打ち上げパーティー・4
『魔剣騒動』の関係者たちが揃って席に着き、テーブルにも次々、贅を凝らした料理が運ばれていく中。
騎士団長にして王国南西部ギルドの臨時ギルド長に就任したフィオティナは一人立ち上がり、面々を見渡して切り出した。
「えー、本日はお集まりいただきましてありがとうございます。先程も紹介させていただきました、臨時ギルド長フィオティナです」
「相変わらず、敬語の似つかわしくない方ですね……」
公人としての発言ゆえだろう、粗野な態度から一変して厳かな佇まいにて敬語を使うフィオティナ。
それを見てフィリスが、小声でセーマに呟いた。戦争の頃から知り合い同士である彼女には、敬語を用いるフィオティナなど何度見ても慣れるものではない。
正直なところそれはセーマも同様なのだが、さすがに同意するのも失礼な話ゆえ、苦笑に留めて言葉を返す。
「まあ、あの頃のフィオティナを知ってる俺らからすればね……でも、今じゃすっかり立派な騎士団長でギルド長なんだからすごいよ。まったく、変われば変わるもんだ」
「……え、えーこほん! つきましては早速、打ち上げパーティーの開催と行きたいところではあるのですが! その前に、皆さんの功績に対する王国、並びにギルドからの報酬についてお伝えさせていただきます」
「報酬……?」
ばっちりセーマとフィリスの密談も聞こえていたフィオティナだが、あえて無視する──自分に敬語が似合っていないなど百も承知だ。見ればロベカルさえ笑いを堪えているのだ、一々反応していても話が進まない。
それよりも、と本題たる『魔剣騒動』の功労者たちに対する報酬、報奨についてを告げる。
「今回、王国南西部にて発生した魔剣を巡る騒動の解決において、多大な貢献を果たした皆様に対し、ローラン・エルグスト・デア・キャニズムリズム三世陛下から深い感謝と共に報奨が用意されております」
「『豊穣王』陛下直々に……!?」
「またギルドからも、セーマさんやアインさんたち冒険者に対しての報酬を用意しております」
その言葉に、特に沸き立つのはやはり冒険者たちであろう……関係者といっても結局被害者の立場でしかなかったレヴィはともかくとして、他の冒険者たちはそれぞれ反応を示している。
「リムルヘヴン、やったじゃない! あんた風の魔剣士仕留めたんでしょ、そりゃもうすごい報酬になるわよ!」
「ヘヴンちゃんたらお金持ちー? 儲かりますかー?」
「ふん……大して興味などないが、これから各地を巡るとなると資金があるに越したことはない、な」
フィオティナと同じテーブル、レヴィとリムルヘル、リムルヘヴン。はしゃぐ二人を尻目にリムルヘヴンは至って平静なものだ。
それでも旅費の足しにくらいはなるかとありがたく受け取るつもりではある辺り、彼女の人間嫌いも徐々に改竄されつつあるのだろう。
「ふむ……わし、別に金には困っとらんのじゃがな」
「だったらくれよ親父、俺のも合わせて開拓地のかみさんたちへの仕送りにするからよ」
「……そうするか。お主の毒牙にかかった女たちへの、慰謝料くらいにはなってくれるかのう?」
「ぐぬ……そう繋げるかよ」
「お父さん、言われても仕方ないと思う」
ロベカル一家と事務員の女が座るテーブル。親に事実上、無心をしたラピドリーに呆れつつもロベカルとジェシーが話す。
「私は……受け取って良いのかな」
「お主も戦ったではないか、ジェシー。受け取っておきなさい」
「でも、私何もしてないし」
「貰えるもんは貰える時に貰うのも冒険者だぜジェシー。悔しいとかは次に活かすバネにしときな。意地を張るために使うもんじゃねえぜ」
「……はい」
風の魔剣士を恐れて結局、剣を抜いたのはラピドリーと二人で『オロバ』幹部を抑えようとした時の一度きり。その時とて、謎の生物により親子共々あっけなく返り討ちにされた。
そんな自分が報酬などと、受け取るに値するのか……きっとしないだろう。ジェシーは事実としてそれを受け止めつつ、しかし祖父と父の言に従い、それを呑み込んだ。
この悔しさを今後、二度と味わうことのないように努力するしかない。
新米冒険者ジェシーは、静かに決意を込めて頷いた。
「報酬、か……メイドさんたちへのボーナスとして支給できないかな?」
「お気遣いありがとうございます、セーマ様……額にもよりますね。何でしたら今度の海沿いバーベキューの予算に組み込むのも良いかと」
「おっ、良いねそれ。さすがフィリスさん」
「ありがたきお言葉」
一方でセーマとフィリスは隣り合いの席で、報酬の使い道を即決している。元より森の館の主として莫大な資産を持っている彼からしてみれば、報奨が多少入ったところで特に何かあるわけでもない。
ボーナスがてら、予てより企画していたバーベキューの予算に組み込むかと考えていると、同卓のアインとソフィーリアがうんうんと唸っているのが見えた。
「報酬かあ……何に使おうかな」
「貯金もしなくちゃ駄目よ、アイン? 私たちだってその内、世界中を回るんだから」
「それはもちろん。だけどさ、一つも触れないのも、ねえ?」
「……生活のグレードを上げるのも、大切よね? 贅沢はしないにしても」
「だよねー!」
貯金はしつつ、程々に生活を豊かにする……そのような方向で見解が一致してはしゃぐ、少年少女たち。
考えてみれば、アインとソフィーリアは半年前に冒険者になったばかりだ。
そんな彼らはまだまだ生活も質素なものだろう。報酬で多少でも暮らしを整えるのは急務かもしれないと、セーマは微笑むのであった。
「報酬の方は近日中にお渡しいたします……それから、冒険者の方、何名かには昇級も行われています」
「──昇級?」
浮わつく一同にフィオティナがそう告げると、特に冒険者たちがぴたりと動きを止めて静かになった。
ややもすると報酬以上に重大なものかもしれない。この間セーマとアインが揃ってC級への異例のスピード昇級を成し遂げていたが、もしや更に上へと至ると言うのか。
固唾を飲んで見守る中、発表は行われた。
「まずリムルヘヴンさんが、D級からC級へと昇級しました。風の魔剣士討伐に中心的役割を果たしたことが理由です」
「おめでとう! あんたも大概スピード出世よねえ」
「ふん……正直どうでも良いが、まあ食い扶持に困る確率が減るならば良しとしておくか」
まず最初にリムルヘヴンだ。水の魔剣士として風の魔剣士との決戦に臨み、見事これを打ち倒して見せた実績による一段階の昇級。
レヴィのみならず皆が拍手を以て祝うが、当の本人はとくに喜ぶこともなく受け入れた。彼女にとっては実力を備えることが一番重要であり、冒険者としてのランクなどは割合どうでも良いのだ。
「続きまして、セーマさん。『タイフーン』『翔龍』『凶書』と連携して王国南西部の『オロバ』、並びに王国内で活動していた『亜人連合』を壊滅させた功績につきまして、A級冒険者への昇級が認められました……つってもあんた、あんま嬉しかねえだろこれ」
「ん……まあなあ。正直ずっとFでも良いくらいなんだが」
ついでセーマが、C級から2段飛ばしでA級へと昇級した旨が告げられる。
拍手喝采。フィリスやアインが特に喜色満面に祝福する最中、しかし当の本人はフィオティナと二人で苦笑を浮かべていた。
セーマがこの世界に召喚された時からの付き合いであり、彼がどのような経緯で今の隠居暮らしに落ち着いたかを知っているフィオティナだからこその理解だ──彼は別に、昇級を望んではいない。
なるべくなら目立ちたくないとさえ考えているだろう。これからの余生を身内たちとひっそりと送る、それだけがこの男の望みなのだ。
「ま、せっかくだしもらっとけ。俺としても、あんたがこのまま巷に評価されず終いってのは悔しいしよ」
「気にしなくても良いのに……ありがとう」
「へへ、よせやい……さて、最後にアインさん!」
「は、はい!」
そしてアインが呼び出され、少年は居住まいを正した。
この『魔剣騒動』において、彼こそが一番の功労者といえるだろう……炎の魔剣を操り水の魔剣士ワインドと風の魔剣士クロードを打倒し、更にはすべての元凶、首謀者たるワーウルフのバルドーさえその手で仕留めたのだ。
事実上、王国南西部を平和に導いたのは彼の働きによるものが大きい。そんなアインに向け、フィオティナは言った。
「風の魔剣士討伐、及び『オロバ』大幹部にして『魔剣騒動』首謀者バルドーの退治……これらの功績は既にローラン陛下にも伝えられ、大いに厚く功を以て遇せよとのお言葉も頂戴しております」
「へ、陛下が! お、畏れ多いことですぅ……」
それらアインの為し遂げた活躍は、既に『豊穣王』ローランの耳にも入っている。元よりセーマと情報共有をしていたこともあり、特に騒動の成り行きについては注視していたのだ。
王国民にとっては神にも等しい『豊穣王』からの言葉に、アインも例に漏れず感動に打ち震えるばかりだ。
ソフィーリアなど隣で、感極まって涙目にさえなっている……そんな二人を見ながらも、フィオティナは告げた。
「以上の点を鑑みましてアインさん、貴方は本日より──S級冒険者として認定されました! ローラン陛下直々に名付けられた『焔魔豪剣』の二つ名と共に、どうかこれからも頑張っていただきたく思います!」
「っ!?」
告げられた言葉を、一同が理解するまでに少しばかり、沈黙の時間があった。
S級──S級冒険者。世界に50人程度しかいない、冒険者の頂点。そして二つ名の『焔魔豪剣』。
じわり、じわりと認識が進み……呆然と、アインが呟いた。
「S級……そ、それに、『焔魔豪剣』……?」
「いきなり、頂点だと……?」
「──ぶっちゃけると、こいつは王国の思惑もある。本来ならばセーマと同じA級が妥当なんだが、陛下のご意向を受けてのS級だ」
素の口調で、フィオティナ。先程までとは打って変わり、やや厳しめの表情でアインを、そして呆然としている一同を見る。
「平和になりつつあるこの国の、迎えようとしている新しい時代に……新しい英雄、新しいヒーローが必要なんだ。そこに来て若く、強く、そして正義を以て王国南西部を護り抜いた少年が表れた……そういう、宣伝も込みのS級なのさ」
「……あまりアインくんを政治に利用するのは」
「もちろん分かってる。陛下もそれは望んでおられない……ただアインには、ようやく戦争から立ち直ろうとしているこの国の民たちの、希望の焔になってほしいんだよ」
「希望の、焔?」
釘を刺さんとしたセーマに、慌ててフィオティナが即答した。
かつて前王アルバールに好き放題利用されたセーマにとり、アインがそのような状況に置かれるのは許しがたいことだと、フィオティナもローランもよく理解しているのだ。
あくまでも『新しい時代』の象徴としての英雄……正義と平和のために戦う、史上最年少でS級冒険者となった天才剣士。そのような位置に据えたいのである。
その旨伝えれば、セーマは渋々ながら頷いた。
「分かった……だが、アインくんを出汁にして無理を通すなんてことは考えないでくれ。ローランを疑うわけじゃないが、どうかそこは伝えてほしい」
「ああ、陛下も俺も上層部も肝に銘じとく」
「……大丈夫ですよ、セーマさん」
厳しい顔で告げるセーマに、ふにゃりと笑ってアインが答えた。いつもの笑みだ──人を安心させる、暖かな陽光のような笑顔。
そしてその瞳に宿る、英雄としての覇気。
「新しい時代の、希望の焔……僕がそうなれるんなら、頑張ってやってみます」
「アインくん……」
「もちろん、政治とかそういうのに悪用されたくはないんですけどね。誰かの心の支えになれるよう、これからも精進します」
強く、優しく意思を貫くその言葉に、セーマはようやく安心したように肩の力を抜いた。
彼は自分とは違う……己の意志で己の道を切り開ける英雄なのだと、改めて思い知ったのだ。
「頼むぜ、アイン……陛下から二つ名を頂いた冒険者はお前が第一号だ。気負う必要はねえけど、あんまり不祥事はやらかしてくれるなよ」
「は、はい、分かりました! S級冒険者『焔魔豪剣』アイン、これに驕ることなくこれからも精進します!」
若々しい意思表明。史上最年少といっていい若さでS級冒険者となった、新しい時代の新たなる英雄アイン。
彼の力強い言葉に、パーティー会場には拍手が轟くのであった。




