1話 勇者たちは褒められた
王都サンディー。
世界地図に於いても、西の外れの方にある、小さな国である。
そこを治めているのは、まだ見た目若き一人の女王。凜とした佇まいと冷たい瞳から厳格な雰囲気を醸し出しているが、時折見せる優しい表情も相まって国民からの信頼は非常に厚い。彼女の名は「マリア」という。
そんな彼女に向かって、四人の若い男女たちが向かって跪いた。
「其方たちよ。この度の働き、誠に大義であった」
「勿体なきお言葉、ありがとうございます」
「面を挙げてよいぞ。私もこの国の女王として鼻が高い。其方たちを立てた甲斐があったというものだ」
「ははっ」
勇者と呼ばれた男が顔を挙げると、続いて他の三人も顔を挙げていく。
「まず、戦士ルギーよ」
「はい!」
分厚い鎧を纏った戦士が大声で返事をした。
「この前の、国対抗の武闘大会にて、見事な成績を収めたこと。大義であった」
「お褒めいただき、ありがとうございまっす!」
その大柄な体躯に似つかわしい大声を発すると、女王も若干の苦笑いを混ぜて頷いた。
「次に、僧侶ロッカよ」
「はぁい」
水色の修道服に身を包んだ、桃色の髪の女性が柔らかく返事をした。
「この前、怪我をした老人を無償で保護したそうだな。感謝状が届いておる」
「まぁ、そんな。わざわざご丁寧に……どういたしまして」
僧侶がクスッと微笑み、女王もそれに釣られて微笑んだ。
「そして次に、魔法使いリコよ」
「はい」
黒いローブの女性が、知的な眼鏡越しに視線を向けて返事をした。
「其方がこの前書いた魔法学の論文が、国外で賞を取ったそうだ」
「本当ですか……? ありがとうございます」
堅そうな魔法使いの声に、女王も神妙に頷いた。
「そして勇者ディオよ」
「はっ!」
青い髪の好青年が、改まった声で返事をした。
「お前の功績、見事であった。特に……」
……
………………
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「ふぅ……」
書き終えた文字の羅列を眺めながら、僕はひたすら溜息を吐いていた。
続きが思いつかなくなると、僕はヤケクソになって文字化けをさせてしまう。そういうわけなので、この文を読んでいる皆様、お手持ちのスマホやPCは正常ですのでご安心ください。
ノートパソコンをそっと閉じて、一旦立ち上がって伸びることにした。
「春休み丸々使ったけど、結局ここから進まずじまいだったな」
既に時刻は七時を過ぎている。朝からパソコンを凝視しっぱなしも辛いし、そろそろ着替えて学校に行かなければならない。
電源を切り落としたのを確認すると、僕は制服の袖に手を通した。
朝ご飯を食べて、鞄を持って学校に向かっていく。
道中の桜並木が本当に目に痛い。花弁も地面に斑点のように降り積もっていて、まるで違う景色のようだ。
それ以外は特別変わったところのない日常。
強いて変わったことと言えば、
「おはよう!」
「久しぶり! 元気にしてた!?」
「同じクラスになれるといいね!」
「バーカ、うちの学校はずっとクラス替え無しだろ!」
そんな喧噪を耳にしながら、僕は三階の教室へと向かっていく。
着いた先は、三年D組。
一応、「おはよう」とこっそり挨拶だけ口にして、僕は席に着いた。三年間クラス替えがないおかげで、教室も一階上になるだけで間取りが一緒なのはありがたい。
畑路高校の生活もついに三年目になる。
まぁ、僕はいつも通り平々凡々と、教室の隅っこの方で緩く日常をやり過ごしていくだけなんだけどね。
ただ、僕はそれが退屈だとは思わない。
何故なら、このクラスには……
「おはよう!」
「おはよう」
「おはよー」
「おーっす!」
誰よりも人気者の、四人組がいるからだ。
「須磨さんおはよう! 聞いたよ、小論文コンクールで賞取ったんだって!?」
「宗田さんも、この前困っているおじいさんを助けて警察に表彰されたんだって!? すげぇよ!」
「前守くん、春休みの大会で地区優勝おめでとう! 凄いよ!」
次から次へとクラスメイトたちが前の席に群がっていく。
それもそのはず、そこにいるのは……
「ええ。そうよ。まさかあれが入賞するなんてね」
「警察から連絡があったときはびっくりしたよぉ」
「ま、うちのチームの実力なら当然だな!」
思い思いに自分の功績に対する感想を述べる三人。
そして、もう一人――
「みんな凄いよ。僕なんか大したことやっていないのに」
そういって謙遜気味に笑顔を振りまく男子生徒がいた。
「夕島だって、今朝女の子を助けてただろ!」
「あれはただ、自転車のチェーンが外れていたから直してあげただけだよ」
「でも、なんか頼もしかったよねぇ、あれ。あの子、うちの学校みたいだけど、また会えたりして」
「あはは、まさかそんなことって……」
――ふむ。
夕島くん、そんなことをしていたのか。
僕は懐からメモ帳を取り出して、『勇者は女性を助けた』とだけ書き記しておいた。
これでようやく話が進みそうだ、と心底安堵した。春休み中は何も話が進まなかったので、帰ったら早速続きを執筆しよう。
――みんな相変わらず、だな。
新学期早々、彼らが変わっていなくて安心した。
彼ら四人――須磨法子、宗田涼香、前守剣、そして夕島英雄。
クラスの中でも一際ステータスの高い、人気の四人。
クラスで地味な僕なんかとは違う。うらやましくもあるが、尊敬もできる。彼らを見ているだけで、この鬱屈した教室が明るく見えてくる。
だから――
僕は今、彼らをモデルにファンタジー小説を書いている。
この平凡すぎる日常を、僕の手で異世界へと変貌させてみせる。
それがこの僕、村野忠人に課せられた使命なのだと思っている。
故に、僕は心の中で彼ら四人をこう呼んでいる。
“勇者パーティ”、と――
そう、これは。
平凡な僕のクラスと日常生活を、非日常のファンタジーに書き換えて楽しんでいる、
どこにでもいる普通の村人にして語り手な僕の他愛のない物語である。




