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「日常の不協和音」  作者: Harumin


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19/31

「救世主 ー佐々木恭兵ー」

「おう、律、いるか〜」


玄関のドアを軽く叩く声が、静まり返った部屋に響いた。

律の自宅を訪れたのは、総務部人気No.1——佐久間 恭兵だった。

律のいとこ、35歳。独身を謳歌している。


「なんだ、居るんじゃねーか。返事くらいしろよ」


靴を脱ぎながら勝手に上がり込み、いつものようにリビングに入る。

そこで恭平が目にしたのは、仕事部屋のデスク前に座り、

肩を落とした律の姿だった。


「……どうした、律」


その背中は、昔と同じ“迷子のときの律”のそのものだった。

恭兵の胸に、あの頃の記憶が蘇る。


***


律がシステムエンジニアとして寝食を忘れて働いていた時期。

限界ギリギリまで自分を追い込んで、

ボロボロになった律の前に現れたのが——カオリだった。


弱った律を包み込むように支え、

「頑張らなくていいよ」「そばにいるから」と優しく寄り添っていた。


あの時の律は、あの愛情に“甘えてしまっていた”。

責任から逃れる避難所みたいに、カオリに寄りかかり、

自分を見失っていく律の姿が痛々しかった。


しばらくして律は仕事に復帰したが、

また以前のように、毎日遅くまで仕事、自宅でも仕事が続いた。

休日も会社から連絡が入り、

カオリとの約束を守れなくなっていったあたりから——

彼女は徐々に変わっていった。


「どうして返事できないの?」

「仕事仕事って…私よりそっちが大事なの?」

「ねぇ、聞いてるの?なんで無視するの?」


声が強くなり、感情が激しく揺れ、

律が沈黙すればするほど、カオリの声は大きくなっていった。


まるで、律の心に響く音がすべて反響するように、

鋭い音で胸を突き刺してくる。でも、カオリには恩がある。


恭兵は何度か現場に居合わせていた。

律のスマホに何十件もの不在着信が入っているのを見たこともあった。


——あの時の律の表情は、まるで音に圧し潰されそうな顔だった。

律はある時

「うるさいんだよ…」

と、小さな声でつぶやいた。


優しかったカオリの声が、

いつしか律にとって “うるさい雑音” に変わっていた。

彼女がヒステリックに責め立てるたびに、

律の沈黙、目の奥の光が少しずつ鈍っていった。


恭兵は律の”うるさいんだよ…”の声を拾った。


だから——あの日、恭兵は言ったのだ。


「もう逃げろ、カオリから離れろ…律」


「これ以上見てられねんだよ お前が感じてる雑音を切れ。

 その雑音を我慢してたら、お前がまた壊れる。 抜け出せ!」 


 「お前と同じ波長の人が必ずいる絶対!」


その言葉が、律の胸に刺さった。

”いるのか?俺と同じ波長が”

そんなことがあるのか?探したい。


律は、“自分の雑音”と向き合い、

演じ続けていた恋に終わりを告げた。


「どうして、何がいけなかったの?」

君が重い…”うるさい…雑音”にしか聞こえないとは言えなかった。


***


現実に戻って、恭兵は律の隣に腰を下ろし、深い息を吐いた。


「……なにかあったんだな?」


律は、少し目を伏せて、小さく頷く。


「……カオリが、現れた」


その言葉を聞いた瞬間、恭兵の顔に“やっと繋がった”という複雑な色が浮かぶ。


あの頃、律に何度も言った——

“お前と同じ波長の人が必ずいる。絶対にいるから。”


蘭と出会えたと聞いたとき、恭兵は心の底から嬉しかった。

やっと律が救われたと思った。

ちゃんと並んで歩ける相手に巡り会えたのだと。


……なのに。


「……よりによって、このタイミングでかよ」


恭兵は大きく息を吐き、背もたれに体を預けた。


「蘭と上手くいってるって思った矢先に……これかよ。

ほんと、お前の人生ってさ、波風立つ時はまとめて来るよな」


律は、返事をせずにただ視線を落とした。

その沈黙の重さに、恭兵は“察するしかない”とわかっていた。


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