【5】
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夏美からの訴えを聞きながら、美咲はルカの事をたちが悪い子だと感じていた。自覚がないのだとしたら、なおさらだ。
「……って、聞いていますか?」
「うん、聞いているよ」
口ではそう答えながら、ごめん、半分くらい聞き流していた。残りの半分は、私の予想をこえていたため聞いていた。いっそ、女性を口説きおとすような仕事が向いているのではないかと思う。
「ルカに対してどう対応したらいいのかな?こっちが言ってほしい事ばかり言うから困る」
「ふーん」
私は、にやりと意地の悪い笑みを浮かべる。
「困るのね。自分の気持ちが傾きそうで?」
「……」
夏美は、頬をうすくピンクに染めながら、無言で縦に頷いた。そろそろルカが飲み物を淹れて戻ってくる頃だと思いながら、目を細める。
たぶん、一回どう言えばいいのかを考えながらルカ言っているから、言ってほしい言葉ばかりを言っているように感じてしまうのだろう。つまり、自分ならこう言ってほしいと思う言葉ばかりを言っているのだろう。
「傾ききってしまったら、ルカに責任もって付き合ってもらえばいいんじゃない?」
「……そうですね、それも考えてみます」
夏美は、隣のテーブルに珈琲と紅茶を持って来ているルカを横目で見た。
「そういえば、圭と連絡とってないの?」
「今は、とってないです」
苦笑を浮かべてそう言うと、彼女は私のコップにおかわりの紅茶をいれた。
「圭はプロを続けているから、連絡をとりづらくて」
「……そう」
いれてくれた紅茶を一口飲む。
「今なら、連絡をとりやすいと思うよ」
アキラがそう言うと、永沢さんも少し考えながら携帯を鞄から取り出した。
「確かに、圭も会いたいって言っていたから…連絡とってみようか?」
「んー…それがもう少し考えてみる」
「じゃあ、圭と会いたくなったら連絡してね」
「分かった。連絡するね。美咲さん、コレさげてきますね」
夏美はそう言うと、ティーポットを持って厨房に戻った。ルカは、飲み物を2人の前に置くとさげられる食器を持って、厨房に行く。その後ろ姿を見ながら、こういうところがさりげなくできるから夏美が困るのだろうなと思った。
しばらくして厨房から戻ってきた夏美は、顔を真っ赤にしながらツカツカと早歩きで私のテーブルに戻ってきた。後ろから歩いてきているルカとは視線をあわせようともしない。
『何をしたの?』と視線でルカに聞くと、『何もしてないよ』と視線でかえってきているが、何かしたのは確かだろう。
「……美咲さん、私決めました」
「えーっと、何を?」
「責任もって付き合ってもらいます」
他には何も言葉に出して言っていないものの、主語はルカだろう。という事は、『ルカに責任をもって付き合ってもらいます』という事になるわけで。
「それって…」
黙って頷いている夏美を見て、それからルカに視線を向けた。
「よかったわね」
「え? 何が?」
ニヤニヤした笑みを浮かべてそう言うと、ルカは状況を把握しきれなくてきょとんとした表情を浮かべていた。
「覚悟してください」
「……はい」
夏美に挑戦的な表情で見られて、ルカは雰囲気でおされたように頷く。それを確認してから、彼女はすっきりした笑みを浮かべている。
そんな様子を見ながら、この先戸惑いながらも夏美に振り回されていくルカの姿を想像した。その状況があまりにも可愛らしく感じた私は、ふっと口元をゆるめた笑みを浮かべた。
「…せいぜい、夏美に振り回されるといいわ」
「だから、何がどうなっているの?」
「近いうちに分かるから、教えない」
夏美にそう言われてしまい、ルカは困ったように苦笑を浮かべて片手で頭をかいていた。
今付き合っている人には言えないけど、昔、振り回されたから意地悪な気持ちになってしまうのかもしれない。
今、デザイン事務所で働けているのもルカが背中を押してくれたからだ。
デザインの道に進みたいのだと、家族に相談したら反対された。甘くはない実力社会で、食べていけるとは限らない世界だから、心配して言ってくれているのだと理解していた。好きな仕事をしたい自分と、収入のために仕事につきたい自分の間に挟まれて悩んでいた。
「両方とればいいんじゃない?デザイナーでは厳しければデザイン事務所で働くとか道があると思う」
ルカは、短い言葉で背中を押してくれた。ルカを見ながら、意地悪な気持ちになるのは、だからかもしれない。




