108.お狐さんのお泊まり…色々思い出した朝
〔ユーリ〕
ちゅんちゅん…ちゅちゅん……
「ん……ん…?知らない天井……?」
小鳥のさえずりに目を覚ました私は、目の前に広がる見知らぬ景色に少し困惑した。
が、すぐにここがいつもの宿では無いことを思い出した。
「そっか……結局お泊まりしちゃったんだ……」
昨日はマーガレットがお世話になってる冒険者の人たちにパーティに誘われて、その歓迎会をしてもらったんだっけ……。
そこでみんなに踊りを披露して……披露…して………ああぁぁぁ!!?
お、思い出した!
そのあとマグに甘えにいったら、今までに無いぐらい甘やかされて、お酒の酔いもあってそれにガッツリ甘えちゃって……!
や、やばい!思い出したら凄く恥ずかしい!!
しかも確かマーガレットに膝枕してもらってたような……!
そして寝ちゃったような!?
うわぁ!うわぁ!どうしよう!?
今日マーガレットにどんな顔で会えば……!?
…と、とりあえず起きようそうしよう……。
私がちょっと現実逃避気味にベッドから出ようとすると、それが目に入った。
私の反対側にメリーちゃんがいて、私とメリーちゃんに挟まれるようにしてマーガレットが眠っている。
それは良い。いやそれも本当は気になるけど、それよりも…
「な、なんでマーガレット裸なの……?」
そう、マーガレットが裸で寝てたのだ。
いやなんでっ!?
マーガレットちゃんと服着てたよね!?
このピンクの可愛いやつを……
「……なんで持ってるの……?」
なんで私がマーガレットのパジャマを持ってるの……?
あれ……?しかもよく見たら……メリーちゃんも服握ってない……?
えっ?どういうこと……?
「まさか……私たちの寝相悪すぎ……?」
マーガレットの服を脱がせちゃうほどの寝相の悪さ……って、それはさすがに無いか……。
……無い…よね……?
と、とにかく、マーガレットがまだ寝てる間に服を着せないと…変な誤解されちゃう!
そのためにもまずは……メリーちゃんを起こさなきゃ!
なぜならメリーちゃんがマーガレットに抱きついてるうえに、メリーちゃんが握ってるの……あれ、多分下着…だよね……?
じゃあまずは下着を着せてからじゃないと……!
というかそもそもメリーちゃんを離さないと!
私はマーガレットを起こさないように慎重に……ここ…部屋の隅っこなんだね……。
2人を跨がないようベッドから出ると、回り込んで静かにメリーちゃんに呼びかける。
「メリーちゃん…!起きて…!メリーちゃん…!」
「……すぅ…すぅ…」
駄目だ…全然起きそうにない……。
ど、どうしよう……!
で、でもこのままだとマーガレットが起きちゃうし……そうなったら……
○○。
「…なんで私の服を持ってるんですか……?」
「そ、それは……!」
「……えっち…」
「!!」
。○○
そ、そうなったら嫌われちゃう……!
「メリーちゃん…!起きて…!お願いだからぁ…!」
「………ん…んぅ……?」
やった!起きてくれた!
そのままとりあえずマーガレットを離して!
「……おひる…?」
「朝だよ…!」
「……ん~…じゃあ…まだねる……」
「なんでっ…!?」
朝なんだから起きないと!
メリーちゃん朝弱い……あっ……。
そ、そういえば昨日……フルールさんたちがお風呂に入ってるときに、なんとなく気になったからメイカさんたちに聞いたんだっけ……。
そしたら、ちょっと悩んだ後に、あの2人が吸血鬼だって教えてくれたんだった。
…あのとき…メイカさんが、私なら大丈夫だって言ってくれて嬉しかったな……。
誰かに信頼されるのって、やっぱり嬉しいな……。
なんて考えてるのが駄目だったんだろう。
寝なおそうとするメリーちゃんが、マーガレットのことにより強く抱きついたかと思うと……
「……♪(ぐりぐり)……あー……はぷっ…」
と、頭をぐりぐりして甘えたのち、マーガレットの首筋に噛みついた。
「ちゅうちゅう……」
「…………いやいやいやいや待ってっ!?」
いきなりのメリーちゃんの暴挙に頭が追い付かずボーっとしちゃったけど、なんとか戻ってきて、メリーちゃんにストップをかける。
「ちゅうちゅう……ちゅう?」
「と、とりあえず口離して!なんでいきなり吸い始めたの!?」
「ぷぁ……マーガレットがおいしいから」
「お、美味しいって……」
確かにマーガレットは凄く健康的で、顔色も良いしきれいな肌もしてるけど……。
「そういうことじゃなくて!そ、それ…マーガレットは……?」
「……知ってる…体がふらふらしない程度ならいいよって言ってくれた」
「そ、そう……」
マーガレット…さすが、肝が座ってるというかなんというか……。
親しい人でも、寝てる間に何かされるのって怖いと思うよ……?
それを許してるって……この子に心を許してるんだね……。
しかもほんの数日で。
…私の村の人たちとは大違いだなぁ……。
「んっ……メリーちゃん……?」
「ちゅうちゅう……ちゅう」
「ん…おはよ……」
あっ…マーガレットが起きた。
…今ので分かるって凄いなぁ……。
「ユーリさんも…おはようございます……」
「あっうん…おはよう……」
メリーちゃんに吸われながら私に挨拶をするマーガレット。
そっかぁ…ツッコまないんだぁ……。そっかぁ……。
「ちゅうちゅう……ぷぁ……ごちそうさま」
「はい、どうも。今日は早起きだねぇ」
「……ん。ユーリに起こされた」
呼び捨て!?
確かに昨日今日の仲だけど、私そんな見た目に出るほど頼りないかなぁ!?
「ふむ…ユーリさんはメリーちゃんの種族は知らないんでしたね」
「あっううん。昨日マーガレットたちがお風呂に入ってるときにメイカさんから聞いたし、フルールさんにも教えてもらったって言ったから……」
「ん…だったら……うっかりですか?」
「うっ……!はい…そうです……」
さすが……上半身裸でもやっぱりマーガレットは……裸?
……あっ……
「? ユーリさん?」
「あっ…えっと……あのねマーガレット。誤解なの」
「えっ何がですか?」
「えっとね…あの…その……」
マーガレットがメリーちゃんに抱きつかれたまま体を起こして、私の顔をじっと見つめてくる。
…………。
よし!潔く謝ろう!
「ごめんマーガレット!寝てる間にマーガレットの服脱がしちゃったみたい!」
「えっ」
「ごめん!ほんとごめん!でも故意じゃ無いの!信じられないかもだけど私も知らないのぉ!!」
私は誤魔化すのを諦めて正直に謝ることにする。
うぅ…!私の寝相がこんなに悪かったなんてぇ……!
やだぁ…!こんなことでこっちで初めて出来たお友達と別れるのはやだぁ……!!
「えっと…ユーリさん。頭を上げてください。ユーリさんがそんなことをする人じゃないって知ってますから」
「うぅ…ほんと……?」
「はい」
「ありがとうマーガレットぉ〜……!!」
良かったぁ……!本当に良かったよぉ……!
「ユ、ユーリさん?泣いてるんですか……!?」
「ぐすっ…だってぇ……!」
「も〜…そんなに気にするなんて……ほら、ユーリさん。怒ってませんから、こっちに来てください?」
マーガレットがベッドの縁に腰掛けて、ぽんぽんとベッドを叩き、そこに座るように促してくれる。
「ひっく…!うぇぇ……!マーガレットぉ……!」
私はそれに応じ、隣に腰掛けるや否や、マーガレットに泣きついた。
「よしよし…大丈夫ですよ〜。あなたはそんなことしません」
そんな私をマーガレットは優しく包み込んでくれて、私を励ます言葉をかけてくれる。
うぅ……本当に優しいぃ……!
「マーガレットぉ……!優しいぃ…好きぃ……!」
「くすくす……もう、ユーリさんってば……」
「ん〜……!(ぐりぐり)」
「はいはい、なでなでですねぇ」
「んふ〜……♪」
えへぇ〜…マーガレットのなでなで好きぃ……♫
しばらく私がマーガレットに甘えていると、そのマーガレットから唐突に、驚愕の事実を知らされた。
「ユーリさん。さっきはああ言いましたけど…私、本当は知ってるんです」
「ふえ……?」
知っ…てる…とは……?
「私がなんで服を着てないのかっていうと…自分で脱いだからです」
「…へっ……?」
マーガレット自身が脱いだから……?
「えっ…な、なんで……?」
「ん〜…ユーリさん…昨日のことはどこまで覚えてますか?」
「えっ?えーっと……」
…マーガレットにがっつり甘えて寝ちゃったところまで覚えてるけど……。
そ、それを言うのはちょっと…恥ずかしい…かな……。
「そ、それが…途中からふわふわしちゃって、あんまり覚えてないの……」
「でしょうねぇ……あの後ユーリさん寝ちゃって、ディッグさんに運んでもらったんですよ?」
「えっ…そうだったんだ…」
ちゃんとお礼言わないと……。
「そのときユーリさん…私の服を掴んで離さなかったので…そのまま私の部屋に運んでもらったんです……」
「そ、そうだったんだ……」
まさか膝枕してもらってそのまま離さなかったなんて……。
…えっ?あれ…?
「それってもしかして……私が離さなかったから、マーガレットが頑張って脱いだ…ってこと……?」
「…まぁ…そういうことです」
「ごめん!ほんと!ほんっとごめん!」
「良いですよ。それだけ甘えてくれてるってことですから」
「あぅぅ……」
は、恥ずかしい……!
結局私のせいってことに変わりはないしぃ……!
あっ…ちょっと待って……?
ということは……?
「…メリーちゃんも……?」
「離さなかったです」
「……マーガレットをぎゅってしてると落ちつくから…」
「わかる」
「分かっちゃうんです?」
わかるよ、メリーちゃん。
年相応なオーラのときは、可愛い妹…みたいな感じで、こっちが世話を焼きたくなるんだけど、大人っぽいオーラのときのマーガレットって凄く安心するんだよね。
なんでだろう……?
「…まぁいいか。ユーリさん、私はそろそろ起きるので、ユーリさんもお洋服を着替えてまたここにきてください」
「えっ?うん、いいけど……リビングに行くわけじゃないの?」
「まぁそれでもいいんですけど……」
マーガレットの言葉に疑問を返すと、マーガレットは机の引き出しからクシを取り出し、私とメリーちゃんにひらひらと見せてこう言った。
「せっかくですし、甘えんぼさんたちの髪を弄らせてもらおうかなって」
「!良いの!?」
「……!」
「人のをやったことは無いので、上手くはないと思いますが、それでもよければ」
「うん!お願い!」
「……おねがい…!」
「ふふふ…りょーかい♪」
やったぁ〜!
さっすがマーガレット!甘やかし上手!
「それじゃあメリーちゃんは私と着替えを持ってこよっか」
「……うん♪(こくり)」
「ユーリさん、着替え終わったらまたここで待っててくださいね」
「うん!」
「では、解散!」
そうして、マーガレットの部屋を後にした私は、本来自分が泊まる予定だった部屋に行き、顔を洗ったりお手洗いを済ませたりした後、自分の荷物から服を取り出して着替え始める。
ふんふふ〜ん♪
マーガレットに髪の毛やってもらえるぅ〜♫
マーガレットの触り方って、凄く優しくて好きなんだよねぇ!
少しくすぐったいんだけど、傷をつけないようにっていう気遣いを凄く感じるし、こっちのお願いも聞いてくれるし、それにやっぱり…安心するんだよね。
この大人モードのマーガレットは、最近はあんまり私の胸を見なくなったし。
子供モードのときはチラチラ見てくるけど、それも羨望の眼差しって感じだし、実際に自分の胸と見比べてるのも見ちゃったし……。
本人は隠してるつもりらしいけどね。
それを見ると、やっぱりマーガレットも女の子だなぁって思って、それが可愛くて甘やかしたくなるんだよねぇ♪
逆に大人モードのときは、触ってみる?って誘っても、顔を赤くして断るんだよねぇ……。
それもまた可愛くて、ついイジりたくなっちゃうんだよねぇ……。
ほんと、不思議だなぁ…マーガレットって。
でも、どっちのマーガレットも可愛いし、それに…どっちもマーガレットだもんね!
さてと…支度を整え、部屋にあった鏡で確認。
…う〜ん…髪の毛整えてもらえるとはいえ、少しは自分でやっといたほうが良いかなぁ……?
私だけじゃなくてメリーちゃんの髪もやるんだもんね。
それだとちょっと時間かかっちゃうよね……。
…ちょっと整えとこ。
「…よし」
こんなものかな……。
最終確認を終わらせた私は、再びマーガレットの部屋に向かう。
そして部屋の前まで来た私は、扉を叩いてから入る。
「マーガレット?いる?」
……返事は無し…っと。
「入るよ〜」
来てって言われたし、部屋に入ってても大丈夫だよね。
ガチャッ お邪魔しま〜す…
「あっユーリさん、おかえりなさい」
扉を開けるとマーガレットが鏡の前に椅子を持っていこうとしていた。
…おかえりって言われたのいつぶりだろう……。
しかもこんな笑顔で迎えてくれたことなんて、それこそ何年ぶりだろう……。
「? ユーリさん?」
「…っ!」
「…どうしました?」
「ご、ごめん…ちょっとぼーっとしてた……」
少しぼんやりしてしまった私に、心配そうな声をかけてくるマーガレット。
「…まだ眠たいならもう少し寝てても大丈夫だと思いますけど……」
「う、うぅん!大丈夫大丈夫…!」
「…それなら良いんですけど……」
う〜ん…やっちゃったぁ……。
村のことなんて今まで思い出したことなかったのに……。
「あっ、ユーリさん。申し訳ございませんが、先にメリーちゃんの髪を整えるので、ベッドに座って待っててもらえますか?」
「うん、分かった」
「そいじゃあメリーちゃん。ここに座って〜」
「……ん♪」
ふぅ…なんとか誤魔化せた…かな?
…マーガレットが気を遣ってくれてるのもあるけど……。
私はそっと胸を撫で下ろし、マーガレットの言う通りベッドに腰掛けて、髪を梳かれるメリーちゃんの様子を眺める。
マーガレットが鼻歌を歌いながらメリーちゃんの髪にクシを通し、メリーちゃんも目を閉じ気持ち良さそうにしている。
その光景が微笑ましくて、私の中からさっきまでのもやもやは姿を消したのだった。
すいません…もうちょっと……!
もうちょっとだけ「第一章登場人物まとめ」は待ってください……!
今がんばってまとめてるのでっ!




