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291 きれいな商会主 2

「うまくやってるかしらね?」

「いや、仮にも大店の商会主だよ? 口が上手くて、役者(・・)に決まってるじゃん」

「それもそうか……」


 あの後、クルト商会の商会主を別の部屋へ移してから眼を覚まさせて、色々と仕込み(・・・)をしたのだ。

 ……いや、怪しい薬(ポーション)を使ったり洗脳したりしたわけではなく、『御使い様による、女神様からの託宣』があっただけである。


 ま、そういうわけで、私達による7人の従業員プラス商会主の拉致事件はうやむやのうちに『なかったこと』になった。

 うん、商会主に、『相手の正体は不明だけど、犯人達はみんな死んだ。下手に表沙汰になるとうちの名に傷が付くかもしれないし、さすがに向こうの雇い主も、もう手出ししようとは思わないだろう』と従業員達に説明するよう言ったからね。

 商会主が直々に助けてくれたとなれば、その指示に反対する者はいないだろう。


 あとは、ターヴォラス商会の王都支店とホークス商会に流している商品のうち、海産物を減らしてクルト商会のダメージを軽減すれば、一応は元通りだ。

 クルト商会の傀儡商店が恭ちゃんのお店にやってくれたこと、そしてターヴォラス商会王都支店の従業員や、彼を守ろうとしてくれた警備兵にやってくれたことに対する処罰は、……うん、まあ、その報いとして、今後私達の役に立ってもらうことと、明らかに相手には非がなかったのに大損をさせた取引先には賠償する、ってことで、今までの償いをさせることにした。


 ……いや、何でもかんでも、全部賠償させるというわけじゃない。相手に全く非がなく、そして賠償金を支払うべき相手として、本人かその妻子がいる場合のみだ。

 でないとクルト商会が潰れちゃうし、被害者の従姉妹とか叔父とか、そんな関係のないヤツにお金を渡す必要はないだろう。

 つまり、いくら高金利であろうが、それを承知でお金を借りたとか、いくら酷い条件であろうが、ちゃんと契約書に書いてあったとかいう場合は、アレだ。『汝ら(YE)罪なし(NOT GUILTY)』ってヤツ……。


 こうして、今回の件は予想外の結末を迎え、大事おおごとになることなく、無事一件落着となったのであった。私達に、使えそうな手駒を確保させて……。


「んなワケないでしょ! まだ、警備隊方面がどうなるか分かんないじゃないの」

「あ……」

 レイコから、鋭い指摘が。

 まあ、そっちは、状況が判明するのを待つしかないか。


     *     *


 そして私達は、通常営業ルーティン・ワークに戻った。

 恭ちゃんが王都で確保した賃貸家屋はそのままで、私達の誰かが商品の納入とか王都の様子確認とか買い物とかで来た時に使うことにした。本格的に使うのは、恭ちゃんの店が王都に移転してからだと思うけど……。


 そして不在の間に浮浪児達に住み着かれたり、チンピラ達の根城にされたりしちゃ困るから、不動産屋に時々確認するようお願いしておいた。

 ……勿論、その分のお金を請求されたよ。

 まあ、こういうのはちゃんと料金が発生した方が、責任の所在がはっきりするからいいんだよね。

 無料サービスとかだと、どうしても義務感が薄れちゃうから、揉め事の元になる。

 義務と責任を求めるなら、きちんと、お金と契約で縛らなきゃね。


 あ、支店長から『あの時の警備隊の上官の人が来て、巫女様のことを聞いてきた』っていう連絡が来たけれど、支店長は、荷を運ぶ商隊の護衛に雇った連中のうちのひとりの知り合いとしか知らない、と言って、追い払ってくれたらしい。

 護衛を雇ったのは商隊だから、自分は何も知らない、もう今回の輸送を請け負っただけの商隊の者達との接点もない、雇ったのは発送側であって自分達じゃない、と言って。

 野良巫女わたしが支店長達とはあの時が初対面だったということは、私達の様子から上官にも分かっただろうし……。


 上官が自分の意志で来たのか、それとも誰かに指示されて来たのかは分からないけれど、こちら方面の調査ルートは、支店長の段階で途切れるだろう。

 ……よし、問題なし!


     *     *


「お前が、神殿に所属していない、フリーの巫女とやらだな? 俺達についてきて貰おう!」

 とある町の孤児院の庭で、子供達に囲まれながら大鍋で芋煮のようなものを煮込んでいると、突然現れた4人の兵士らしき者達に囲まれた。


 どうせ否定しても信じないだろうし、孤児院の人達や子供達にもそう名乗っているから、ごまかしようもない。

 この連中が、神殿とは関係ない巫女が名を上げることを嫌がった神殿上層部の手の者か、それとも民衆の人気取りを狙った貴族か大店が私を囲い込もうとして出した遣いの者か。

 ……どちらにしても、言葉遣いと態度から、エディス(わたし)を敬うとか、丁重に扱うとかいう気はないようだ。


 素直に付いていっても碌なことにはならないだろうけど、今はマズい。

 ここで騒ぎになると、孤児院に迷惑がかかるかもしれない。

 なので、とりあえずここを離れてから、かな。

 でも、その前に……。


「あの、何か私に御用のようですけど、子供達に食事させるまで待っていただけませんか?」

 そして、泣きそうな眼で兵士達を見詰める、たくさんのつぶらな瞳……。


「うっ……。

 し、仕方ない、早くしろ!」

 うん、さすがに、この視線に耐えられる勇者はいないわな……。

 それに、隣町への移動に数時間、とかいうのが普通のこの世界じゃ、1時間や2時間遅れるくらい、どうってことのない、誤差の内だろう。

 少なくとも、孤児達がお腹いっぱい食べられるという千載一遇の機会チャンスを潰してまで優先させるほどのことじゃない。……鬼でなければ。

 そしてこの兵士達は、私にはぞんざいな態度ではあるが、孤児達を邪険にするつもりはないようであった。


 ……うん、した兵士なんて、いつ自分の子供が孤児になるか分からないからねぇ。そりゃ、孤児を邪険に扱う者はあまりいないだろう。


「いや、早くと言われても……。私の意志で、煮える速度を速めるわけにも……」

「うるさい! さっさとやれ!!」

 ありゃ、ちょっと怒らせたか。

 ま、確かに、余計な揚げ足取りだったか……。


 さて、この連中を寄越したのが誰で、何が目的かは、後で聞けばいいとして。

 ……どうして私が捕捉されたか?

 そりゃまぁ、このあたりで怪我人や病人をほんの少し(・・・・・)治癒したり、孤児院で食べ物を寄付して廻ったりしているのだから、『エディス(わたし)』の存在を知り、接触を企むならば、私が現れた場所を地図にプロットしていけば、次に私が現れる場所を推測するのは容易だろう。別に欺瞞工作をすることなく、順番に移動しながらやっているわけだから……。

 時々大きく時間間隔が開くが、それは王都とかリトルシルバーとかに滞在している時だ。

 エディス的には、施しのための資金稼ぎをしているとか、巫女としての修行をしている期間、ということにしている。


 つまり、私を捕捉しようと思った者は、簡単に捕捉できるというわけだ。

 ……そのように設定した(・・・・・・・・・)のだから……。

 そう、充分にエディス(わたし)の名が広まり、王都まで届いて、頃合いになったら(・・・・・・・・)迎えが来る、という寸法だ。

 ……『野良巫女エディス』が、『聖女エディス』になるための、ステップとして……。


 ただし、それはあくまでも『広く名を売り、もし万一リトルシルバーが貴族や大店にちょっかいを出された時に介入できるだけの影響力のある人物になるため』であって、どこかの特定の勢力に取り込まれ、囲われるためじゃない。なので……


「お鍋、まだ?」

「……あ、そろそろいいかな……」

 いかんいかん、今は飢えた獣(こども)達を最優先にしなきゃ。


     *     *


「「「「「「おねーちゃん、ありがと~!!」」」」」」

 子供達と、心配そうな顔の大人達に見送られて、兵士達と共に孤児院を後にした。

 勿論、笑顔で、ぶんぶんと手を振りながら……。


 兵士達は、馬車どころか、馬も用意していなかった。

 ……ということは、ずっと歩きである。

 いや、私の足に合わせると、遅いよ? 頑張っても、普通の成人男性のおよそ3分の2の速度だよ? 休憩も、たくさん必要だよ?

 まあ、この連中は下っ端だろうし、私を探しに来たのはこの連中だけでなく、他にも何組かいるのかもしれない。その全部に馬車や馬を用意するのは、お金がかかるだろうからねぇ。

 宿も、うまやがあって馬の世話ができるところじゃないと駄目だし、馬体の手入れや餌代とかも、無料ただじゃないんだから……。


 この連中は、兵士っぽい恰好をしている。

 ……でも、国の兵士かどうかは分からないよねえ。

 貴族の領軍、大店が抱えている私兵、金回りが良くてお揃いの防具を着けている傭兵やハンター、その他諸々。

 孤児院で余計なことを聞くのはマズいと思って何も聞かなかったけど、そろそろいいか。

 黙ったまま何時間も歩き続けるのは精神衛生上良くないし、さっさと情報を手に入れないと、こっちの方針が決められない。

 よし!


 両手の拳を軽く握って、口の前に持ってきて……。

「おじさま達、どなたからのお遣いの方なのですか?」

 きゃるんっ、という効果音が聞こえそうな笑顔で……。


 ……で、どうしてドン引きしたような顔で後退あとずさるんだよ!

 今はエディスの姿で、眼も可愛らしく垂れ目にしてるだろうが、ええっ!!

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― 新着の感想 ―
それなりの場数を踏んできた兵士たちなんだろうなぁ…
カオルちゃんの目力健在⁉️
[気になる点]  ドン引きされたのは、余りにもあざとかったとか。  カオルの定番っちゃぁ、定番ではありますが。
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