詠神の備忘録② 初恋の人
日本古来の考え方では、夢に意中の人が出てきたらそれは恋らしいです。それを踏まえてどうぞ。
「いつも有難うな、ヨミ」
「いいえ、大丈夫ですよ、バール」
仲睦まじく、私とバールが会話をしています。最もバールの頭は、私の膝の上に乗っていますが。『膝枕』というやつです。
「では、失礼します」
「あぁ、宜しく…いてっ」
「まだ序の口ですよ?我慢してください」
「わかったよ…あぁ、そんな感じ」
「ふふっ、動くとまた痛くなりますよ?」
異世界からやってきた文化(?)である『耳掃除』をやっています。そうして二人は、今日も幸せな時間を過ごしているーーー。
…という、夢を見ました。尤も、これはいずれ現実になるのですが。
朝食を取ろうと食堂へ行った私は、神様になったと言う兄さんに出会いました。
「兄さん、おはよう。…その」
「あぁ、おはよう。神様になったとかなんとか言われているが、セレシアのおかげで俺は立派な、ただの死なない人間だ。飯も食いたいし、夜は寝たい」
「…そうなんだ」
お父様とお義母様がやってきました。私の実母は結構な悪女だったそうですが、運悪く私を生んで少しして、衰弱のために亡くなったそうです。お陰で顔も分かりません。…そんな私にとっては、アカネさんが唯一の母親だったりします。
食べ始めた私達ですが、誰よりも先に完食したお義母様が私に、
「そう言えばあなた。今朝から恋する乙女の様な顔をしているけれど、誰かいい人は見つかったのかしら?」
と言ったので、危うく飲んでいるスープを吹き出しそうになりました。
「夢に男の人が出てきたので、モヤモヤしているだけです」
「あらまぁ、立派な恋じゃない!夢にまで出てくるなんて凄いわね!」
「…そうですか」
兄さんもお父様も「どこのどいつだ」といった顔をしています。その人のことを話すと、
「…奴か。悪くはないが、女遊びがひどいからな。そこは気を付けとけ」
「そうか。彼はクラムの友人だったか」
「えぇ。前に戦って負けましたね。アレは高火力の一撃で押し切るような存在の天敵ですよ」
「相手の威力を吸収して、威力を増す光線…恐ろしいな」
「負けじと出力を上げるほど、被害は甚大になってきますからね」
「その件に対しては、真正面からでは話にならんな」
「はい。事実、龍はほぼ一撃で消滅しました」
「あの真龍を一撃…。もしかしたら彼は、帝国に置いておくべき重要な存在なのかもしれんな」
「もしかしたらではないわよ、バン。ヨミちゃんの想い人も彼の様だし、婿にもらってしまったらどう?」
「む、婿⁉︎」
「逆玉コースか…」
私は驚き、兄さんはため息をつきました。
「たしかに、彼の魔法特性『超克』は、神名持ちの神力解放に伴う障害をなくす事ができそうですね。魔力を貰うだけでも効果がありそうですから、魔法的にはこの上ないでしょう」
「でも私は、『私より強い人以外とは結婚しない』ので」
私は照れ隠しでそう答えました。でもそれは悪手だった様で。
「ならば、今度宮殿に呼んで試合させるか」
「わざと負けるのはダメよー?」
勝手に試合が決まっていることに、かなりうろたえました。
「さて、宜しくお願いします」
「はい、宜しくお願いします」
私は今、とても困っています。
もしこのまま私が負ければ、私は晴れて彼の婚約者。ですが勝ってしまっては、その希望もなくなります。でも、手抜きするわけにも行かないですので…。
「では、始め」
相手はこちらの出方を疑っています。…とりあえずこれについては思考を放棄して、彼へ攻撃を加えることにしました。
時間と空間を操って、どんどん攻撃を与えて行きます。でもそれらは全て、ナイフ一本で受けられました。
押し潰す攻撃なども入れてみます。それには魔法銃で対応されました。弾を打ち込まれ一瞬だけ静止したところを回避されます。
彼は終始普通の表情でしたが、こちらは少しペースが崩れました。少し息が荒いです。
そのまま勝負は続き、私の大技である16方位連続攻撃を回避してみせた彼は、私の後頭部を麻酔弾で一発。攻撃に全ての思考のリソースを割いていた私は、そのカウンターに対処できず。この勝負はそのまま負けとなりました。
「勝者、バール」
負けようと思ったわけではありません。むしろ今の攻撃は、完全に殺すつもりで放ちました。
一歩先を行かれていた。同い年なのに。悔しさもありますが、やっぱりなと言う納得もあります。
「参りました」
「凄いですね。あんなもの真似出来ませんよ。後ろを見る暇もありませんでしたので、滑り込みで抜けさせていただきました」
褒められて、なんだか嬉しく思いました。
「…いえいえ。ありがとうございます。そちらこそ機転がすごいですね」
「伊達に戦場慣れはしてませんよ。尤も、まだ一年ほどですが」
「そうなんですか。わずか一年でそんな」
「師匠がいい人ですので。いつも色々と教えてもらってます。…さて」
話がだいぶ弾んだのを、バールさんが切りました。
「いきなり試合ということは、何かあるのですか、皇帝陛下」
「あぁ、君もちょうど勝ったところだ。そこの娘がな、『自分より強い奴以外とは結婚しない』と言い始めてな。どうしようかと迷っていたら、今ここにそんな男がいるわけなのだ」
そしてお父様は、
「褒賞として、というわけでは無いのだがね。どうかそこのヨミを、娶ってはくれないかな」
と言いました。バール君が考え始めます。
「すみません、皇位はヨミ殿下がお継ぎになられるのですよね?」
「あぁ。…君の魔法特性を受け継ぐことができれば、今までの神名持ちの神気解放の代償を軽減することができると思ってな」
「成る程…」
「平民だなんだと気にする必要はない。そんな事を言う者には、そのバッジを見せれば良いのだから」
そして何かを決めた様に、彼が私の方を見ました。
「…ヨミ殿下。貴女は私が婿だとしたら、嫌でしょうか?」
「…いえ、全く。寧ろ、そうであってほしいです」
正直な想いを伝えると、彼は…
「分かりました。そのお話、受けさせて頂きます」
了解してくれました。思わず体が動いて、バール君に抱きついてしまいます。
「〜♪」
「ヨミ様、陛下の御前ですよ」
「…はっ」
全く気付きませんでした。いつのまにか、彼に抱きついているなんて。
「仲睦まじくて何よりだ」
「申し訳ございません…」
恥ずかしくなって、顔を赤くしました。それをみてバール様は笑ってくれました。
思えば、この時はまだ、バール君についてあまり知りませんでした。ですから今は、恋情なのです。それが愛情に変わるのは、もう少し後になりそうですねーー。
次回もヨミ+バール回。後一回くらいだと思われ。




