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公爵令嬢フローラの選択  作者: ごろごろみかん。
1.取引いたしましょう?

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4.なんだか悔しいじゃない

夕食後、私はアシェルに応接室へと呼び出された。


『このクソッタレな家から、姉さんが逃れるための』


……と、アシェルは言っていたけれど。


(逃げ出す?……私が!?

……この家から?)


今まで、考えたこともなかった。

この家を出る、なんて。


(そういえば、ミリアもこの家を出るべきだと言っていたわ)


双子の考えることは同じなのだろうか。

ふたりの気遣いは嬉しい。

私を思ってのことなのだから。


だけど私は……


ごめんなさい。

アシェル、ミリア。


私ね……正直……納得いかないのよ……!!


逃げる、というのがちょっと、解釈違いというか、納得いかないというか!!


だって、どうして私が逃げ出さなければならないの!?


このまま逃げるなんて、なんだか悔しいじゃない!……負けたみたいで!!


(アシェルの気持ちは嬉しい。嬉しいけど、断ろう)


私はここに残る。

残って、穏便に退場するのだ。


身分も家も捨てるなんて、まるで罪人だわ。

私に恥じる罪はない。

夜逃げ同然に逃げるなんて、絶対に嫌だ。


だから、アシェルには断ろう。


そう思って応接室の前まで来ると、私は扉をノックしようとした……のだけど。



その時。

中から悲鳴のような声が聞こえてきた。


「っ……じゃない!」


(ミリアの声……!?)


ミリアもいるのね……!

様子がおかしいけれど……ふたりとも喧嘩をしているのかしら。


(あのふたり、仲がいいけどよく喧嘩もするのよね)


止めよう。


そう思って、扉を開けた瞬間。


思いもしない言葉が──耳に飛び込んできた。




「嫌!絶対に嫌よ!!もし姉様が、私とは血の繋がりがない赤の他人だって知ったら……もう可愛がってくれなくなるわ!!!!」





「──え」


(は、い?)


私は目を瞬いた。


(もし、姉様が私とら血の繋がりがない赤の他人だと知ったら──……?)


知った、ら?


どうやら私は今、とんでもない事実を聞いてしまった、ようだ。

私の入室に気がついたミリアが勢いよく振り返った。


「姉様っ……!!」


まずい。聞いていたのがバレたわ……!


(いえ、私は呼ばれて来たのだけどね!)


でも、結果として盗み聞きみたいな真似になってしまったのは事実。

もはや今更、何も聞いてませんでしたの体を取るのは難しいだろう。


ミリアは私を見て唖然としている。

酷い顔色だわ……。


こんな時でもなければ、心配していたことだろう。

ミリアは悲鳴のような声を上げた。


「姉様……!?どうしてっ……」


「言ったろ、姉さんも呼ぶって」


肩を竦めたアシェルに、ミリアのくちびるが震える。

それから、ミリアは勢いよく私に駆け寄ってきた。

懇願するように彼女は言う。


「ね、姉様、何も聞いてないわよね。今の……」


「……ごめんなさい。聞いていたわ」


「っ……」


絶望を顔に貼り付けて、ミリアが絶句する。

私は、そんな彼女にさらに尋ねた。


「……本当なの?」


「本当だよ」


答えたのは、アシェルだ。

彼は落ち着き払っていた。


「僕たちは、姉さんと血が繋がっていない。ローレンシア公爵の実子じゃ、ないんだよ」


「…………」


とんでもない事実である。

こんなことって……ある!?


(何それ!!そんな設定知らないんだけど!!)


今更、新情報とかやめてほしい。

長編小説で後から追加された新設定か何か??


(ええ?ええええ??小説には出てこなかったわよね?)


どちらにせよ、これが表沙汰になったら大変な醜聞である。


もし新聞屋に情報を掴まれたら──。


私はクラクラしながら、頭を整理する。


「うん、そうね。聞きたいことはたくさんあるけど。……それは置いておいて。今聞きたいのは……」


私は額を抑えていた手を離して、アシェルを見た。


「どうして今、それを伝えることにしたの?」


アシェルは最初から、私にそれを伝える気だったのだろう。

だからここに私を呼び出したし、ミリアにその話をしていた。


「あなたたちが言わなければ、私はきっと、一生、その事実に気付かなかったわ。あなたたちは彼女……エヴァリーナによく似ているもの」


エヴァリーナとは、彼らの母で、父の愛人だった女性だ。

邸に来てすぐ、感染病にかかってしまい、命を落とした。


私の言葉に、アシェルが困ったように笑う。


「それはそうだよ。顔が似てるからこそ、僕たちは彼女の子供役を演じることになったんだから」


「子供役……」


その返答に、まさか、と思った。

私はさらに尋ねた。


「エヴァリーナとも血が繋がっていないの?」


私の疑問に答えたのは、それまで俯いていたミリアだ。

静かな声で彼女が答える。


「……それこそ、縁もゆかりも無い他人よ。私とアシェルは……エヴァリーナによく似ているの。だから、引き取られたのよ」


「引き取られた……」


ミリアの口ぶりからして、アシェルとミリアは本当に血が繋がっているのだろう。


(今まで本当の弟と妹だと思っていたのに……)


それなのに、血が繋がっていなかった。私だけ。

疎外感を感じて寂しい。じゃなくて。


混乱していると、ミリアが寂しそうに笑った。


「知られてしまったなら仕方ないわ」


まるで秘密を知られた暗殺者のようなセリフでミリアは微笑む。


「こうなったら、アシェルの案に乗るしかない。……私と、一緒に家を出て?」


(これ、ミリアも混乱してない?)


思いもしない事態に戸惑っているのはどうやら私だけではなさそうだった。


そのため、私は待ったをかけた。

思考する時間が欲しい。


「ええと。……一回整理してもいいかしら?」


「いいよ。姉さんも混乱してるでしょ」


ミリアは俯いて、何も言わない。

いつもなら一番に『姉様!』と言ってくるのに。


そういえば彼女は先程から、私を【姉様】と呼ばない。


「…………」


私はひとまず、気になっていたことを口にした。


「あなたたちの本当のお母様は?」


尋ねると、アシェルがすぐに答えた。


「死んだよ」


彼は困ったように──いや、まつ毛を伏せて、皮肉げに笑った。


「僕たちの本当の母親はマリア・ネロワロー」


(マリア・ネロワロー……って)


ネロワローはこの国の名である。

そしてネイサンの──。


私の思考を引き継ぐように、アシェルがその続きを言った。


「亡き、王妃陛下だよ」


そう、母親だ。


(情報量が多い……!!)


さながら情報の洪水である。

私の脳内は、設定のアップデートに忙しい。


(王妃陛下は既に亡くなられているわ)


そして、ネイサンは──表向き(・・・)王妃陛下の子とされているけれど。


実際は、愛人の子だという噂がある。


ふたたび、アシェルが口を開いた。

彼は苦笑して、目を細めて私を見た。


「多分、姉さんの考えてる通りだと思うよ。僕らは、王太子殿下──姉さんの婚約者でもある、ネイサンの異母兄弟だ」


「情報量が多い」


私は思わず、本音を口走っていた。

それにアシェルが思わずと言ったように吹き出した。


「良かった。混乱してるかと思ったけど……大丈夫そう?」


「あなたたちの目的は、王家への復讐?」


「どうしてそう思うの?」


「王妃陛下は……不慮の事故(・・・・・)で亡くなったと発表されているけど、実際は他殺だった……と言われてるわ。だからあなたたちは、陛下を憎んで……?」


私の推測に、アシェルは首を横に振る。


「それこそまさか。まあ……思うところがないわけではないけど、実の母と会ったことはないんだ。物心ついた時には、僕たちはギルドにいた。そこで、エヴァリーナに拾われたんだけど……それは置いておくとして」


そこで、アシェルは顔を上げた。


「僕たちが今、一番大切なのは、姉さん──フローラ。あなただ。だから、僕はこの秘密を明かして、僕たちと逃げて欲しいと思った。この家にいても……あなたは不幸になるだけだ」


確固たる根拠でもあるのか、アシェルはハッキリとそう言いきった。



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