【7】
【六、花の蜜、蝶はどこにとまるのか】
マスターは、少女漫画でよく見られるかなりの鈍感キャラだったりするらしい。
この容姿で。呆れたため息をルカは押し出す。
「言葉に出さないと、相手は不安になります」
ルカは自分がいれるべき、コーヒーをドロップでいれていく。
ひいてある豆を、冷凍庫からスプーン3杯いれる。
銀で先の長くなっているポットで、豆にゆっくり優しくしめらせるようにお湯をおとす。
「……」
「自分の気持ちを言わないで、おさえて閉じ込めたのは、本当は自分のため。
彼女のためじゃない」
正面からルカは、零音をみすえる。
零音は、ルカから視線をそらした。
「自分の気持ちから逃げだす事は、自分も大切にはできない。
彼女も大切にはできない」
ぽたんっと最初の一滴がおちる。
ルカは零音から視線をガラスのコップにうつす。
そこからは、途切れないようにお湯を細く長くおとし続けていく。
「結末がどうなろうとも、気持ちと向き合い続ける。
向き合った結果は成長させてくれる。
美味しいコーヒーが、時間をかけ途切れないように、お湯を細く長くいれ続けていなければならないように」
ルカは、お湯をそそぎ終わると、視線をあげて零音を見る。
苦笑を浮かべると、コップを銀のお盆にうつす。
「俺はそう思います」
そう言うと、ルカはお盆を持って厨房から出ていった。
「……そのとおり、かもな」
零音も苦笑を浮かべて、ルカが出ていった方に視線を向けた。
黒崎は、今いれている紅茶のセットを零音にさしだす。
「この紅茶、あの子のです。壁際の席にいるので、出して来てください」
「黒崎…」
「今日は早くからお店に顔をみせているから、会ってないんでしょう?
行動もしないで後悔するマスターの顔はみたくありませんから」
「お前も、な」
銀のお盆を受け取ると、零音は厨房から出て行く。
その後ろ姿を見ながら、黒崎はライバル役なんて必要なかったと笑みを浮かべる。
洗い物をしながら、不思議そうにつぶやいた。
「…お前もなって、私にはそういう相手がいないのに、誰の事だ?」
ここにも、鈍感な人が一人いた。
他人の事の方がよく分かるらしい。
「お待たせ致しました。アップルティーでございます、お嬢様」
小さな音をたててテーブルにコップを置く。
じっと美佳は零音を見上げる。
かすかに頬が赤い。緊張しているのか、どこかよそよそしい。
琴音は笑みを浮かべる。
「ありがとうございます」
「零音、好き……な紅茶の入れ方教えて?今夜」
「はい、かしこまりました。まだ、仕事がのこってますのでもどります」
笑みを浮かべると、零音は厨房にもどって行く。
琴音は美佳に話しかける。
「告白、するつもりなの?」
「分からない。気持ちは伝えたいとは思うけど、うまく言えるのか不安で」
「そう。あまり、考えすぎない方がいいと思うよ」
「ありがとう」
今日、伝えてみよう。ありのままの言葉で。
そう思っていたら、気になって夕飯は何を食べたのかもあまり覚えていなかった。
気がついたら、夜になっていてお茶の入れ方を台所で教わっている。
「ねぇ、零音。好き」
心の中で言ったはずの言葉が、口に出しているのに気がついたのは、彼が驚いた表情を浮かべていたからだった。




