【6】
【五、一輪の花ひらく】
ダークアッシュで長めのショートカットの髪型。
黒く細いデザインのズボンに黒のジャケット、黒い高襟のワイシャツを着ている。
琴音が先輩と呼んだその人は、厨房に入ると、黒崎に話しかけた。
「雫ちゃん、前に話したのはどんな感じ?」
黒崎は視線を話しかけてきたルカに向けて、首を横にふる。
「…この前、女性だとバレました。大体、マスターの好きな子に近づいてやきもちをやかせてくっつけるなんて…うまくいくとしたら、恋愛小説か漫画の世界の話ですよ」
冷たい目をルカに向け、一言つけくわえた。
「他人の恋路の邪魔をして、馬にけられたくありません」
「あぁー…あったね、そんな言葉。でも、マスターには行動しないで後悔なんて事は、してほしくない」
行動しないで、何かを諦めるとどうして長い間後悔するのだろう。
「ほんの少し手をのばせば、届くのになにもしてないのを見てると、背中をかるい蹴りたくなるのもあるな」
ルカは、苦笑を浮かべた。
黒崎はそれを見て、複雑そうな表情をみせる。
ルカがなぜ、そう感じるのか分かる気がしたからだ。
「あなたも、どこか本心を隠していますね」
「まぁ、その方がうまく人と付き合える時があるから。
俺の事より、マスターだよ。
プラン変更、彼女にやきもちやかせる」
「―…他のプランなんて、存在したんですね」
黒崎は呆れたため息を押し出す。
その少女漫画のようなプランはどこから出てくるのだろう。
現実の恋は、うまくはいかない。
「今、思いついた」
「それで、私は何をすればいいんですか?」
「そのままで大丈夫。マスターは、ここを始めた事も彼女には話してなかったから。
知らない事を知っている存在なら」
そう言うルカを黒崎は不思議そうに見る。
頭がいいのか、よくないのか分からない人だ、彼女は。
厨房に入り、紅茶の茶葉を銀のスプーンに一杯だけすくい、ティーポットにいれる。
電気ポットからお湯をティーカップにいれながら、横目でルカ視線を向けるとニヤリと口元を持ち上げていた。
……やっぱり、この人は、面白がっているだけ、なのかもと黒崎は思う。
タイマーを数分セットし、ティーポットにいれるためのお湯を中にいれる。
裏の出入口から執事の格好をした青年が来るのが視界に入った。
「あ、マスター」
「マスター、おはようございます」
「おはよう」
「今日、あの子来ていますよ。よかったですね」
ルカは、笑みを浮かべた。
必要以上にキラキラした笑顔で、零音はその笑顔を見なかったふりをして、在庫の茶葉を確認する。
それぞれ、綺麗に整頓された棚に缶がならんでいる。
数を確認すると、メモをとってから振り向く。
「ルカ、その表情はからかいたいだけだろう」
「いいえ、両思いなら告白すればいい…と思っただけです」
「……どうして、両思いだと思うんだ?」
……あの子の気持ち気が付いてなかったのか、と黒崎とルカは目をあわせた。
好意を抱いていないのに、執事になってと言わないだろう。
喫茶店に来て、零音を見る視線が熱く頬が赤くなっているのに。
「言動や雰囲気がそんな感じです。」
「なんていうか、感覚的に」
「……」
恋愛対象に見られていないと思っていたが、客観的に見るとみてくれていたという事か。
嬉しいな。
ふっと笑みを浮かべた。
胸からあたたかい気持ちが広がってくる。
まるで、蜜のようだ。




