最終章:エピローグ
長い間お付き合いありがとうございます。最終章に辿り着きました
海外の出張先のテレビの前で、しっちゃんは静かに画面を見つめていた。
アナウンサーの声が響く。
「ショートコーナーからのセンタリングが上がりました……
イラク選手のヘディングがゴールに向かっています!」
「……あー入った! 日本、後半ロスタイムで同点に追いつかれました!」
「W杯出場は……夢と消えました……」
その試合は、後に “ドーハの悲劇” と呼ばれることになる。
画面の中で、茫然自失の日本イレブンが立ち尽くしていた。
その中に——長谷川健太の姿があった。
清水東のキャプテンだった男。
シュートが「全国で一番抜け目ない」と評した男。
しっちゃんが、決勝戦で真正面からぶつかった男。
しっちゃんは、筑波大学に進んだが、サッカーはやめた。
高校で失った大事なものを探すため。
それと——
シュートのいないサッカーに、もうモチベーションが感じられなかった。
試合が終わった瞬間、しっちゃんは静かに決めた。
「……日本に帰ったら、シュートの墓に行こう」
帰国した翌日。
しっちゃんは甲山の麓にある聖甲山教会へ向かった。
墓は綺麗に掃除されていた。
(……ミッチが来たんかな)
そう思いながら、しっちゃんは教会の扉を押した。
牧師に懺悔の説教を受けるためだった。
牧師は静かに言った。
「昨日ね……“長谷川”という方が来られましたよ」
しっちゃんは息を呑んだ。
牧師は続けた。
「その方は……
『お前との夢のサッカー、W杯はもう少しのところで負けてしまった。
すまない』そう懺悔して帰られました」
しっちゃんの胸が熱くなった。
牧師はさらに言った。
「そして…… シュート君の墓に、日本代表の十四番のユニフォームを
捧げていかれました」
しっちゃんは、静かに目を閉じた。
(……長谷川…… お前が言っていたシュートとの約束を果たしにきたんだな)
しっちゃんは長谷川が置いたユニフォームをそっと触れた。
その布は、まるでシュートが来ていたように温かかった。
しっちゃんは声にならないほど静かに、深く、深く息を吸った。
「……相棒。お前の夢は……ちゃんと誰かが追い続けてるぞ」
風が吹き、木々がざわめいた。
その音は、まるでシュートが笑っているように聞こえた。
しっちゃんは、静かに目を閉じた。涙は流れなかった。
ただ、胸の奥が温かかった。
(……ありがとう、長谷川。 そして……ありがとう、シュート)
しっちゃんは、ゆっくりと教会から離れた。
夕暮れの光が、十四番のユニフォームを柔らかく照らしていた。
それはまるで——君が蹴ったボールの軌跡が、
まだ未来へ向かって伸び続けている
そう告げているようだった。
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