間幕 : 霧の中の子供。
フェイト
今朝、僕は書斎の掃除をしなければならなかった。
もう数日間、そこは散らかったままだった。
僕はほとんどの時間を、魔獣図鑑の作成に費やしていた。
そして今日、じいちゃんは本当に怒っていた。
「 フェイト!!!」
僕は両手で耳を塞いだ。
見ると、彼は扉の枠に立っていた。
その目は怒りで黒く染まっていた。
「俺が何と言った?!」
「 書斎を片付けろって……?」
「 それで――なんでまだ終わってないんだ?!」
僕は椅子から立ち上がり、本を一冊ずつ掴んだ。
「 他の腕は使わないのか?」
「 うん。必要もないのに使うのは好きじゃないから。」
最近、おばあちゃんが時々僕たちのところへ来るようになってから、彼女は僕に魔法を教えてくれていた。
僕にとっては二人目の先生みたいな存在だった……。
でも、もっと厳しくて――そして、あまり優しくない先生だった。
だから数ヶ月前から、僕は実はある魔法を使えるようになっていた。
それは、翼が繋がっている二本の腕を消すための隠蔽魔法。
その結果、僕には人間の腕だけが残る。
弱いけれど、「普通」の腕。
僕が隠していない身体の部分は、角と……。
「 うわっ!! 尻尾に気をつけろ。動かすたびに埃が舞ってるぞ。」
「 あ、ごめんなさい。」
僕はじいちゃんの方を向いた。
最近、彼はすっかり不機嫌になっていた。
ヘンリーさんは歳のせいだと言っていたけど……違う。
僕には分かっていた。
何かを気にしている。
だから本を片付けている途中、僕は手を止めた。
「 どうした?」
彼が尋ねた。
「 ううん。ただ……最近のじいちゃん、変だなって思っただけ。」
何もかも我慢できなくなってるみたい。
彼は手に持っていた本を床へ置いた。
そして微笑み、立ち上がると僕の頭へ手を置いた。
「 心配するな。」
これは七歳の子供が関わるような問題じゃない。
そう言って、彼は去っていった。
彼の顔は、言葉とは逆のことを語っていた。
僕がよく知っている笑顔。
守ると言いながら、本当は隠そうとしている笑顔。
彼は僕を手伝い終わっていないのに、書斎を出て行った。
僕は立ち上がり、彼が部屋を出ていく姿を見た。
なぜ?
どうしていつも、守るという理由で僕に何かを隠すの?
僕はもう、自分を守れるくらい大きいのに。
僕はリビングへ向かった。
彼は気分転換をするためなのか、外へ出ていった。
僕はテーブルを見た。
そこにはガラス製の花瓶が置かれていた。
おばあちゃんが持ってきたものだった。
僕はテーブルへ近づき、一枚の手紙を手に取った。
薄い紙の手紙。
村の管理者が書いたものだった。
僕はそれを開き、読み始めた。
*
**
「親愛なるラプラスへ。」
最近、霧の大地の環境は、もう村にとって住めるものではなくなってきている。
そこには一匹の獣が徘徊しており、生態系そのものを変化させている。
私たちに残された選択肢は二つ。
それを殺すか――この場所を去るかだ。
だが、おそらく君も私たちと同じで、去るつもりはないのだろう。
だから村全員で考えた。
あの獣を追跡し、殺すことを。
姿も分からない。
そして、命を賭けることになるかもしれない。
もちろん……君もその中に含まれている。
フェイトへ別れを告げる時間として、二日間を与える。
心配するな。
もし君に何かあったとしても、ヘンリーがいる。
彼の家族がフェイトを引き取ることになる。
もう一度言う。
こんな選択を君に押し付けることを、本当にすまないと思っている。
私も、自分の息子たちへ別れを告げた。
だが、愛するものを守るためには、他に方法がないのだ。」
*
**
私は手紙を静かに置いた。
じいちゃんは家へ戻ってきて、暖炉の前にいる僕を見つけた。
二ヶ月後には、冬が私たちの家へ訪れる。
僕には分かっていた。
もし彼がそこへ行けば、生き残る可能性よりも、帰ってこない可能性の方が高い。
「 フェイト、薪を運ぶのを手伝ってくれるか。」
「 うん、今行く。」
時間は天使のように過ぎていく。
彼の顔にはすでに皺が刻まれ、身体は弱っていた。
もし戦いに行けば、僕はもう彼に会えない。
僕は暖炉の前へ薪を置き、彼へ振り返った。
「 じいちゃん……本当に行かなきゃいけないの?」
彼は何も言わず、僕を見た。
「 手紙を読んだのか?」
「 うん。」
「 ああ……。」
彼はため息を吐いてから言った。
「 知っているか?」
お前の母親とお前を引き取った時、こんなにも多くのことを経験するなんて思っていなかった。
彼はそこで一度言葉を止め、台所へ向かった。
そして食事の準備を始めた。
「 でもな、お前たちと一緒に暮らすことで、生きることがどれだけ楽になるのかを知った。」
正直に言えば……お前に出会っていなかったら、俺はまだ生きていなかったと思う。
「 どういうこと?」
彼は手を止めて言った。
「 俺は……いや、違うな。」
きっと、俺はその前に自分で命を絶っていたと思う。
突然、彼は僕の方を振り向き、固まった。
僕はその場から動けず、Tシャツを握りしめていた。
そして泣いていた……。
「 じいちゃんに死んでほしくない。」
彼は微笑んだ。
そして僕へ近づき、しゃがみ込むと僕の頭へ手を置いた。
「 俺たちは生き物だ、フェイト。」
物語を終わらせる時が来るのは自然なことだ。
でも、自分がもう誰の役にも立てないと思った時……。
時には、早く終わらせてしまいたいと思う方が楽に感じることもある。
もし、いつかお前が俺と同じ場所まで来ることがあったら、考えるんだ。
僕は泣くのをやめ、彼を見た。
「 自分が誰の役に立っているのかを考えるんだ。」
僕は大きく距離を取った。
この年齢でも――こんなことを言われるのは普通じゃないと思った。
それでも、彼の瞳には悪意なんてなかった。
ただ、経験だけがあった。
彼は穏やかだった。
余計な考えもなく、とても澄んだ心をしていた。
世界の中での自分の居場所を理解した男。
そして、自分がいつ必要とされているのかを知っている男。
「 たぶん……分かった気がする。」
「 それでいい。」
夕食の後、じいちゃんは母さんを部屋へ連れて行った。
その後、僕は書斎へ向かった。
祖父はリビングへ移動した。
僕の目の前。
開いたままの母さんの部屋の扉の向こうで、彼女は僕を見ていた。
僕は本を置き、彼女の元へ向かった。
部屋へ入り、彼女の足へ腕を回した。
彼女は大きな努力をして、僕の頭へ手を置いた。
そしてゆっくり撫でてくれた。
「 お母さん……僕、何か悪いことした?」
「 ……」
「 もっと頑張らないといけないのかな……。」
「 ……」
いつものように、彼女は答えなかった。
僕は微笑み、彼女から離れた。
「 ありがとう。」
僕は離れて、部屋を出ようとした。
「 フェ……フェイト。」
僕は目を見開き、彼女へ振り返った。
彼女は温かい笑顔を見せていた。
僕は自分の感情を表現するのが、とても難しかった。
彼女が僕の名前を呼んだことが、今まであったのかすら分からなかった。
でも僕は笑顔を返し、自分の部屋へ戻った。
全員が眠りについた後、僕は起き上がった。
扉を開け、暗闇に包まれた廊下を見た。
そこを照らしているのは、月の光だけだった。
リビングへ行き、入口に置かれていたじいちゃんの剣を見た。
「 僕も……役に立たないと。」
僕は彼の剣を持ち、外へ出た。
夜は淡い青白い光を作り出していた。
霧の大地の霧によって、ぼんやりと滲んでいる。
私が石の通路へと向かうと、キオクタたちは私を見つめていた。
私はそのまま石造りの通路を進み、やがて目的の場所へ辿り着いた。
その先で……私は誰にも許可を取らずに家を出ていた。
そして、じいちゃんの剣を持って……なぜ?
じいちゃんに死んでほしくなかったからだ。
だから、私は一人でその獣を倒しに行かなければならなかった。
ルシアが見せてくれた夜空を眺めながら、私は左へ顔を向けた。
森との境界線は、霧の大地から始まっていた。
私はその森へ向かって歩き出した。
石の壁に沿って進み、二十分ほど歩いた頃、ついにその有名な森の入り口へ辿り着いた。
中を覗き込む。
そこを完全に覆っている霧以外には、何も見えるものはなかった。
私は心臓の鼓動を落ち着かせるために、息を吸い、ゆっくり吐いた。
「 ほら、フェイト。今は逃げ出す時じゃない。」
私は正面を見つめ、森の中へ入り始めた。
空気は冷たくなり、ほとんど湿っていた。
「つ一つの坂道、起伏、その全てを感じ取ることができた。」
たぶん二十分ほど経った頃、それは落ち着いた。
私は呼吸を整え、周囲を観察した。
二メートル。
それが私が見ることのできる距離だった。
それだけで、あらゆる動きが一気に危険なものになる。
自分がどこへ進んでいるのか分からなかった。
どこへ行けばいいのかも。
「 不思議だ……。」
正直に言えば、不快ではなかった……いや、むしろ心地よかった。
全てが静かだった。
全ての音、全ての響きが、まるで自分の一部であるかのようだった。
「 ああ……。」
そうだ。
私は、私が霧の大地から来たと言ったじいちゃんの言葉を理解した。
私は地面に座り、そのまま湿った草の上へ横になった。
ここでは、自分が自分の居場所にいるような感覚がした。
まるで繊維で作られた繭のような場所。
温度も、その周囲にある全てのものも、私の自然な領域の一部だった。
「 ……」
気づかないうちに、私の意識は揺らぎ、瞳孔は細くなっていった。
そして、まるで夢の中にいるかのように、私は眠りへ落ちた。
*
**
遥か、遥か昔。
四本の恐ろしい脚で大地を踏みしめることのできる獣たちがいた……。
巨大な翼によって空を切り裂き、巨大な顎によって岩を砕くことのできる存在。
その獣たちは、こう呼ばれていた。
ドラゴン。
ドラゴンと人間の女性の血を引く若者は、その身にドラゴンの本能を持ち合わせていなかった。
その欠落によって、彼は自身の全ての力を発展させることができずにいた。
しかし、ドラゴンは自分自身の本質を理解している。
どのような形であれ、彼らは自分と相反するものを支配することができる……。
「 なんだ、この不思議な感覚は?」
若者は走り出し、四本の手足を地面についた……。
彼の周囲からは、奇妙な濃い霧が立ち上っていた。
いや、二本の大きな腕に繋がった翼が、その姿を霧のように見せていたのだ。
しかし、もはや少年はそれを気にしていなかった。
彼は自分の自然な空間を楽しんでいた。
夢の中に溶け込むように、強烈な感覚の全て、聞こえてくる音の全てが少年の頭を混乱させていく。
そして彼は、別の獣と出会った。
それは、爬虫類の身体を持つ、まるで鶏のような生き物だった。
その獣はすぐに警戒態勢に入った。
目の前に存在する黒い塊に怯えていたのだ。
二メートル先すら見えないほど濃い霧の中で、赤い二つの瞳だけが浮かび上がっていた……。
突然。
黒い塊は、その鶏へ飛びかかった。
肉を引き裂く音が響き渡った。
血が周囲へ飛び散った。
そして、骨が砕ける音が聞こえた……。
少年は顔を上げた。
黒い鱗に覆われたその顎は、濃い赤色に染まっていた。
しかし、その時。
背後から枝が折れる音がして、彼は不意を突かれた。
彼はゆっくりと、その音の方へ顔を向けた。
背後。
動いた尾によって霧が晴れた場所の近く。
そこには、黒い髪を持つ若い男がいた。
彼の背中には、秋色の髪をした黒髪の若い女性が背負われていた。
不思議なことに、その少年はその獣を見ても、とても落ち着いていた。
口からこぼれた言葉は、ただ一つだけだった。
「 ドラゴンが、ここに?!」
黒いドラゴンは、赤い瞳を持つ少年の方へ振り向いた。
彼は顔を上げ、そして二人の視線が交わった。
これは、革命の時代の話。
出会う運命にあった二つの魂の邂逅の物語である。




