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音の届く場所  作者: 皐月 悠
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3/10

【3】


【3】


アキラは、冗談を言ってふざけてあの子にからんでいた。

たぶん、あの子から見たオレは、ちゃらちゃらした軽い遊び人。実際、惚れっぽい性格だと自覚している。だから、わざと軽い雰囲気を作ることで壁を作った。透明で、ビニールの壁のように柔らかいが、確かにある境界線。ちゃらちゃらしているから、本気じゃない。本気じゃないから、踏み込まれない。その壁の存在自体、気付く人はいなかった。

これだけは否定するけど、深い関係に手を出していない。

あの子の事は大切だから、簡単に手を出すことができない。ただ、心を動揺させる事が手を出しているとするのなら、間違いなくオレは手を出している。それこそ、言葉で愛し合う事ができるのならば、愛してしまいたい。

同時に、怖い。あの子がオレの欲に気付いた時、さらけ出したら嫌うだろうと苦笑を浮かべる。あの子が自分を見せてくれていても、オレが見せていない事にたいして嫌な表情を浮かべるだろうか。

携帯が鳴り始めていたのを見て、開いた。開けてみると、あの子の名前がディスプレイに表示されている。タバコを灰皿に置き、電話に出た。

「……オレだよ、オレオレ」

『何かの詐欺師ですか、あなたは』

明るい口調で電話に出るとふっと笑みを浮かべている気配を感じた。

「こんな時間にかけてくるなんて、永沢ちゃんにしては珍しいね」

携帯の時刻を見た時には、深夜零時をまわっているところだった。普段は遅くても夕飯の頃にかけてくる事が多い。

『まだ、アキラの事だから起きているだろうと思って。昼の日光のもとだと溶けそうだとか発言しているから?』

「まぁ、まだ起きている時間だけどね。作品作っているから」

テーブルに広がったルーズリーフに視線を落とした。深夜に書いた作品はどうして書きやすいが、昼間になると燃やしてしまいたくなるものが生まれてくれるのだろうか、昼間書こうと思っていても、全然頭の中に浮かびもしないのに。

『アキラの詩、最近読ませてくれてないよね。今度読ませて』

「分かった。今度ね」

なんて口では答えながら、見せられないなと苦笑を浮かべている。思いつくままに書きちらしかた作品たちは、読まれる事を望んでいるだろうか。

他愛のない話をして携帯を閉じた。


永沢ちゃんの事を意識したのは、最近になってからの事だった。出会ってすぐの頃は、妹のような存在で、俺から見たら「お嬢様」のような雰囲気をしていた。夜に外に出かける事もしなさそうな、人を疑う事もあまりしていなさそうな…真っ白な印象の女の子だった。

恋愛対象じゃなかった理由は、歳が離れていたのと純粋な印象の彼女だったからだ。グループで音楽活動をしているうちに、しっかりしている一面や、こうと決めたら譲れないところは譲らない頑固な一面も知る事ができて、しだいに惹かれていくのが自分でも分かった。

「女の子」ではなく、「女性」として意識している事に気づいたのは、数年前のバンドの練習の時に、彼女が飲んでいたペットボトル飲料を間違って飲んでしまった時だ。たまたま同じ飲み物だったため、間違えてしまったのだが、永沢ちゃんが好きな飲み物ではなかった。彼女は甘い炭酸飲料を飲まない。すすめられたら飲めるけれど、苦手だと話していたのを思い出した。そして、一つの結論にいたる。


もしかして、俺の好きな飲み物だから?


なんて、妄想してしまったら、ころがるように恋におちていく。いいよ、バカだって言ってくれても。ナルシストだって言われても否定できないのは、自覚している。

なんだかんだ憎まれ口をたたいてしまう事もあったけれど、お互いに意見を出し合って一つも作品を作る事が大きな刺激になっていた。いいものを作りたいからこそ、意見がぶつかりあってしまう。周りの人の意見に偏り過ぎ来ている時に、彼女はこう言った。

『一番大切な自分の意思を守るべきところは、守った方がいいの! 相手意見が正しいって事わけじゃないのよ』

この一言で、オレは完全に彼女の事を本気で惚れてしまった。


「……バカみたいだな」

メールが届いた事を知らせる着信音が鳴った。差出人は永沢ちゃんで、

『タバコの吸い過ぎには気をつけなさいよ』

の一言だった。

「……はいはい」

オレは苦笑を浮かべて、指でぴんっとルーズリーフをはじいた。


【恋の果実】 作詩 アキラ


目の前に美味しそうな 恋がある 今すぐに味わいたい

恋に落ちた理由を考えてみても 全部言い訳じみている

心の中心に あまりにも 自然に入ってくる


自分でもバカみたいだ


夢のまま 憧れのまま 時がとまってしまえばいい

君の姿を見て 涙がにじみだすくらい 好きだから

夢に現れた君に 手を触れて

朝起きた時に 現実にもどされる 寂しさ


会いたい 触れたい


思い浮べるだけで 笑みがこぼれてしまうくらい 好きだから

君の姿を思い浮かべ、笑っていた

声を聞けたら、嬉しくて癒されてしまう


それでも君の声が 耳をくすぐり 理性をとばしてしまう

愛になりきれなくて、恋になりきれなくて、

恋愛はやっかいだ


にごりのない気持ち 大切なものだと 気付いていても迷う


「……どうしようか、これ」

そう言って、ルーズリーフを持ち上げて蛍光灯にすかしてみた。売り物にはならないのは分かっていても、仕事とは別に作ってしまった。それも、深夜に書いているものだから、読み返すのが自分でも恥ずかしいほどだ。

詩を書くようになったのは、アイツの影響だ。

「Believe」での担当は、オレが、ギターと作曲。作詩とベースは、圭が担当。永沢ちゃんはキーボードで、ボーカルが夏美担当していた。

それに、もともと、オレは詞を書く事が好きなわけではなかった。テーマはなんでもいいから好きに作っていいと言われるとどうしたらいいのか分からなくなって、固まってしまい、何も頭の中に浮かんでこなかったからだ。

そんなオレが詩に興味を持ったのは、アイツが書いた詩を読んだのがきっかけだった。プロではないけど、心に入ってくる言葉で書かれていた。圭と作品を見せていろいろ反しているのが面白そうで自分でも書いてみたいと思えた。


その時は、まさか、仕事になるなんて予想していなかった。


書いた詩はいいものだったらしく、「Believe」が解散後の仕事の依頼がくるようになった。ただし、オレの名前で作品が発表される事のない仕事で、別人の名前で発表されようと自分の作品である事には変わりないから、気にならなかった。誰かに作品が届くのなら、どんな方法でもかまわないと感じていた。

でも、この作品だけは、自分の名前で見せたいと思った。


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