↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
290/474

290 きれいな商会主 1

「……というわけなのよ……」

「…………」


 あれから、眠ったままの商会主を連れて、搭載艇で本拠地リトルシルバーへと戻ってきた。

 拉致した他の従業員達は、母艦に連れていったりはせず、ここの地下で尋問してから、ポーションで眠らせてある。商会主も、そこへ一緒に転がしておいた。

 勿論、全員、ここへは眠らせたまま連れてきたから、ここがどこだか知っている者はいない。

 気を失って、目覚めたらどこかの建物の中、としか認識していないから、帰す時にも同じようにすれば、場所がバレる心配はない。

 そして、リトルシルバーで子供達の面倒を見ながら留守番をしてくれていたレイコに、母艦での商会主の取り調べ状況について説明しているわけだけど……。


「……それで、方針を変更したいと?」

「うん……。何か、卑怯なことは色々とやってたらしいんだけど、明らかな不法行為、っていうのは、あんまりやってないみたいなんだよね。大抵は、あくどい、っていう程度で……。

 今回のは、商会の存続に関わる大事件だったから、余裕がなくて色々とやらかしちゃったらしくて……。

 つまり、私達が追い込んじゃったから、店を守るために一線を越えちゃった、ってことらしくてさ」

「私達にも責任がある、ってこと?」

「うん……」


「自分が必死の思いで一代で築き上げた店が、何者かの陰謀で潰されそうになったら、そりゃ逆上して、犯人を突き止めたり損害を食い止めたりするために多少の違法行為はやっちゃうのは無理もないよね……」

 私と一緒に、『きれいになった商会主』の告白を聞いていた恭ちゃんからも、擁護の言葉が出た。

「…………」


 レイコは、割とクールだ。

 いつも冷静で、私や恭ちゃんのようには情に流されない。なので、悪党をそう簡単に許したり、見逃したりはしない。『罪を憎んで人を憎まず……にいられるわけがないだろうが! やったヤツが悪いに決まってる!!』というのが、レイコの主義だ。


 信賞必罰。因果応報。悪党に人権はない。られる前に殺れ。

 それが私達KKRのモットーなんだけど、それを一番厳格に適用し、遂行するのがレイコだ。

 私と恭ちゃんは、火種だとか燃料投下役だとか言われるけれど、割と人情派だ。でもレイコは、……勿論、温厚で心優しいところもあるんだけど……、まぁ、いわゆる『ルールを恣意しい的に運用したりはしない』タイプだ。


 罰は、誰が罪を犯した場合であっても、公平に与える。

 情状酌量の余地があった場合には、その他のことでフォローすることはあるが、あくまでも処罰は公平でなければならない。

 それが、レイコの信念なんだよなぁ……。


「……分かった。計画を練り直そう」

「え?」

「いいの?」

 驚きだ。レイコが、一度決めた『天罰作戦』を、障害の回避以外のことで変更することを容認するなんて……。


「ふたりが、状況の変化にかんがみて、考えを改めたんでしょ。なら、私だって最新の情報に対応して考えを変えるわよ。別に、最初に決めたことは絶対に変えちゃ駄目、ってわけじゃないんだから……。

 で、その『きれいになった商会主』だけど、使えそう(・・・・)なの?」

 そう。問題は、そこだ。

 でも、勿論、そこはちゃんと確認してある。

 だから、私と恭ちゃんの返事は……。

「「うん!」」


 口先だけで反省した振りをして、性根は変わらない悪党は、今後まともな人達が被害を受けないように処置(・・)しなきゃならない。

 でも、完全に改心した(きれいになった)なら、償いをさせた方がいいんじゃないかと思うのだ。


 勿論、犯罪者には、それなりの刑罰を与えなきゃならない。

 ……でも、あの商会主は、正式には『犯罪者』じゃないんだよねぇ……。

 厳密には、法に触れることをやってはいる。

 でも、訴訟されたり、刑罰を言い渡されたりはしていないから、ここのルールだと、別に罪に問われてはいないんだよなぁ……。

 だから、今の商会主を私達が勝手に処罰すれば、それは『私的制裁』になっちゃう。

 ……つまり、私達こっちが悪党、ってわけだ。


 いや、それは別に構わない。

 元々私達は、ここの法ではなく、自分達の法に従って行動している。

 勿論、ここの法も、問題ないもの(・・・・・・)は守る。まっとうに生きている人には迷惑を掛けないようにね。

 ……でも、悪党に手出しされた場合は、ここの法律ルールなんか気にしない。

 いや、さすがに堂々とやったら、こっちが捕まる。

 しかし、バレなければ、どうということはない!


 そういうわけで、ここの法ではなく、私達の法(・・・・)によって動いている部分は、変更することが可能なのだ。

 ……レイコが認めてくれた場合には。

 そして今、その『お許し』が出たわけだ。


「お金、ある。商人としての伝手つて、ある。官憲や貴族へのコネ、ある。御使い様(わたしたち)への忠誠心、MAX」

「目的のためならば、多少のあくどいことは平気でやれる。でも、無意味な加害行為はしないし、一応は『あくどい商人』という範疇に留まっている。

 契約書に誤解を生みそうな記述を仕込むことはあっても、後で書き換えるとか、脅迫して無理矢理サインさせるとかいうことはしない。理不尽な暴力行為は、自衛のためにやむなく行った、今回が初めて」


 私達の説明に、レイコは……。

「う~ん、それなら、ただ商会を潰して大勢の失職者を出したり、取引先が連鎖倒産したりするよりは、今までに迷惑を掛けた相手にお金で償わせた方がいいかしらね……。

 潰しても、被害者達には銅貨1枚の得にもならないんだから……」


 うん、全く、その通りだ。

 これ以上被害者が出ないなら、その方がずっといいだろう。

 あの商会主は、別に強盗や殺人に手を染めたわけじゃない。

 こういう世界には、そういうことをやる、『あくどい』ではなく、本当の『悪党』である連中がたくさんいる。そういうのに較べれば、ずっとマシだ。


「じゃあ、計画を練り直すわよ」

「「おおっ!!」」


     *     *


「うう……、ここは……?」

 攫われていた番頭のひとりが、眼を覚ました。

「確か、拉致されて、尋問を……、って、お前達!」

 攫われてから、尋問……拷問ではなく、あくまでも口頭による質問のみ……をしてきた少女以外の者には会っていなかったが、今、周囲には同僚達の姿があった。自分より先に攫われた者達、そして自分より後に攫われたらしき者達の姿が。

 そして、その全員が、頭を振ったり、眼をこすったりしている。

 どうやら、不自然にも、皆、ほぼ同時に眼を覚ましたようである。

 そして……。


「落ち着け! 大丈夫だ、お前達は既に救出されている」

「「「「「「「旦那様!!」」」」」」」

 そう、そこにあるのは、クルト商会商会主の姿であった。

「ど、どうして、旦那様が、ここに……」

 そして、その疑問は、尤もであった。


「お前達が次々と攫われるものだから、儂が囮としてひとりで夜道を歩き、わざと誘拐されたのだ。

 そして敵の隠れ家に連れて行かれた後、隠し持っていた暗器で縛られていたロープを切り、敵を倒してお前達を救出した。

 ここは店の居住区の一室だ」

「「「「「「「おお! おおおおおおお!!」」」」」」」

「何、儂も若い頃は色々と苦労したのだ。身を守るための護身術や、大切な者達を守るための戦い方くらい身に付けておるわ!」


 いくらでも替えが利く、ただの従業員のために命を張ってくれる商会主。

 そんな者が、世界に、いったい何人いるというのか。

 愕然とし、そして両眼から涙を流す従業員達。


「だ、旦那様……」


「ばんざ~い! 旦那様、ばんざ~い!」

「クルト商会、ばんざ~い!」

「「「「「「「ばんざ~い! ばんざ~~い!!」」」」」」」

 そして、商会主を讃える声が続いた。

 その声に、どうやら皆が目覚めたらしいと気付き、使用人達が弱った身体に優しいもの、パン粥や薄めたホットワイン等を運んできた。

 事前に状況を教えられていた使用人達も、商会主を称賛の眼で見ている。


(……いくら御使い様の御指示とはいえ、これはキツい! 恥ずかしさで、死にそうだ!!)

 そして、そんな眼で見られたのは生まれて初めてである商会主は、心の中でのたうち回っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
これは聖女の所業ですわ()
使える奴は誰デモ使う!立ってる人はクララでも使え、潰されなくて良かったてすね。
[一言] 「道士郎でござる」終盤で、とある敵役が、主人公がやたらと味方を作る様子を見て、あの真似をすればいいんだとなんちゃって偽善をしたら 使い捨てだったはずの手下が、隠れている自分を守るために必死…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。