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第29話『裁判開廷』

遅くなってしまい申し訳ございませんでした。

第29話できましたので、宜しくお願い致します。


※改稿しました。ストーリー・キャラ設定等は変えてませんが、矛盾している箇所があったので、その部分だけ修正しました。

※2022年3月15日改稿しました。

※文字数かなり多めです。

 魔王の罪、それはブロンズちゃんに嘘をついて泣かせて、結果的に危ない目に合わせてしまったこと。


 その罪は何よりも重く、許しがたい事だ。ブロンズちゃんの事が大好きな赤髪ちゃん達も激しく憤慨している。俺も少し怒っている。


 何か魔王に報いが無ければこの怒りが収まることはないだろう。だから裁判が必要なのだ。それは日本でも同じ理由だ。罪を犯した者に対して正しい裁きを与えなければ秩序は保たれない。それが無ければ荒れ果てた世紀末である。


 もうこれ以上ブロンズちゃんを傷つけないように、大切な人の涙を流させないように、今裁判が開かれようとしている――ここ食堂で。


『あの、ここでやるんですか?』


『はい、ゴールドさん達が夕食を作りながら参加したいとのことで』


 なるほど、コックとしての責務を果たしつつ、この裁判を見守りたいと……その心は非常に素晴らしいのだが、それちゃんとそれぞれに集中してできるのか? 正直情報量が多すぎて頭がパニックになりそうだが……。


『今日は皆の大好きな白き新世界のチューを作ろうと思っててな。長時間煮込むから料理しながらじゃないと夕食の時間まで間に合わないんだよな』


 ならわざわざ裁判に参加しなくても良い気がするが……まあいいか。


 ちなみに白き新世界のチューとはあのホワイトシチューの事である。相変わらず意味不明すぎる名前だがもうツッコまないよ。


 全くホントこの世界は――ん、あれ? 


 そういえば俺のこの世界で過ごしていた記憶上では、()()()()()()()()()()()()()()()()


 少なくともホワイトシチューはホワイトシチューそのものだったし、食パンはパンツではなく、普通に食パンだったはずだ。


 なのになぜ料理名がこうも変わっているのだろうか? 


『お兄ちゃん知らなかったの? そのメニュー名って、ただの方言よ』


『ええ!? 方言だったの!?』


 どうりでこの世界の生まれなのに、変てこな料理名に微塵も懐かしさを感じないと思ってたら、そういうことか。


『あの時、本当にパンツを持ってきたゴールド姉可愛かったわ~』


 ゴールドちゃんの黒歴史を掘り返してやるなや。確かに可愛かったけど。


『おい! ブロンズ! 恥ずかしい事思い出させんなー!』


 既に調理モードに入ってるゴールドちゃんは俺達の会話が耳に入った瞬間、顔を真っ赤にした。可愛い。


『あらら、また照れちゃって……ゴールド姉可愛いわ~』


 ブロンズちゃんは照れるゴールドちゃんをからかって楽しんでいる。なんて微笑ましくて尊いやり取りなんだ。ここは天国かよ。


『そういえば、あの時のメニュー表ってブロンズちゃんが書いたものだっけ?』


『ええ、そうよ。ゴールド姉の恥じら……元気な姿を見たくて書いたの……』


 全て計算済みのブロンズちゃんはわざとらしく頬を染め、もじもじしながらそう言った。絶対ゴールドちゃんを恥じらわせたいだけだろ。全くこの娘は……。


『ブロンズちゃんは、本当に根っからのいたずら好きなんだね』


『ええ、お兄ちゃんにも、たくさんいたずらしてあげるね♪』


『おいおい……』


 やめて差し上げて下さい。……いや、待てよ。こんな美少女にいたずらされるというのは……それはそれでご褒美なのでは?


『うわっ……私のいたずらがご褒美って……お兄ちゃんの変態……やっぱいたずらせずに一生シカトするわ』


 あ、しまった。ブロンズちゃんは心を読めるんだった……。ああ、視線が痛い。しかも君のような美少女に一生シカトされるのはキツイ。どうかずっと俺に構ってくださいお願いします。


 ブロンズちゃんとそんなやり取りをしている内に、赤髪ちゃんは裁判官の席に座り始めた。どうやら裁判の準備が出来たようだ。


『それでは裁判を始めます。皆さん、各々決められた席に座ってください。ゴールドさんと、シルバーさんは、ご飯作りながらで構いません』


 ゴールドちゃんとシルバーちゃんは赤髪ちゃんのお言葉に甘えて調理場へ向かった。


 ご飯作りながら裁判聞くって忙しそうだな。俺はそんな2人に何か手伝おうか? と聞いてみるが――


『おう、ありがとな。でも大丈夫だ。ダストっちは裁判に専念しててくれ』


 ゴールドちゃんがそう言うなら俺はここで嘘つき残念魔王の末路を見届けるとしよう。


『それでは裁判を開廷します!』


 木槌を鳴らす音が響くと同時に、赤髪ちゃんの宣言通りに裁判は開廷された。


 奥の席に座った赤髪ちゃんが裁判長。ブロンズちゃんは俺から見て左側……原告人の席に座っている。クソボケ嘘つき魔王は俺から見て右側……被告人の席に座っている。ゴールドちゃんとシルバーちゃんは調理場だったり傍聴席だったり。俺とあおいちゃんは傍聴席に座っている。


『あれ? 弁護士とかはいないの?』


『弁護士? なんですかそれは?』


 あ、そっか。この世界には弁護士という概念がないんだったな。かつての俺は裁判の存在自体よく知らなかったから全く知識が無いや。ということはこの世界の裁判を見るのは初めてということになる。


 どんな感じなんだろう? 残念ボケ魔王には悪いけど、ちょっとわくわくしてる自分がいる。


『まず原告人ブロンズさんから被告人魔王様にどんな罰をご所望ですか?』


 もう被告側に罰を与えるの前提なんだ……これ裁判の意味ある?


『うーん、そうですね……私に1年分のお小遣い分の罰金がいいですね~』


 ブロンズちゃんは被害を受けたとは思えないほど嬉々としてそう言い始めると、嘘つきアホ魔王は慌てて自分の財布を確認し始めた。払えるか不安なんだな。


『なるほど。魔王様何か反論はありますか?』


『はい! ブロンズちゃん。確かに儂は君を泣かせるような事をしてしまった。それは本当に悪かったと思ってるよ。でもだからってカツアゲなんて酷いよ……わし、泣いちゃうよ?』


 嘘泣きクソ魔王はつぶらな瞳でブロンズちゃんを見つめて罪を軽くする作戦に出た。


 同情を誘ったつもりなんだろうけど、美少女の姿の時はともかく今はよりによって悪人面の爺さんの姿だから絵面がキツすぎる。愛くるしい瞳とのギャップでむしろ吐きそうだ。


『まーちゃんこそ酷いわ! だって嘘つかないって約束したのに約束破ったんだもの! 最低! 人でなし! 嘘つき!』


 そう泣きながら最低人でなし嘘つき魔王を罵倒した。


 しかしこれはブロンズちゃんの嘘泣きだ。確かに言っている事はわりと本心からなんだろうが、さっきまで表情を明るくして俺とくっちゃべっていたわりに、ここに来て急に泣き出すなんて情緒が不安定か、それともとてつもない演技を披露しているかどちらかだろう。


 今回のブロンズちゃんの場合は絶対後者だ。まだ短い付き合いだが俺には分かる。ブロンズちゃんがそういう娘なのは。


 しかしこの泣きっぷりには恐れ入った。本当に泣いているようだった。そこに嘘を感じさせない見事な演技力。


 ブロンズちゃんのあまりの啼泣ぶりに俺含め、この場にいる全員が(おのの)いた。マジで女優になれるんじゃないか?


『はい、魔王様は完全に論破されました。もう反論できません。あとでブロンズさんに1年分のお小遣いを支払って下さい』


 赤髪ちゃんは嘘つきボケ老人に反論の余地を与えず、半ば強引に罰を決定させた。


『ええ!? そんな!? 無慈悲すぎる!』


『無慈悲な嘘をついたのは……どこの魔王様ですか? 少なくとも、あなたはブロンズさんの心に傷を負わせたのですよ?』


『うっ……それは……』


 語彙力無し夫の魔王はこれ以上言い返せなさそうだ。


 まあブロンズちゃんの心に傷をつけたのは紛れもない魔王だしな。こればかりは魔王に落ち度があると言わざるを得ない。


『魔王様、ざまa……ゴホン、残念ですがもう決定しましたので、大人しく罰を受け入れて下さい』


『今、ざまあって言おうとした? 酷くない?』


『さて、ブロンズさん、他に何か罰を与えますか?』


 赤髪ちゃんは残念嘘つき魔王のツッコミを完全に無視して、ブロンズちゃんに話を振った。


『そうね……ちょっと考えさせて』


『スルーしないでよ! うわああああああああん!』


 威厳無し夫の爺さんはとうとう子供のように流涕してしまった。しかも泣き出した瞬間、なぜか美少女の姿になってしまった。


 その刹那――赤髪ちゃんは裁判長であることを忘れ、残念ロリ魔王に対し獲物を狩るかのような目を向けた。


 これはあとで()る気だ……あの“血の撮影会”が再び……。


『さ、裁判長の権限で、魔王様撮影会の刑を追加させて頂きます。ぐへへ』


 変態裁判官の赤髪ちゃんは思い付いたかのように勝手に刑を追加した。


 ぐへへって言ったぞこの人、完全に私情だよね?


『ひ、ひぇぇ、こんなのあんまりだぁ……ダレカタスケテ』


 追い詰められた残念美少女魔王は、滂沱の涙を流しながら助けを求めた。幹部にここまで精神的に追い詰められる魔王って……魔王としての威厳は涙と共に流れてしまったのか。


『ちょっとまーちゃん、あなた仮にも魔王なんだから、もっとしっかりしなさいよ』


 被害者側にも関わらずブロンズちゃんは魔王を母親のように叱る。


 ブロンズちゃんのごもっともな意見に、赤髪ちゃんも俺もうんうんと頷く。


『じゃあ罰を軽くして下さい……』


『それは~で・き・な・い・わ』


 ブロンズちゃんはアイドルのようなウインクをしながら可愛らしく返答した。威厳無し夫のナントカ王様は、やっぱりダメかー! と肩をがっくりと落とした。


『魔王様、この期に及んで罰を軽くしてもらおうなんて図々しいですよ! ブロンズさんどうしましょう? この哀れな魔王様に何か他に罰を追加致しますか?』


『ん~じゃあ~私特製の調合に調合を重ねたこのカオスな薬を……と思ったけどやっぱり止めるわ。これ以上はさすがのまーちゃんもオーバーキルだし』


 ブロンズちゃんはさすがにこれ以上は可哀想と思い、嘘つきナントカナントカ様は、罰が増えない事にこれまでにないくらいの嬉し泣きを披露した。


 これ以上罰が増えたら、もう財布はもうとっくにゼロよ! 状態になってしまうだろう。さすがにそこまでやるのは俺も気が引ける。


『よろしいのですか?』


『ええ、でもその代わり。まーちゃん……いえ、魔王様! あなたに、私が提案した()()()()()を守ってもらいます!』


 ブロンズちゃんはまるで某裁判ゲームのように、この嘘つき魔王に指を指した。心なしか絵柄まで変わったような気がしたぞ。


『新しい約束?』


『新しい約束……それは、“自分を含む、ここにいる全員の命を守ること“!』


『ブロンズちゃん……』


 ブロンズちゃんの事だからなにかえげつない約束させるのかと思った自分を殴りたくなった。この約束にはブロンズちゃんの、死なせたくないという想い……これからも皆と笑顔で暮らしたいという想いを感じる。


『ブロンズちゃん……言われなくてもだよ。君達と()()()()()()()()()()()()()()絶対に守ると誓ったんだ』


 涙の跡がくっきりと見えている魔王は優しい笑顔でそう誓った。


 その笑顔に偽りがあるとは到底思えない優しい声で。


 これには、赤髪ちゃんやあおいちゃん、ブロンズちゃんも感涙を禁じ得なかった。


『まーちゃん……ありがとう!』


 ブロンズちゃんも満面の笑顔だった。この尊い瞬間を写真に収めたいと本気で思った。


 あ、赤髪ちゃんが隠し持ってたカメラをカシャカシャと間髪いれずに撮ってる。俺と発想が全く同じだったか。


『ブロンズざあああん! 魔王ざばああああああ!』


 赤髪ちゃんは溢れ出るエモさに耐えられなかったのか、涙を滝のように流しながら、カメラを撮るのをやめなかった。すげえこれがカメラマンのプロ根性ってやつか(多分違う)。


『ブロンズうううううう! うおおおおおおお!』


 さっき調理場から戻ってきたゴールドちゃんがブロンズちゃんに抱きつき、美少女とは思えないくらい勇ましい男泣きをしていた。


『ブロンズちゃん……』

 

 遅れてシルバーちゃんも涙目になりながらブロンズちゃんに抱きついた。


 微笑ましい……だけど、俺にとってあまりにも、胸焼けするような光景だったので、俺はこっそり食堂から出ていった。


『では、これにて裁判は閉廷します! ありがとうございました!』


 赤髪ちゃんの閉廷宣言が廊下まで響いた。泣き声もすげえよく聞こえる。なんて愛が強い光景……でも、今の俺には、()()()()


『今は夕飯食べる気分じゃないし、部屋に戻ってよう』


 部屋に戻ろうとしたその時、あおいちゃんが黙って食堂から出ていく俺が心配になったのか、俺に気遣いを持って接してくれた。


『ダスト様、どうかされましたか?』


『あおいちゃん……いや、何でもないですよ。ただ、胸焼けが激しくて……』


『大丈夫ですか? あのダスト様、もうすぐ夕食ができると思いますが……いかがいたしますか?』


『後で食べにきますよ。ただ、今は1人にさせてほしいです』


 俺は食堂を後にして、一旦自分の部屋へ向かった。あおいちゃん……皆、ごめんよ。


『ああ、()()()()()()()()()()()()()


 俺は……正確には記憶上の俺だが1度あの()()()()()()()の記憶を完全に消去した。だけど、また今思い出してしまった。今後また忘れることは難しいだろう。


 俺はいずれこの事を皆に話さないといけなくなる可能性がある。もしその時が来たら……俺は……()()()()()()()()()()()()


 そうならないことを、俺はベッドの上で就寝する時まで祈り続けた。


第29話を見て下さり、ありがとうございます。

第30話も、出来次第、投稿していきたいと思います。

宜しくお願い致します。

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