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212 ひとりめ 2

「……じゃあ、昨日一日様子を見て、私に接触する一番いい時と場所を選んだ、ってこと?」

「うん。カオル様とレイコ様の『ふかしふぃーるど魔法』のおかげで、堂々と様子を見ていられたのよ」

 今回、倉庫に侵入してイリーがひとりだけなのを確認してからもすぐに姿を現さなかったのは、侵入者に対してイリーが反射的に攻撃することを警戒してのことであった。

 イリーなら絶対に攻撃してくる、とミーネが強く主張したので……。


「う~ん、魔法使い、ねぇ……」

 イリーは9歳であるミーネよりひとつ年上の、10歳らしい。

 その分、常識があるからか、不可視フィールド以外の魔法を見ていないからか、それともミーネとは違って別に私達を命の恩人だと思って忠誠を誓っているわけじゃないからか、どうやらミーネの言うことを信じ切れていないらしい。


「じゃあ、おふたりが魔法使いで、一緒に行こう、というお誘いには……」

「ちょっと、二の足を踏むなぁ……」

 ありゃ、信用してもらえなかったか……。

 私達ふたりはともかく、ミーネの言うことなら信じてもらえると思ったんだけどなぁ……。

 でも、それは仕方ない。

 本人が現状維持を望むなら、私達が無理に連れていくわけにはいかない。

 残念だけど、次へ……。


「それじゃあ……」

 あれ、ミーネはまだ説得するつもりかな。

 まぁ、仲間を助けたい、という強い気持ちがあるだろうから、諦め切れず、何とか説得したいと思うのは当たり前か。

 しかし、私とレイコは、望まない者にまで救済の押し売りをするつもりはない。

 救いを与えるのは、自らそれを望み、自分で一歩を踏み出す者だけだ。


 そして、ミーネが再び説得のための言葉をつむいだ。

「ボロボロのゴミ屑みたいな状態で辿り着いた私とアラルを、深夜なのに迎え入れてくれて、食べ物をくれて、お風呂に入れてくれて、ふかふかのベッドで寝かせてくれて、そして雇ってくれたおふたりからの、『一緒に来ないか』というお誘いには……」

「勿論、喜んでついていくに決まってるでしょ!」

 ……何じゃ、そりゃ!

 わけの分からない『魔法使い』とやらの怪しげな誘いに乗るのは躊躇ためらっても、孤児に手を差し伸べてくれた者の言葉なら、もう一度信じてみようという気になったってことかな?

 まぁ、ミーネが保証するなら、という条件付きかもしれないけれど……。


「じゃあ、私達と一緒に逃げるよ。イリーは書類上は正規の雇用関係、しかも給金前払いってことになってるし、しかもその書類は偽造とかじゃなくて正式書類だから、正面から行っても駄目だからね。

 ……でも、それはあくまでも『この国では』、ってことに過ぎないからね。

 うちの国へ来れば、その書類は犯罪者が自分の立場を利用して作ったものだと証明されていて、犯人は既に裁かれているからね。のこのことうちの国へやってきてイリーの返還要求なんかしようものなら、人身売買組織の仲間として捕らえられるから、安心だよ。

 つまり、逃げ出してうちの国へ辿り着けた時点で、私達の勝ち、ってわけよ」

「おお! ……って、『犯人』って?」


 ただここの商会主に騙されただけではないのか、と疑問に思うイリーに、ミーネが忌々(いまいま)しそうな顔で告げた。

「『おじさん』よ……。あいつ、初めからそういうつもりで孤児院の引き継ぎに立候補したのよ」

「なっ……」

 一瞬、ぽかんとして。そして次の瞬間、怒りに顔を歪ませたイリー。

 そりゃまぁ、そうだろうなぁ。


 ミーネの話では、経営者が替わってから、食事を始めとした生活レベルが落ちて、孤児達が働かされる時間も増えたらしかった。

 皆は、『経営が苦しいのだろうな』と思い、そんな孤児院の経営を引き継いでくれた『おじさん』に感謝して、一生懸命頑張っていたらしいのだ。

 でも、こんな話を聞かされたのでは、あれも全部、浮かせたお金を横領するためだったのではないかという疑問と怒りが湧き上がってくるのも無理はないだろう。


「まぁ、今はその話は置いておいて。

 とにかく、逃げ切ってうちの国、というか、元孤児院まで行ければ、何の心配もないってことだよ!」

 ミーネが言う通りだ。私からもさっき説明したけれど、逃げてしまえば、この国の国内で捕まらない限り、心配ない。

 何せ、商家側が持っている書類には『給金前払いでの奉公契約』となっているが、孤児院側、つまり今は領主様の手元にある書類では、『養女』ということになっているのだ。もし他国の領主に対して正式な抗議をするとなると、当然事実確認が行われ、その時にはこの領地の領主による商店側の取り調べも行われるだろう。

 引き取られた子供が養女として扱われていたか奉公人として扱われていたかなど、すぐに分かるだろう。従業員、出入りの業者、客、その他大勢の目に触れていたであろうから。

 口止めするにも、罪悪感に耐えきれない者、商売敵しょうばいがたきの商店主から『その店はもう駄目だ。正直に証言すれば、うちで雇ってやる』と囁かれた者、過酷な取り調べに口を割る者等が、必ず出る。


 うちの領主が何もできなかったのは、他国の商家を取り調べることができなかったからだ。証拠もなくそこの領主に抗議することも、大きな問題となる。

 しかし、向こうから喧嘩を売ってきたなら、話は別だ。

 証拠を出せ、と言って、相手の領主に商家を徹底的に調べさせることができる。

 ……いや、そもそも、抗議を出す前に、ここの領主が商会主の主張が正当なものであるかどうかを徹底的に調査するだろう。

 他国の貴族に抗議して、後になって『実は、自分の方が悪かった』などということになれば、面子丸潰れどころか、王宮から呼び出しが来てもおかしくない。

 また、もし本当に商会主の言い分が正しいと思ったとしても、他国の貴族との面倒事を嫌がって無視する可能性もあるだろう。

 なので、商会主がここの領主を通して正式に抗議してくる確率はとても低い。


 商会主の手の者が『逃げ出した養女を引き取りに来た』といってリトルシルバーに現れたら?

 来ない来ない!

 逃げた奉公人とかなら、従業員が迎えに来てもおかしくない。

 でも、『商会主の養女』を、商会主夫妻ではなく従業員が迎えに来るというのはおかしいだろう。

 そして、従業員だろうが商会主だろうが、うちの領地に来てそんなことを言った途端、捕縛されるだろう。


 うちの領地では、すでに2代目院長の悪事は暴かれ、処罰済みだ。そこへ共犯者がのこのこと現れたなら、即、捕縛だ。

 他国には手出しできなくても、自領で行われた犯罪行為の犯人を自領内で捕らえたならば、その処罰は領主様の権限で行われる。犯人がどこの国の者であろうが、関係ない。

 ……だから、絶対来ない。

 余程の馬鹿ででもなければ。


「じゃあ、夜に迎えに来るからね」

「え?」

 ありゃ、今すぐ、このまま連れていってもらえると思っていたのかな? 何か、驚いたような顔をしているけど……。

「今、連れていったら、あなたがいなくなったことがすぐにバレるでしょ。ここは、夜に姿をくらます方が時間が稼げるとは思わない?」

「た、確かに……」

 頭が良いのか、初代院長からの仕込みが良かったのか、私の説明に納得して頷くイリー。


「それじゃ、このまま何もなかった振りをして働いててね。そしてみんなが寝静まった頃に迎えに来るから、自分のものを纏めておいてね。

 あ、荷物が多くても大丈夫だから。自分のものは全部持っていけるからね」

 アイテムボックスに入れれば、どんな大荷物でも問題ない。


「……私物なんか、着替えくらいしかないよ。片手で簡単に持てるくらい……」

 そりゃそうか。こんな境遇で、修学旅行のお土産のペナントや置物、シャケをくわえた木彫りの熊とかを持っているはずがないか……。

 そして勿論、家族と一緒に撮った写真が満載の、アルバムとかも……。


「で、私はどこで待っていればいいの?」

 う~ん、夜中に荷物を持ってうろついていたら、もし警備員や他の従業員とかに見つかったら、ヤバいよねぇ……。

「自分の部屋でいいよ」

「え……。でも、私、6人部屋だよ? 他の者が……」

「大丈夫! 私とこの子(レイコ)の職業は?」

「魔法……使い……」

「そう。じゃ、そういうことで!」

 そして、出番がなくて退屈そうにしていたレイコに合図して、不可視魔法を発動!

 そのままそっと、ミーネの手を引いて倉庫から出て行くのであった……。

 あ、入る時はイリーと一緒に横をすり抜けて入ったけど、出る時は自分達で扉を開けたから、姿は見えないものの、扉の開閉はイリーに丸見えだった。

 しまらないなぁ……。

 いや、扉はちゃんと閉めたけどね!

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― 新着の感想 ―
マイル「にほんふかしばなし」
[一言] 児童とドア 自動ドア 魔法使いだー
[気になる点] 不可視フィールドってどうなってるんでしょう? 普通に考えるとフィールド内にいる物質は一切の光の反射や吸収が行えなくなるでしょうけど、そうすると、なかにいる人も外を見ることができません。…
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