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【書籍化企画進行中】公爵令嬢フローラの選択  作者: ごろごろみかん。
4.公爵令嬢フローラの選択

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9.全てのきっかけとなったアイスキル







フローラ、ミリア、アシェルが自室に戻ったあと。私は、回収してきた(・・・・・・)魔道具の記録を複製しようと試みている、マルセルに尋ねた。


「アシェルとミリアはともかく、フローラはきっと思ってますよ。どうして、我々がそんなことまで知っているのかと」


マルセルは人生の先達だ。

私が生まれた時、既に彼はこのオー・ヴォワールにいた。

彼女らが退室したので、私の対面に座り直し、マルセルは、にっこりと穏やかに微笑む。


「ここは、特殊な場所だよ?情報を得るためのパイプをいくつも持っているんだ、と思ってくれればいいのだけど」


「希望的観測じゃないですか……」


私はため息交じりに、マルセルがいれたローズヒップティーに口をつける。やはり、酸味が強い。

苦々しい顔をしていたのを見て、マルセルがからからと笑った。


「まだ、苦手かい?」


「……少し」


「ふふ。私も昔は苦手だったものだよ」


その昔、は一体何年──いや、何十、何百年前の話なのだろうか。


私はふと、顔を上げて、彼が手にしている楽譜のようなものに視線を向けた。それこそが、記録の魔道具。千年前、三国間で造られたもの。


「それ……外せるのですね。あの、譜面台から」


この魔道具は、一度設置したら、その後の移動は不可能な造りになっていると聞いた。

魔道具の隠蔽を防ぐためだ。


私の質問に、マルセルは鼻歌交じりに答えた。


「本来は、できない。だけど、これの製造者は私だよ。ああ、この言い方だと誤解を招くかな。あくまで私は、研究開発チームに参加しただけだから、携わった、と言う方が正しい」


──そう。

ミリアとアシェルは、薄々は勘づいているだろうけどフローラは知らないはずだろう。

マルセルは、この、ネロワロー王国の建国当時から今に至るまで、長く長く、その歴史を見てきた。

文字通りの生き字引であり、生きた化石だ。


彼は永くを生きている。


ふと、記録魔道具を確認するマルセルの手が止まり、憂いを帯びた顔で呟いた。


「このまま、ネロワロー王国が潰えてしまうのは、寂しいからね」


元々、ネロワロー王国は二国から疑いをかけられていたのだという。

近年、ネロワロー国は魔道具開発に力を入れ、軍事力は飛躍的に上がった。

それに、警戒するのは隣国として当然のことだ。

二国がネロワロー王国に『軍事同盟を結んだ時に贈呈された魔道具を確認させろ』と言っても、のらりくらりとかわされる始末。

痺れを切らした二国が、手を組んで強襲を仕掛けてくるのも、もはや時間の問題だった。

このままネロワロー王国の破滅を見届けるしかないか、とマルセルが思っていたところで、このアジトにやってきたのがフローラだった。

彼女が地下に足を運ぶことを(私経由で)聞いたマルセルは、もしかしたら、と考えたのだ。

フローラの、目的に至るまでの道に、マルセルの長年、所在を追っていたものがあるかもしれない、と。


それが記録の魔道具。

だからこそ、彼はフローラたちの窮地に駆けつけた。私ひとりでは、彼らを救い出すのは至難の業だっただろう。

何せ、オー・ヴォワールの暗殺者を動かせば、こちらの素性が王家側に露見する可能性がある。


それにもともと、オー・ヴォワールは暗殺者ギルドだ。

そのような組織に、助け合いなどない。


個人的に、あの双子には思い入れがあるけれど──ただ、それだけ。


任務に失敗した暗殺者は、情報を吐かされる前に、自ら始末をつける。ここはこういうところで、みな、そういう風に教育を受けている。


マルセルだってそれを知っている。

だけどその彼が、自ら救出を提案したのだ。


『あの子たちの手伝いを、しに行こうか』


私もまた──彼らの避難経路くらいは手配していたが、王国軍に囲まれた彼らを救出することはしなかったし、できなかっただろう。


(本来、マルセルはアジトから滅多に出ない)


それこそ、ミリアに引きこもり、とあだ名をつけられるほど。


『マルセルは、どうしていつも引きこもっているの?彼、吸血鬼なの?』


今から十年以上前。

それこそ、ミリアとアシェルが、引き取られる前の話だ。

幼いミリアに、そう尋ねられたことがある。


マルセルが、アイスキルを使うところを私は初めて見た。【洗脳】のアイスキル。


それに、私はなんて返したのだっけ。

吸血鬼とは、言い得て妙かもしれない。

実際、彼はひとの理から外れているのだから。


私がそう考えていると、マルセルは譜面に視線を落としたまま、言った。


「……別に、大したことでは無いよ」


「え……」


思考を読まれたような言葉に、目を瞬く。

それに、マルセルが顔を上げて、微笑んだ。


「気になるかい?私がなぜ、長くを生きるに至ったか」


「聞いても、よろしいのですか?」


「ふふ。構わないよ。……きみは本当に優しい子だ。悲観もせず、真っ直ぐに育った」


それが、何の話をしているかを悟り、私は苦笑する。


先日、私は自身のルーツを辿り、レルエピシア王国に渡った。


そこで知った事実は、私が取り替え子だったということ。

私が生まれた頃、レルエピシア王国は酷く荒れていたらしい。

誰が敵か、誰が味方かも分からない混沌とした状況で、母は、私を影武者と取り替えることにした。まだ、私に自我が芽生える前の話だ。

そして、内政が落ち着いた頃に私を呼び寄せるつもりが──母は病で命を落としてしまった。


結果、本物の王子は行方不明、という情報だけ残り、私は自身の出生など知らずにここで育った。


しかし、ある日マルセルに、レルエピシア王国に送り込まれた。


彼は知っていたのだろう。私の出自を。

私が幼い頃から持っている、この指輪。

これが──レルエピシア王家の家紋だと。


「私は伝承者なんだ」


ふと、マルセルの声が聞こえて、私は顔を上げた。

マルセルは壁にかけられた絵画を見つめていた。


「【ひとの命を魔石化する】というアイスキル。知ってるよね?」


「……はい」


それが、ネロワロー王家が儀式を執り行うきっかけとなった。私が頷くと、マルセルも微笑む。


「生命を、魔力に。……魔力を、生命に」


「は──」


「僕(・)は、彼女の成功作品だ。誰にも、言うつもりはなかったし、現に今まで、誰にも話したことはなかったのだけど」


マルセルの言い方で、例のアイスキルを持っていたひとは、女性だったのだと知った。そして、マルセルが自分を【僕】と呼んだのも、私は初めて聞いた。


人命を、魔力に変換するアイスキル。

てっきりそれは、不可逆だと思っていた。

だけど──


(魔力を、人命に変換もできる……というのか?)


にわかには信じられない。

だけど、今、まさに目の前に、その成功体験がある。信じざるを得なかった。

私が驚きを呑み込んでいる間に、マルセルは過去の思い出話に終止符を打ったらしい。ゆっくり瞬きをすると、彼は話を終えるようにゆっくりと言った。


「……さて。後は、あの子たちの返事を待つことにしようか」


「そう、ですね」


マルセルの言う、返事とは──あの双子が王位を継ぐかどうか。

その選択だ。






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