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音の届く場所  作者: 皐月 悠
2/10

【2】


【2】


五年後。

「……あの人?」

「はい」

私、永沢ミキは、最近友人が始めたというアルバイト先の執事喫茶に来ていた。そして、執事の姿をしているその人に視線を向ける。夏美と圭との間には、距離がある感じがしていた。そして、分からなくさせた相手を見に来ていたのだが、なかなかカッコイイ人だ。

髪型は、ダークアッシュの髪色に長めのショート。シルバーの眼鏡をかけていて、大人の落ち着いた雰囲気がある。

夏美が歌えなくなってから数年が経ち、十九歳になった頃、恋愛の好きが分からないと夏美から相談された。

「そして、告白されたわけではないけど、気になると?」

「はい」

「好きなのか、相手に確認はしたの?」

「してない」

「すればいいじゃない」

ガラスのコップを飲むために傾けると、カラっとアイス珈琲の入った氷が涼しい音を出した。

「……できないから、相談しているのに」

困った表情を浮かべている親友の顔を見て、くしゃくしゃと彼女の頭を撫でてみた。

「悩むだけ、悩めばいいんじゃない?」

「もう、ハゲちゃうよ」

「悩めるだけ、まだいいじゃない。悩むって事は、可能性があるって事でしょ」

私はアイツの顔を思い浮かべてしまうと、珈琲の苦みがいっそうました気がする。アイツは、私の事を恋愛対象で見る気なんてものは存在していないのだから。

「だって、確信もてないのに」

「……確信もてるでしょ、コレは」

そう言いながら、テーブルに置いてある夏美の携帯画面を指差した。メール画面には、その人が書いた詩が出ている。どう読もうと、好意がにじみ出ている。

「これを圭に見られて、ケンカにもなって、悩んでいると」

「…はい」

コレを見た圭は、なるべく顔には出さないようにしながらも嫉妬していただろう。詩としての技術とかは正直なところ、未熟だろう。しかし、伝わってくるものがある。売れるものを作るために、技術が頭の中にあって型に縛られてしまうよりも輝くものを感じた。

「夏美は、圭とどうしたいの?」

「それは…」

即答できない夏美を見て、もう答えは彼女の中にある気がする。即決できないのは相手に対しての気持ちが固まっていないから。だとすると、その人が決定的なきっかけでも作ったとしたら、夏美は答えを出せるのに。

「あれ?でも見覚えがあるような気が…」

相手も気が付いたようで、笑みを浮かべて向けてくる。過去の記憶をさぐっていくと、公園で歌っていた頃に見かけた気がする。

「久しぶりですね、永沢さん」

この人、ルカは、路上ライブしていた頃に、聞いていてくれたファンだった。……嫌な記憶まで思い出してしまった。当時、この人は、アキラと仲が良かった。

「アキラとは最近連絡とっているの?」

「……とっていません」

そっけなくそう答えると、そうかとルカは苦笑を浮かべている。

特に夏美から聞いたわけではないものの、時々手紙を読んでいた姿を見かけた。またこの人かと思いながら見ていた。ファンとはいえ、定期的に手紙をくれる人は少ない。特にラジオ番組をやっているわけでもなかったから、ファンとの接点自体が少ない。

「あ、でもこの前、電話したいって夜中にメールが来て…寝ました。夜中だったから」

「そうなの?」

「うん、次の日にメール返した」

本当は、電話をかけたくなったのだが、何を話したらいいのか分からなくなって迷っているうちに時間だけが経過していた。

街を歩いていた時も、ふいにアキラが愛用しているタバコの香りがすると、姿を思い浮かべてしまう。普段、明るくてふざけているのに、告白や相手の気持ち気づきそうになると、彼は逃げる。のらりくらりとかわす。結局、告白しないままになってしまっている。なんで、あんな人を好きになってしまったのか。だが、人を好きなるのに「きっかけ」はあっても、「理由」なんてない。突然に、恋におちてしまうから。

「永沢さん、おかわりは?」

「じゃあ、ホット珈琲を」

「かしこまりました。少々お待ちください」

そう言うと、ルカは厨房に向かった。背筋の伸びているルカは、芯の強さが背中にあらわれていて、凛とした雰囲気をまとっている。

あの頃からやりとりがあったのなら、圭と夏美が恋人同士だった事も知っているはずだ。だから、ストレートに恋の好きだという事を伝えていないのだろう。詩を見せたのだって、周りの人が見せる状況にしたと言っていたのだし。

「夏美が悩んでいるのは、ルカの事を必要としていて付き合いたいからでしょ」

「え?」

「必要としていない相手だったら、悩むっていう事をしていないと思うよ」

「……うん、そうかも」

「あ、今言った「付き合う」っていうのは、広い意味の友達とかの「付き合う」ね。恋人として付き合うとか関係なく。付き合えばいいんじゃない?」

「……。答えになってない」

「答えは自分で出さなきゃ意味がないの」

納得のいかない表情を浮かべている夏美を見て、自分もアキラにたいして必要な存在だと感じているのなら、今だけは頭の中から出してみようと思った。


後日。

ルカから電話のかかってきた夏美は、「今は、まだ付き合う事ができない」と返事をしたみたいだった。今はまだ、心の整理がついていないから、どちらでもないという返事は、夏美らしい答えだった。

私は、携帯を開き電話帳からアキラを選択すると電話をかけてみた。時刻は深夜零時頃だが、彼の事だからまだ起きている時間帯だろう。

声が、聴きたいと思った。

やがて、携帯電話越しに戸惑った彼の事が聞こえてくる。私は、ふっと笑みを浮かべてから他愛のない話をした。


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