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音の届く場所  作者: 皐月 悠
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6/10

【6】


【6】


「…圭」

ルカと映画館での待ち合わせで、時間よりも早くついた夏美は彼をチケット売り場で見かけてしまった。思わず、声が出たのは自然に出てしまったのだから仕方がない。小声で言ったのにもかかわらず、圭は気づいて私を見つけた。

「夏美、どうしてここに?」

「人と待ち合わせしていて」

「人とじゃない待ち合わせなんてあるのか?」

可笑しそうに笑われてしまった。とっさになんて言おうか迷って言ってしまった。

「どの映画を見るの?」

「決めてない。圭は、映画よく見にくるの?」

「気が向いた時に見に来る。夏美は?」

「あまり来ないから、誘われなければ映画館に来なかったかも」

映画はまったくみないわけではない。けれど、見たいと思っていた映画あったとしても、忙しく毎日を過ごしているうちに、気が付けば上映期間が終わってしまっていた。上映期間が終わると、DVDになる事も多くてレンタルショップで借りて見てしまう事がほとんどだった。

それと、私が見たいと思う映画の内容が人間の感情が深く描かれているものが興味深くて面白いと感じていたから、見たいと感じた映画自体が少ない。

「ふーん、映画に誘ったのはどんな人?」

「んー…一言で言うと執事?」

「お呼びですか、お嬢様」

ふざけた口調でそう言いながら、ルカ傍に来た。手に、恋愛もの映画のチケットを持っていた。テレビで宣伝がたくさん流れている話題のタイトルだった。たしか、人気恋愛小説家の作品が原作になっているという。

「新山だったのか。この映画って新山の好み?」

「そうだけど」

「夏美は、こっちの方が好みじゃない?」

圭が持っていたのは、宣伝でミステリー要素が強いが面白そうと感じていた作品だった。

「うん、この作品も見たいって思っていた」


ピシっ


圭とルカはお互い笑顔なのに、怖いと感じてしまう。心なしか、空気も凍った気がする。火花が見える気がするのは、なぜ?険悪なムードにならないように、付き合っているとは言ってないのに。

「……だから、今度こっちも見たいって言おうと思っていた。恋愛ものって、あまり見ないから、見てみようかなとも思ったから」

「そうなんだ」

ほっとした表情を浮かべているルカを見て、クスっと笑ってしまう。普段は、綺麗って感じなのに、こういう時には可愛い表情をする人だ。恋愛もの好き、甘い言葉も好き、そういうところもきゅんとしてしまう。この人がすすめてくれるものならば、見てみようと思ったのも本当だ。

「そうか、新山が映画に誘った人…いろいろ納得した」

「「何を?」」

「じゃあ、また今度」

圭は、質問には答えないで片手をかるく上げて振ると、その場から立ち去った。私たちがみる映画のタイトルと入場を開始するとアナウンスが聞こえた。

「そろそろ時間だから、行こうか」

「うん」

 先に歩き始めたルカを後ろから追いかける。チケット半券を切ってもらい、シアターに入るまでの間に腕をからませてみた。

 一瞬、驚いて身体が固まってしまうのが分かる。横顔を見ると、頬が真っ赤に染まっていた。

 ……私は、Sなのかもしれない。

 こんな反応をされてしまったら、もっといろんな反応を見たいと思ってしまう。普段は余裕の表情をしているのに、反則だ。

 席の番号を確認し、席につく前に腕を離して席に座った。場内が明るいまま予告編が始まる。

 「楽しみだね。ルカは原作知っているの?」

 「読んだ事があるよ。ベタ甘な恋愛ものだから、好き嫌いがわかれやすい」

 「ふーん、映画を見て影響を受けたりする?」

 「んー…感想から書きたくなるな」

 「そういうもの?」

 「そういうもの。歌う時には何を考えていた?」

 「歌う前はあれこれ考えるけど、歌いはじめたら何も考えてなかった」

 夢中になると、頭の中に余計な考え事はなくなって、すっきりとした透明感だけになった。身体が勝手に動いているような不思議な感覚がする時の方が、変に力が入らずに上手く歌えていた。

 「そうなんだ」

 「そうなのですよ」

 予告編が終わって、場内が暗くなってきた。そっと、ルカの手に触れた。体温だけじゃないあたたかさを感じて手を握ったら、優しく握り返される。

 歌を歌っていた頃、変に力をいれずに歌えるようになれたのは、ルカが傍に居てくれたからだ。 だから、この人の好きなものを知りたいと思えた。いろんな事を知りたい。

 たとえば…

 場内でのマナーについての映像が終わりかけた時、ルカの肩によりかかってみた。

 「くすぐったい」

 ルカは髪が首筋に触れる感触に、クスっと笑いながらそう言う。手を口元まで引き寄せて、手の甲を唇で触れてみた。

 たぶん、今、困った表情を浮かべているのだろうな。そういう表情もすべてが知りたい。この恋は、私にどんな影響を与えてくれるのだろうか。そんな事を考えてしまうだけで、わくわくしている私がいた。




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