横浜上空戦
-デスデモーナ-
……なんて船だ。
ディックの心に焦りと恐怖の陰が差す。
並の加速ではない。しかも今の機動。確実に仕留めていた筈のタイミングだった。
「何で躱せる…」
しかし、海賊の意地がある。
「予測を交えて砲撃修正!次は当てろ!!」
「翔龍姫移動開始!北東へ加速しやした!!」
……逃げる気か?
「砲撃位置ホールドしたまま追撃!素粒子砲、まだか!?」
「あと10秒っす!」
「くそ、遅ぇぞ!」
焦ってザックが振り返る。
「艇長、まさか市街地上空で撃つ気っすか!?」
「当たりめぇだろ!」
ザックは眉を寄せた。
「いや、なるべく穏便にしろ……と姐さんが……」
ディックもさすがに狼狽えた。しかし……、
「何言ってやがる。既に丘一個潰しちまってんだぜ」
「ま、確かに……」
「そんな心配するより、奴の予測しやがれ!」
「へい!」
デスデモーナは小型な利点を生かし、翔龍姫の内側へ回り込んだ。
-翔龍姫-
「砲撃、来ます」
放物線を描く無数の400mm砲弾が、翔龍姫の後を追って横浜市街に着弾。次々に町が炎を上げる。
「さすが、小回りが利きやがるなぁ」
落ち着いているようでいて、雷の手足は止まらない。必死の微調整が続いた。
「雷、被害が……」
「押されちゃいるが、まだ一発も食らってないぜ」
「ち、違うって」
どうも感覚に隔たりがあるようだ。
「あずま!!」
「分かってるから喚くな!すぐに終わらせてやる!!」
……ただし、もう少しだ!
「イゾーデ、進路変更予定地点まで何秒だ!」
「あと……」
雷の視界の端に警戒警報のフラッシュが飛び込んだ。
「……素粒子砲、来ます」
進路修正。ディスプレイの右端を蒼いエネルギーが通過。続けて激震が襲い、コンソールが一斉に喚き出す。
「通訳してくれ!」
読んでる余裕はない。
「第1装甲板小破。至近弾の熱により、表面が僅かに蒸発」
つまり、無傷。
「その程度の詳細情報いらねぇよ!!」
「……それと、予定地点までの時間修正。あと12秒です」
……見えた!
「煙幕放出!」
雷は僅かに減速させ始めた。
「攪乱剤射出用意!京子、Gに備えとけよ!!」
-デスデモーナ-
ディックは唖然とした。
「今のをはずしただと……?」
珍しく完璧なタイミングだった。それをあの翔龍姫は瞬間身を躱したのだ。
……あの船の野郎、ライツだったか……いい反応しやがる。
「翔龍姫黒煙確認!速度落ちやした!」
「チャンスだ!400mm砲全弾叩き込め!!」
-翔龍姫-
「ライツ様、このままでは砲弾の直撃を受けることになります」
相変わらず冷静なイゾーデの声。しかし、その中にも少しばかりの不安が見て取れた。
……少しは食らうつもりだ、が。
「任せとけ!」
機体を低空へ。目下横浜の町が水のように流れていく。
「カウント開始します。目標地点まで、5、4、3……」
前方に球形のガスタンクが迫る。と、砲弾直撃。機体が激しく揺れた。
「直撃です!」
「気にすんな」
「気になります!」
「大した問題じゃない。チャフ射出!」
直後、機体がガスタンクの裏へ。砲撃を受けたタンクが爆炎を吹き上げた。
-デスデモーナ-
「いよっしゃぁ!!」
ディックは拳を固めてポーズを入れた。
「今のは当てたな!ザック、奴はどうなった!?」
「いや、それが……」
光学映像には未だ炎を上げる横浜の町が映し出されていた。しかし、そ他センサーは白く、砂嵐のように荒れていた。
「こいつぁチャフっすね」
……んだとぉ。
ディックの直感が警鐘を鳴した。
「センサー回復しやした!」
途端、警報が鳴り響く。
「上っす!!」