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剣戟の付与術師  作者: 八映たすく
第三章
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二百九十話 分かたれた道


 街の喧騒から離れた細い通りに、コウタとシリウスの二人だけが顔を見合わせる。


 照りつける太陽が密集した屋根に阻まれて路地裏に歪な影を作る。



「悪い、ってどういうことですか?」



 隙間から漏れ出る光を浴びて、コウタは眉を顰めながら問いかける。



「お前達と居た時間、長くはなかったが結構楽しかったぜ。つっても姫様と喧嘩してることが多かったが。」



 シリウスが口にしたのは、コウタの問いの答えではなく、感傷に耽るような言葉。


 まるで思い出を振り返るような口振りで話すその姿は、どこか彼女・・と重なる。



「何、言ってるんですか?」



 気味の悪い既視感を飲み込むように、頬を引き攣らせながらコウタは問いを投げる。



 しかし、返ってきたのは冷たい視線が一つと、低く押し殺された声が一つであった。



「もう足並み揃えんのも面倒だって言ってるんだ。」



「意味がわからない、なんで、今⋯⋯。」



 その言葉の意図を、完全に理解してしまったコウタは、震えた声で首を横に振る。



そして、確信にまで至った思考は、非情にもシリウスの口から答えとして提示される。



「少し事情があってな。————俺はここでパーティを抜ける。」



「⋯⋯っ。」



 直後、思考すらも停止するような衝撃に、コウタは思わず息を呑む。


 なぜ今なのか。


 どんな事情なのか。


 止めていいのか。


 さまざまな思考が脳内を巡る。



「⋯⋯説明は、してくれないんですか?」



 しかし最初に言葉として出てきたのは、そんな問いかけ一つであった。



「家族の問題だ。別に大したことじゃねえ。それに——」



 そんな言葉の直後、シリウスは視線を切ってコウタへ背を向ける。



「——元々俺はただの同行者だ。目的もねえ、したいこともねえ。ただついてきただけの半端者だ。」



「これ以上一緒にいても、邪魔になるだけだろ。」



「⋯⋯本気で言ってますか?」



 どこか突き放すような、自棄になったようなそんな物言いに小さな怒りを交えて問い詰める。



「ああ本気だ。俺はお前達とは違う。俺は我儘で、面倒が嫌いな魔族なんだ。」



「違っていても、一緒にいれるから仲間なんじゃないですか?」



 シリウスの言葉に、コウタは悲しそうな声で問い掛ける。


 その問いが気に入らなかったのか、シリウスは背を向けたまま肩を強張らせ、背越しに鋭い視線だけを寄越した。



「⋯⋯仲間になったつもりはねえって言ってんだ。」



「嘘をつかないでください。」



 しかし、強い語気で放たれたその言葉も、コウタは即答で否定する。



「⋯⋯嘘じゃねえよ。」



「お前達と俺の旅はここでお終いだ。だから、他の奴らにもサヨナラって言っといてくれ。」



 そしてコウタの否定すらも介在する余地がないほどに淡々と話を進めていく。


 動揺し、視点が定まらない中で、コウタは一つ、シリウスの手元にある一枚の紙切れを目にする。



「⋯⋯その紙が、理由ですか?」



 そして、その紙切れに視点を定めて一歩ずつ前に出る。





「⋯⋯⋯⋯どうだろうな。」



 言葉と同時に、くしゃりとそれを握りつぶしながら少し遅れてそう答える。





「それ、見せて下さい。」



 そう言ってコウタが一歩踏み出した瞬間、シリウスはその紙を足元へと投げ捨てる。




「ダークネスレイ」




 瞬間、紫の閃光が瞬く。





「⋯⋯ッ!」



 そして直後に魔法が放たれ、唯一の証拠は真っ黒な灰となって消える。




「もう、見せれねえ。」



 どこか虚ろで、感情の無いその目に、コウタは小さく息を呑む。



 けれど同時に直感する。



 このまま話をしていれば、間違いなく彼はここを離れる。



「なら、力づくで止める。」



「⋯⋯⋯⋯。」



 メイスを召喚するコウタの姿に、シリウスは構えることすらせずに悲しみを湛えた目で黙り込む。



「⋯⋯っ。」



 それを目にした瞬間、コウタはその動きを止めて構えた武器をゆっくりと下ろす。


 この男は戦う気すらない。


 その姿が、コウタの覚悟と精神を大きく揺らす。




「じゃあな、何言われようが、もう戻るつもりもねえ。」



 そう言って再び背中を見せた彼の動きが一瞬だけぴたりと止まる。



「⋯⋯⋯⋯ごめんな。」



「⋯⋯っ、シリウスさん!」



 最後にこぼれ落ちた言葉に、コウタは反射的に武器を捨てて手を伸ばす。



「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」



 しかし、その手は無常にも空を切る。



 残されたコウタの身体は、そのままぐしゃりと地面に落ちる。


 手のひらに残る空虚な感覚を、握り締めてそのまま拳を地面に叩きつける。




「⋯⋯っ、くそっ。」




 怒りにも似た悲しみを、コウタは一人小さな路地裏で吐き出すことしかできなかった。



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