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養父


       第6章  追手


     1


    -翔龍姫-


ジャンクション、アメリア・フィールズへ衝角での突入を敢行して30分、翔龍姫は既に亜空間へホールイン、跳躍航法の中にあった。

 本来ならば3分で亜空間へ入れる能力を持つ翔龍姫なのだが、「修復の時間をいただきます」というイゾーデの強硬な意見に圧され、通常航行のまま10分、修復作業にあったのである。

 実際、表面は傷だらけであった。

 雷からの連絡を受けた時には、埠頭出口は軍令により閉鎖。出港手続きも凍結されていた。破壊して出るしかない……が、乗員なしには翔龍姫の兵装全てが使用不能。苦肉の策で、イゾーデは衝角により港を破り、マーカーの標す地点へ急行、宇宙島を外部より突き破ったのである。

 「セリア様のためですからね!」

 外装の傷をやたらと気にするイゾーデ、この時ばかりは愚痴をこぼすことしきり。1秒でも急ぎたい中、修復による時間は容認せざるを得なかった訳である。

 「それにしても……」

 亜空間に入ってしまえば、海中を行く潜水艦も同然、警戒は氷のように溶けていった。

 「翔龍姫か……久し振りだ」

一心地着いたジョーカーが感慨を口にした。

 ジョーカーは特設された補助席で伸びをしながら見回した。整備とDNA登録の為、何度も乗船をした。

 「あの時のままだ」

 「乗ったことあったのかよ……」

 操縦席より振り返る雷へ、ふっと笑ってみせた。

 「当たりめぇだろ。俺を誰だと思ってんだ」

 騎士団長にしてゲィツの1st。

 「ただの暴れん坊じゃない」

 肩すかし。京子の痛烈な一言にジョーカーは苦笑した。

 「あれは、振りだよ振り」

 「そぉですか。じゃぁさぞかし辛かったことでしょぉね」

 「えっと……」

 言い淀むジョーカーの横で、鈴のような笑い声が耳を撫でた。

 「相変わらずのようですね」

 目を柔らかく細めた、イゾーデだ。

 ジョーカーは慌てて席を立つ。

 「イゾーデ……久し振りだな。8年……か?」

 「そうですね。フェストを追われる前、最終調整の時が最後ですか……」

 「8年も時が過ぎたのに、君は月日を感じさせない」

 「それは、ジョーカー様、貴方もですよ」

 自嘲気味に目をそらした。

 「衰えを感じているがな……」

 「親父、それ本気で言ってる?」

 ジョーカーはにっと笑って舌を出す。

 「なぁんてな」

 「ふふ……まるで変わってませんね」

 笑い声が治まるのを待って、ふとジョーカーは真剣な目をイゾーデと京子、そして雷に向けた。

 自然、雷と京子は誘われるように席を立つ。

 「お京……いえ、セリア王女。この8年、不自由な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません。このジョーカー、不徳と致す所です」

 京子は複雑な様相でかぶりを振った。

 「そんな、不自由なんて……思ってない。それに、おじさんは、確にお養父(おとうさん)だよ。京子のお養父さん……だらしなかったけど」

 最後の言葉に京子の苦労がにじみ、イゾーデの鋭い視線がジョーカーを突き刺した。

 「えっと……王女と言えども家事などの社会勉強を……」

 しかし、イゾーデは吹き出した。

 「いいのです。良い王女となりました」

 そして、ジョーカーは改めて頬を引き締めた。

 「イゾーデ、そして雷……。よくぞ王女を護ってくれた。騎士団を代表して礼を言う」

 深々と頭を下げるジョーカー。

 「そんな、私は当然のことを……」

 「俺は……」

 雷は苦々しく視線を避けた。

 「親父、俺は何も出来なかった……」

 思い詰めた目。噛んだ唇から血がにじむ。

 「俺は……何も出来なかった。ただ京子を連れて歩いただけだ!」

 「あずま……」

 「ランディさんに助けられて……ベイリス艦長を犠牲にして……副長に逃がしてもらって。挙げ句は京子の能力に頼りっぱなしだ!何が騎士だよ、何がゲィツだよ!!俺は何も出来ない半端もんだよ!!」

 「何言ってやがる。お前は生きてここにいるじゃねぇか」

 陥落したダイモス、無為に撃沈されたミーティア、未だ居場所の掴めぬエステール。そして……京子。

 「俺に力がないばっかりに、京子だって死にかけたんだ!俺が……」

 「思い上がるな!!」

 腹に響く声。雷は言葉を喉に詰めた。

 「力がありゃぁいいのか!ランディやベイリス、コールには力がなかったってぇのか!!」

 詰め寄るジョーカーを、歯を食い縛って見上げた。

 「一人で何でも出来る訳ねぇだろ!」

 そして、ジョーカーの目が悲しみに満ちた。

 「力だけ欲するなら、オルゲンと同じだろ……」

 雷は目をそらした。

 「騎士は一人じゃぁない。何のためか、分かるだろ……」

 少し、言葉を詰めたジョーカーは、雷の頭を平手でひっぱたく。

 「いてっ」

 「だいたい甘えたこと抜かすな。いいじゃねぇかよ。本当にお前は強くなった」

 「けどさ……」

 「たら、れば……振り返ればキリがねぇ。お前は出来る限り、最善を尽した。それだけだ」

 それでも雷は少し、表情を歪めた。

 「ねぇ雷……」

 そこに、京子が声を掛けた。

「あたしね……」

 すると……ぐぅぅぅ。京子より大きく腹の虫が。気まずい空気が流れた。

 「腹……減ったのか」

 京子の顔が、さぁっと赤く染まる。

 「だ、だってお店入ったら大騒ぎだったじゃん!!」

雷が吹き出したのをきっかけに、一斉に笑い声が上がった。

 「あっはっは、お京は変わんねぇなぁ」

 「そんな……あ、イゾーデまで笑うことないじゃん!」

 「も、も、申し訳、あ、りません……」

 イゾーデは真っ青になりつつ笑いの発作と戦った。

 「まぁ、いいじゃねぇか。飯、飯食おう。イゾーデ、用意頼む」

 するとイゾーデ、神妙にジョーカーを見返した。

 「何も用意しておりませんよ」

 「……は?」

 思わず雷と京子が顔を見合わせた。

 「ライツ様が、食べてくるから今日はいらない、と……」

 今度は、3人一斉に腹の虫を鳴かせた。



 でもね、雷……あたしは、誰よりも頼りにして、感謝してるよ。

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