第一章:二人の転入生
四月の風が、校庭のチューリップを揺らしていた。
教室の窓から差し込む光は、まだ少し冷たい。
宝梅中学2年7組の担任・丸川先生が、男女1名ずつを
連れて教室に入ってきた。
「2年生からの転入生を紹介します」
丸川先生の声が、ざわめきを静めた。
「各自、簡単な自己紹介をクラスメートにしてください」
と言った。
男子の生徒が、先に口を開いた。
「静岡から来ました、佐伯秀太です」
少年は前に立ち、短く「よろしく」とだけ言った。
続いて女子の生徒が言った。
「大阪から来ました、小林美樹です」
一歩前に出て、ぱっと笑った。
「よろしくお願いします!」
明るい声が教室に響き、空気が少し軽くなった。
丸川先生が指示した。
「小林さんは西村さんの隣へ。佐伯くんは松岡くんの隣へ」
「皆さん、二人となかよくしてください」
「困ったことがあれば助けてあげてね」
佐伯は大股で席に向かい、軽くお辞儀して座った。
小林は笑顔を振りまきながら、ゆっくりと席についた。
隣の西村紀子が、みんなに聞こえるように言った。
「大阪って、たこ焼き毎日食べるの?」
「うん、朝昼晩」 教室が笑いに包まれた。
昼休み。
小林は体育館の隅で、バスケ部の練習を見つめていた。
まだ誰とも馴染んでいない。けれど、ボールの音が心地よかった。
放課後。
グラウンドでは、サッカー部の練習が始まっていた。
松岡は、まだ慣れないスパイクの感触を確かめながら、
グラウンドの隅でストレッチをしていた。
視線の先の、佐伯秀太に気が付き近寄って行った。
佐伯が尋ねた
「この中学のサッカー部って強いのか?」
「市内大会で、決勝まで去年は行ったらしい」
「県大会にはまだ遠いみたいだ。今年は去年のメンバーが
ごっそり残っているのでもう一つ上を目指しているみたいだ」
「僕はまだレギュラーにもなっていないけど」
佐伯は少し考えて、
「今日は、練習の参加だけでいい。先輩に聞いてみてくれないか」
松岡は、先輩のところへ相談に行った。
キャプテンと副キャプテンがやってきた
「今年の転入生らしいな。サッカーはやっていたのか」
「はい、小学生から地域のサッカーが盛んであったので、
ずっとやっていました」
キャプテンが聞く
「どこから、転校してきたんだ?」
「静岡の市清水中学からです」
副キャプテンが
「清水? サッカーの町じゃん ヒュー(口笛)」
続けて
「ポジションはどこをやっていたんだ?」
「トップ下の攻撃的ハーフです」
キャプテンが
「チームのエースポジションだな」といい、
副キャプテンと顔を見合わせた。
「うちのチームは今年よりより上のレベルを目指している」
「君のような経験者は是非とも入部してほしいが」
その後を副キャプテンが続けた
「とはいえ、人数ばかり集めても仕方ないので、
今年から入部のテストを受けてもらっている」
「2対2のミニゲームで俺たち二人が相手になる」
「佐伯の相手は、松岡にやってもらう」
佐伯が、準備に着替えに行った。
市清水のユニフォームに着替えて出てくる。
背番号は14であった。
松岡は緊張した。
(流石に名門のユニフォームを着ると佇まいが違うな)
ゲームが始まる。
松岡は、技術的には粗い。トラップも甘いし、パスも揺れる。
けれど、諦めない。ミスをしても、すぐに戻る。
そして、佐伯の動きを見て、自然にスペースを空ける。
結果は5−2。負けはしたが、佐伯の中に何かが残った。
「先輩方、松岡君ありがとうございました」
「入部の意思はまた連絡します」
そう言って、佐伯はグラウンドを後にした。
週末の午後。クラブチームの練習場。
佐伯は、テスト参加のために来ていた。
休憩中、フェンスの向こうに人影が見えた。
「……小林?」
小林が、ジュース片手に立っていた。
偶然通りかかったらしい。
「え、佐伯? ここって……」
「みんなには黙っててくれないか」
佐伯は、少しだけ目を伏せた。
小林は驚いた顔をして、それから頷いた。
「わかった」
練習が終わる頃、彼は決めていた。
ここには、松岡みたいな“相棒”はいなかった。
その夜、佐伯は部活に入ることを決めた。
「先輩、入部を希望しますが、もう一度ミニゲームをさせてください」
「この前と同じメンバーでやるぞ」
先輩の声は、冷たくはないが、試す色を含んでいた。
再び松岡と組まされる。
ゲームが始まる。 松岡の動きが違った。
パスのタイミングを、半歩早く読んでいる。
佐伯がフェイントを入れると、すでに動いていた。
「……動きを読んでるのか?」
結果は5−4。負けはしたが、内容は違った。
その夜、佐伯は入部届を書いた。
理由は一つ。 松岡と言う相棒を見つけたから。




