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王国魔剣奇譚アイン-勇者セーマと焔の英雄-  作者: てんたくろー
エクストラ・デイズ『王国魔剣奇譚』
111/129

打ち上げパーティー・3

 宴会場であるレストランに入ると、店内には先ほど気配感知していた通りの人物が一人、着席していた。

 セーマにとってはよく見知った顔だ。銀髪に不敵な笑みを浮かべた美女。苛烈な性格をそのまま顔に出したような気の強い顔立ちが、不思議と野生の獣を思わせる気配を放っている。

 女はセーマを見るなり片手を挙げた。

 

「よう! 来たかセーマ!」

「──フィオティナ! やっぱりあんたか、いつこの町に?」

「三日前! へへ、遅ればせながら到着って奴さ」

 

 応えればにかりと笑う。彼女──王国騎士団長フィオティナは立ち上がり、一同を招き入れた。

 セーマはもちろんフィリス、アイン、ソフィーリアといった知り合いにも次々、話しかけていく。

 

「フィリス、久しぶりだな! 元気してたか?」

「ええ、フィオティナさんこそ」

「フィオティナさん、お久しぶりです!」

「王都ではお世話になりました!」

「アイン、ソフィーリア! 久しぶりだな、話しは聞いてるぜ……よく頑張ったじゃねえか! さすがはセーマの弟子だぜ」

 

 既に『魔剣騒動』の顛末については報告を受けているのだろう、特にアインの頭を撫で付けて笑うフィオティナ。

 雑な、こねくり回すような動きだが痛みはない。どこか優しささえ感じさせる労いに、アインは照れ笑いを浮かべた。

 

「フィオティナ……『銀鬼』フィオティナさん! すごい、初めて見た!」

「騎士団長か。『世界最強の人間』とやらだったな」

「ヘヴンちゃん、さすがに喧嘩売っちゃめーよ?」

「売らん! 打ち上げでそんな真似するか、まったく!」

 

 レヴィが初めて見る『銀鬼』フィオティナに興奮の声をあげた。

 王国が世界に誇る『世界最強の人間』。女だてらに先の戦争にて獅子奮迅の活躍を見せた天才女騎士の存在は、世の女戦士すべての憧れでありいつか辿り着きたい目標である。もちろんレヴィとてそれは例外ではない。

 

 リムルヘヴンとリムルヘルは興味深げにフィオティナを見ている。王国騎士団長の存在と名声は『エスペロ』にいた頃から知っていたが、会うのはこれが初めてだ。

 リリーナ曰く『そこらの亜人よりよほど強い』とのことだが……なるほど気配がそこらの人間とは段違いだとリムルヘヴンも認めざるを得ない。

 たとえ魔剣の力を以てしても、あるいは敵わないかもしれないだろう。そう彼女は内心で見積もりを付けていた。

 

「ん……お前らは?」

「あ、は、はい! レヴィと申します、A級冒険者の、『破槌』です!」

「……リムルヘヴンだ。こっちは双子の妹の」

「リムルヘルちゃんでーっす! 姉御、よろしくなー!」

「いきなり姉御かい……にしても、ふうん? 報告にもあった、風の魔剣士にやられた被害者二人と水の魔剣士ってのはお前らだな」

 

 ジロジロと三人を見る。特にリムルヘヴンは魔剣士として騒動の最終局面にて多大な働きをしたということで、注意深く観察している。

 やがてフィオティナは、にやりと笑って言った。

 

「……いいねえ。『破槌』は前から小耳に挟んでたがなるほど、中々だ。ちと武器頼りになってそうな感じだから、もうちょい身のこなしに気を付けると噛み合うかもな」

「あ、ありがとうございます!」

「リムルヘヴンはさすが亜人、身体能力は申し分無さそうじゃねえか。だがイマイチ、手前で使ってる得物への信頼が足りてねえ。とにかく場数を踏んで武器への理解を深めりゃあもっと強くなれるぜ」

「……ふん。気に留めておく」

「おう、そうしろ……と、悪いないきなり。最近は有望株見るとつい口を挟みたくなってなぁ」

「い、いえ! ご指導ありがとうございます!」

 

 いきなり戦士としてのレヴィとリムルヘヴンを見定め、あまつさえアドバイスなども始めたフィオティナ。一目見ただけで素質や現状を踏まえた今後への指導を行えるのは、さすが王国騎士団長だなとセーマは感心している。

 と、リムルヘルが首を傾げた。

 

「ねーねーヘルちゃんはー?」

「あ? いや、お前さん戦士じゃねーだろ? そうなると俺にゃ何も言えることねえよ、殺し合い以外に得意なことなんざ何もないんだぜこちとら」

「しょぼーん……」

「な、何か悪いな」

 

 一人除け者と感じたのか、にわかに落ち込むリムルヘル。苦笑しつつその頭を乱雑に撫でながら、フィオティナは次いでロベカルに向き合った。

 

「よう爺。またくたばりぞこなったみてえだな」

「しゃらくさいわ小娘が……もう死にたいとは思わぬよ。勇者殿や、次代を担う若者たちのおかげでな。心配かけた、フィオティナ」

「……そうかい。そいつは何よりだぜ、ロベカルさんよ」

 

 憎まれ口を叩き合い、それでも穏やかに笑い合う。

 二人は戦争以来の知り合いだ……戦後、鬱に近い状態にまで陥っていたロベカルを気に掛けていた時期もあるフィオティナとしては、今まさに復調を遂げたらしい老翁の覇気ある姿は嬉しいものだ。

 ロベカルがラピドリーとジェシーをフィオティナの前に押し出す。

 

「紹介しよう、息子のラピドリーと孫のジェシーじゃ」

「どうも『銀鬼』さん、ラピドリーだ。お噂はかねがね」

「じ、ジェシーと申します! よろしくお願いいたします!」

「フィオティナだ、よろしくな……へえ。開拓地で種馬やってたボンクラ息子とセーマの同期の孫娘ってなぁ、お前らか!」

「……え、ひでぇ!?」

「事実じゃろ馬鹿息子めが」

「騎士団長にまで知られてるなんて、本当にお父さんって、もう……」

 

 あんまりな呼び方にラピドリーが嘆くも、開拓地で何人もの女に手を出した挙げ句ここにいるのは事実なのでぐうの音もでない。

 父どころか娘にまで冷たい目で見られてはラピドリーも明後日を向いて口笛を吹くしかなく、そんな彼に苦笑してフィオティナはジェシーに目を向けた。

 

「ジェシーか……お前さんはまだまだ、身体も技術も一人前とは言えねえみたいだな」

「は、はい」

「だが素質がないことはねえだろ。爺はもちろんそこの親父さんもそこそこやるみてえだし、まずはしっかりと教えを受けな……おい爺、種馬。大事な孫娘なんだからきっちり鍛えてやんな!」

「ん……ま、ジェシーも次代を生きる若者じゃしな」

「誰が種馬だ! 言われなくても俺が師匠だ、バッチリ育てるよ!」


 言われるまでもないとロベカルとラピドリーが答えるのに満足げな頷きを返す。

 がさつで粗野だが親しみやすさも併せ持つフィオティナらしい気遣いに、セーマも微笑んでから尋ねた。

 

「それでフィオティナ、三日前に到着してたのか?」

「おう……つっても到着してみりゃ全部終わってるしよ、唖然としながらギルドの連中に説明を受けたぜ」

「そ、そうか」

 

 行き違い……とでも言うべきか。

 『魔剣騒動』に対してセーマやアインへの助っ人として町にやって来たフィオティナだが、その時点で既に敵組織『オロバ』は王国南西部から撤退し、首謀者であるワーウルフ・バルドーもまた、アインによって打ち倒されていた。

 頭を掻いてぼやく。

 

「いやー、完全に出遅れちまったんだから参った参った。まさかすぐさま王都にUターンじゃねえだろうなって、柄にもなく焦ったよ」

「そうしてないってことは、何かあるのか?」

「おう。別に打ち上げに参加するためじゃねえぜ……ギルドに依頼されてな。しばらくの間、俺がギルド長さ」

「──うん?!」

 

 思わぬ言葉に驚きの声をあげる。ギルド長……フィオティナが?

 アインも同じように驚愕して言う。

 

「え、騎士団の方はどうなさるんですか?」

「そっちはひとまず落ち着いたからな、副団長預かりになってるよ。それにここのギルド長、やらかして取っ捕まったろ? 後釜をどうするかって時に俺が到着したもんだから、頼み込まれてよお」

「その通り、私どもからお願いいたしました」

 

 事務員の女がフィオティナに近寄り、ことの経緯を説明する。

 すべては『魔剣騒動』の折、前ギルド長ドロスが『オロバ』に与していたことが発覚、最終局面にて捕縛され王都に連行されたことに端を発していた。

 

「皆さんもご存知のように、ドロスはギルド長であり、同時にS級冒険者でもありました。それゆえの豊富な人脈を駆使し、彼女はこれまで、質の高いギルド運営を行っていたのです」

「S級三人を試験官とする実技試験なんかはその、最たるもんだろうな……世界広しと言えど毎度そんな贅沢なことしてるの、この辺りくらいだぜ」

「そうしたクオリティの高い運営が、レベルの高い冒険者を養成してきた側面もあり……ひいては王国南西部の治安維持にも繋がってきたというのは、否定できないところですね」

「むう……なるほど、のう」

 

 ロベカルが呻いた。ドロスの、人脈を誇示するかのようなS級起用を初めとする豪勢な運営の数々……それがその実、王国南西部にとって有意義なものであることに気付かされたのだ。

 裏切り者ですらない、初めから敵側だった女。だがだからと言ってこれまでのすべてが悪意に満ちたものでなかったことは、長らく交流のあったロベカルだからこそ確信できることである。

 事務員の女は続けた。

 

「そうしたわけで、ドロスの次にギルド長となる方にも、ある程度の人脈や名声が求められました。引き続き今の形で、冒険者への支援活動を行うために。そこに来てフィオティナ騎士団長がお越しくださったので、これは是が非でも、と」

「あー、騎士団長として人脈も名声も、ついでに言うと実力も申し分ないですしね」

「そういうこった。俺としても、治安が絡むとなりゃ断りづらくてな……ましてやこれまで騎士団が事実上、放置してた地域の話だ。少しでも協力したくてよ」

 

 ばつが悪そうに、フィオティナ。

 この王国南西部は他の地域に比べても格段に治安が良く穏やかであることから、王国騎士団からは半ば放置に近い扱いを受けていた。そのことに対する罪悪感があるのだろう。

 戦争で騎士団そのものの戦力が低下していたことを理由に、冒険者たちに治安維持活動を委託する形となってしまっていたのである。

 これは何だかんだと真面目で責任感の強いフィオティナにとっては痛恨の事態であった。

 

「陛下には部下を通して伝えてる……しばらく俺は、騎士団長と王国南西部ギルドの臨時ギルド長の兼任ってわけだ」

「大変だな、あんたも……」

「よせやいよせやい、実際に騒動を収めたあんたらには及ばねえさ、セーマ」

 

 ひらひらと手を振る。王国の平和を守る騎士団の長は、苦笑さえ浮かべつつそれではとセーマたちを誘った。

 

「おし、まあとにかく席に着けよお前ら。臨時ギルド長として酒がしこたま入る前、最初の挨拶で言っとかなきゃならねえことがあるんだ」

「言わなきゃならないこと?」

「悪いこっちゃねえぜ……さあさ、座んな座んなァ」

 

 言うがまま、言われるがまま席に着くセーマたち。

 円形テーブルにそれぞれ4つ、椅子が備わっているところに各人が座る。フィオティナや事務員はじめギルドスタッフたちもそうして落ち着いてから、各人の手元に料理が置かれていく。

 レストランのスタッフたちが忙しなくする中、フィオティナは立ち上がり、挨拶を始めるのであった。

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