
(ざっつらい?)
(俺の世界でその通りって意味)
(へぇ…1つの意味にいくつか言葉があるんですね……)
(国が多いからね。それぞれで使ってる言語が違うから、えらい数の言葉があるよ)
(そうなんですか?)
(うん。確か…196ヵ国だったかな?)
(ひゃ、196ぅ!?)
素っ頓狂な声をあげるマグ。
でも確か、国として認められてるのがそれぐらいで、まだまだあるんじゃなかったっけ?
(もしかしたらもうちょっとあったかも……)
(ひえぇ……!そんなに……!)
戦慄するマグ。
多いよね、国。
全然知らないよ。
ま、その話は置いといて、そろそろ耐久試験を始めよう。
「よし…《【奴を撃て】、[蒼き一筋の]【稲妻】。サンダー!》」
俺が再び呪文を唱えると、マナウォールに先ほどと同じようにズドンと青い雷が落ちた。
直撃を受けたマナウォールは、当たった部分が削り取られており、そのままスーッと消えてしまった。
どうやら魔力が霧散してしまったらしい。
(むぅ……サンダーの方が強いか……これじゃあ防御面が不安だなぁ……)
(それに威力も抑える練習をしないと、ルークが真っ黒になっちゃいますよ)
(課題は山積みだねぇ……)
まぁ1つずつ解決してくしか無いか。
(まずは壁の強度かな。障壁が硬い分には困らないし)
(そうですね。威力が高いサンダーを防げれば、並大抵の攻撃にはびくともしなくなりますから)
(うん。「やられる前にやる」は相手の攻撃が完璧に見切れないと、特攻されたときに相討ちになる可能性もあるからね。堅実にいこう)
大事なマグの体に傷を付けるわけには行かないからね。
パーフェクトゲームのために本気で行かせてもらう。
そうと決まれば早速……と思ったが。
まだ試したいことがあるんだよなぁ。
マナウォールを小分けに、いくつか同時に出せないかな?ってこと。
デカイのを1つよりも、小回りのきく小さいものを数個用意できた方が色々と対処しやすいし、この壁半透明だから、視界がなぁ……。
視界は大事だ。
本当は視覚だけじゃなくて、他の五感も頼れれば良いのだが、聴覚はまだしも、嗅覚は相手が独特なニオイをしていなければ分からない。
触覚は、そもそも近づかれたらやばいという前提上、頼る場面を作るわけにはいかない。
味覚はどうしろと。
ともかく、視界を妨げず、耐久力も高い…そんな障壁が欲しい。
なので路線変更。
ちょっといくつまで出せるか…いや、いくつまでなら同時に動かせるかをやってみよう。
ん~……そうなると詠唱も変えた方が良いかな?
それに壁にこだわる必要も別にないし、そこも変えちゃおう。
「ふ~む……ん、決めた。《【脅威防ぐ】[白の盾]。【囲み現れ我が意に答えよ】!タフネスカバー!》」
右手を掲げ唱えた俺の手から、4つの白い盾が生まれ降りてくる。その盾たちは俺の胴辺りの高さまで下りてくると、俺の周りをふわふわくるくる漂い始めた。
(よしっ!ここまでは成功!)
(ふわぁ!きれいな盾!それにちょっとかわいい♪)
呼び出した盾は完璧な白。
先ほどの半透明とは違い、盾の向こう側は全く見えない。
染めた理由は単純。透明だとあまり頑丈に思えないという気分の問題だ。
強化ガラスとかあるけどねぇ……。
それでもあんまり硬そうなイメージが無いんだよねぇ……。
多分ゲームでいつも、建物や車もろとも吹き飛ばしてるからだろうねぇ……。
お弁当箱とかお届けしてたからなぁ……。
それに、色を付けて飛ばせば、相手の視界を妨げることが出来る。
自分も見づらくなるが……そこはまた試したいことがある。
まぁまずは盾の強度を調べてみよう。
そう考え、盾を離れたところに送っているとき、マグが遠慮がちに話しかけてきた。
(…あの……コウスケさん……)
(どったのマグ?)
(今防御魔法の耐久力を調べてるじゃないですか)
(うん)
(それで、調べるのにサンダーを使ってるじゃないですか)
(強いからねぇ)
(…私思ったんですけど、ルークは物理ファイターですから、耐久力を調べるのは魔法じゃ意味がないのでは?)
(…………)
マグの言葉に俺は動きを止める。
(…………マグ)
(はい)
(……まったくもってその通りだわ……)
なんで俺は物理メインの相手の対策に、魔法攻撃で耐久テストしてんだろう……?
これは本格的に疲れてるのではないか……?
てか、これじゃあ耐久試験は出来ないな……。
一応昨日買ってもらった剣と杖があるけど、筋力Gの俺が殴ったところでなんにもならん。
はぁ……ちょっと休憩挟むか……。
盾を呼び戻しながらみんなのところに戻ると、メリーちゃんが俺にてててっ…と近づいてきて、俺に抱きついてきた。
「……おつかれ」
「お~…ありがとうメリーちゃん」
ふぅ……癒されるねぇ……。
よしよし…いい子いい子……。
「おかえりマギーちゃん。マギーちゃんって魔力操作が凄く上手なんだね!」
「あはは、ありがとうございます、ララさん。ずっとこればっか練習してましたから、ちょっと自信あるんですよ」
「でもなんで盾を戻したの?耐久力を試そうとしたんじゃないの?」
「あ~…実はですね……」
フルールさんに聞かれ、俺は休憩を挟んだ訳を話す。
「ふ~ん……活力は有り余っているのに、体力が追い付いてないと……」
「はい……マグとイチャコラしたりユーリさんの尻尾もふもふしたりメリーちゃんで癒されたりしても疲れまでは取れないみたいで……」
「それで取れたらあなた人間やめてるわよ?」
俺もそう思うが、不思議なことに行けそうな気がしてならないのだ。
あぁでも、これだとマグも休みなしになるなぁ……。
じゃあ駄目だ……。
(うぅ…やっぱり疲れてたんじゃないですか……)
(行けると思ったんだけど…ごめんね……)
マグにも結局心配をかけてしまった……。
くっそ~……人間気合だけじゃどうにもなんないんだな……。
「ねぇコウスケ。マーガレットの体はちゃんと休ませてるのよね?」
「そりゃ当然ですよ」
「それなら、マーガレットに体を返して、その間あなたは休めばいいんじゃない?」
「(あっ…なるほど……)」
フルールさん……あなた天才か……?
あぁいや待てよ。
「でもそれだと、練習の効率が……」
「あなたが戦うから、練習時間は自分に集中させたいってこと?」
「はい」
「でも、疲れて集中できなければ結局同じよ?」
「うっ……」
「それにあなた、マーガレットやメリーだけじゃなく、他の人のことでもあれこれ気を回してるでしょう?」
「そんなことは……」
「メイカたちにどうお礼をすればいいか」
「(うっ……!)」
「ユーリにコウスケのことを教えるかどうか」
「(うぅっ……!)」
「マーガレットの村の人たちとどんな顔で会うか」
「(ひぇ~……そこまで……!?)」
やっべぇ~……筒抜けやんけ……。
てゆうかマグまで驚いてるじゃん。
これ変わっても意味ないんじゃない?
くいくい
「………(じー)」
「…っ!」
メリーちゃんが心配そうな眼差しで見つめてくる。
そ、そんなまっすぐ見据えられると……!
「…………(じー)」
「えっと…えっと……!」
「……………(じ~)」
「…………休みます……」
「……ん♪」
駄目だ、勝てね。
無理無理こんなん、勝てるわきゃねぇ。
しゃあねぇ交代しよう……。
(マグ~……)
(!……んふふふ…♡)
…おや?
マグの様子が……?
(マグ?)
(んふふ~♡コウスケさん、まかせてください!コウスケさんがゆっくりしてる間、私がいろいろと魔法を試しますから!)
(そ、そう……?無理はしないでね……?)
(はい!)
(さっきみたいな事故には気をつけてね……?)
(はい!)
う~ん……なんかよく分からんが、マグがやる気満々なのは良いことだし……
(えっと……じゃあ…お願いね……?)
(はい!コウスケさんはぐっすりしててください!)
めちゃくちゃ元気なマグを不思議に思いつつ、俺はマグと交代し、ゆっくり休むことにした。
ん……やば……。
くぁ……はぅ………マグにまかせたら、急に眠気が……。
…ん~……自分でも気づかない内に気を張ってたってことか……?
「ふい……。ララさん、初めまして。マーガレットです!」
「初めまして。こうして話すことが出来て嬉しいわ」
ん……ファーストコンタクトは上々……かな……?
あ~……もう駄目だ……これ……寝る……。
(おやすみ……マグ……)
(はい。ごゆっくり♡)
最後のマグの言葉に、俺を休ませる以外の意図を感じたが、もう限界だった俺は、そのことを考える前に眠りに落ちた。
とりあえず今マーガレットが送ってるのが8日目で、8日目終わりまでは書いたので、そこまでは毎日投稿が出来ます。
なのでそのあと2日……いや、3日……4日…………3日でいけるように頑張ろうかなと思います。
楽しみにしていただいている方々には申し訳ありません。




