教授と院生とドラえもん ~その1~
『教授、教授!』
『どうしたんだい? 院生君。そんなに慌てて。』
『ドラえもんって素晴らしいロボットですよね!』
『なんじゃい藪から棒に。』
『いえいえ、あんな素敵なネコ型ロボットがいたら、どんなに生活が活気づくかと思って。』
『そうじゃのう。院生君はどんなことをしたいんじゃ?もしもドラえもんがいたら。』
院生君は少年のように瞳を輝かせながら答えました。
『そうですねぇ!
欲は言わないのですが、「どこでもドア」で海外に行って、金髪美女と豪遊してウハウハしたいですね...
そして「タイムマシーン」で自分の過去をやり直そうかな!!てへ!』
『ううむ...欲丸出しっちゅうか、エロおやじっちゅうか...
よし!!それならば!!』
教授は机の上にあるお茶をグッと飲み干し、机を叩いて立ち上がりました。
びっくりして目を丸くした院生君。
『えっ?突然どうされたのですか?教授!?』
『院生君に作ってあげよう!!』
『まさかドラえもんをですか?』
『いやいや。
ドラえもんを作って彼から秘密道具を出してもらうより、秘密道具をわしが作る方が道理にかなっておるじゃろう。
作るのは秘密道具じゃよ!わしがドラえもんの代わりになるんじゃ!』
『教授!大丈夫です!必要ありませんから!』
『遠慮するな!院生君!では今日は帰りたまえ!
わしは実験室にこもるからのう!!』
『いらないですったら~...本当に...もう...』
ぶつぶつ言っている院生君を1人残し、教授は実験室へと消えていきました。
不安そうな院生君。
さて、教授は一体どんな秘密道具を作るのでしょうか?
~ 次の日の朝 ~
『教授はどうしたかな?
僕は先に帰っちゃったけど、また変なもの作ってないかな?』
大学に登校してきた院生君は、まだ眠い目をこすりながら教室のドアを開けました。
そんな院生君の前に、突然何者かが立ちはだかりました。
『えっ?
あなた誰ですか!?
うわ~!!!裸のおっさんだ!!変態だ!!
教授~!!変態がいますよ~!!助けて~!!!』
大騒ぎする院生君。
それもそのはず。
院生君の前には顔を白粉で真っ白にし、パンツ一丁で青いレインコートを羽織り、さらには髭をマジックで左右に3本ずつ描いた、絵に描いたような「変態」が仁王立ちしていたのでありました。
その変態はすごい力で、院生君の口を押さえつけました。
『院生君!院生君!!静かに!!』
『うぐぐ...なんで僕の名前を!?気安く呼ばないでよ!!
ええい!その手を放してよ!!
この変態が!!変態のくせに!!
変態のおっさんのくせに!!!』
『わしじゃ!わしじゃよ!!教授じゃよ!!』
『えっ?その声は...
...教授...教授ですか?...』
『そうじゃわしじゃよ。
変態なんて失礼な!
ドラえもんの変装をしてたんじゃよ。
どうじゃ?似合うか?』
『似合うも何も...それじゃただの変質者ですよ...
あーびっくりした。
良いですか?教授!!
少なくともですね、教授の今の姿は国民的人気者の姿ではないですから!
お気の毒ですがね!!
まったく尻尾までつけて!!』
『一生懸命作ったんじゃがのう...』
がっくりうなだれる教授。
鼻を食紅で赤く染め、大きな鈴を胸につけ、レインコートには四次元ポケットまでご丁寧に付けてあります。
すすり泣く教授。肩が寂しそうに揺れております。
そんな教授を見て、院生君は少し可哀想に思いました。
『教授...ごめんなさい...
ちょっと言い過ぎました。
あれっ!よく見たら...いや、よく見ちゃだめだ!
よく見ずに、そして目をできるだけ細めて片目で見たら「ドラえもん風ネコ型ロボット変態仕込み」くらいには見えますよ!!
お世辞にも「ドラえもん」とは言えませんが。
大丈夫です!!元気を出してください!!
よっ!!「ドラえもん風ネコ型ロボット変態仕込み」さん!!
ね!?』
『そうか!!院生君!!そう見えるか!!
うれしいのう!!』
『ええ!自信を持って...いや持たない方が良いかな...どうでも良いや!!
教授!良かったですね!!良かった良かった、どうでも良かった!!』
『ありがとう!ありがとう!!院生君!!』
2人は抱き合って喜んでおります。
変態と抱き合う大学院生。とてもおぞましい光景が繰り広げられております。
しかしそろそろ変質者を励ますのも飽きたのでしょう。
ぐいっと院生君が教授を払いのけ、言いました。
『ところで教授!何を作ったのですか?
まさか変装するだけではないですよね?』
『もちろんじゃ!
これを見なさい!!』
レインコートをバッとはだける教授。
『うわー!やっぱり変態だ!!
警察!警察!!』
『すまん間違った!
こっちじゃこっち!!』
教授はレインコートをはだけさせたまま、机の上を指さしました。
そこには古ぼけた、ドアノブのついている開き戸タイプのドアがありました。
『こ、これは!!
あの有名な「どこでもドア」ではないですか!!』
『ふっふっふっ!
さよう。
しかしな、よく見るが良い。
ドアの上にカレンダーと時計があるじゃろ。これが味噌じゃよ。
このドアには「タイムマシーン」の機能も搭載なんじゃ!
名付けて「どこでもいつでもドア」じゃ!!』
『どこでもいつでもドア!?
めちゃくちゃ都合の良い道具ですね!!
これで金髪美女と豪遊してウハウハして、過去の自分を清算できるのですね!?』
『じゃがな。一つ欠点があってな...』
『そんなことどうでも良いですから、早く使いましょうよ!!』
『ううむ...
そう言うなら使ってみようかのう...
じゃあ院生君!まずはこれに着替えてくれ。』
教授はおもむろに風呂敷包みを差し出しました。
風呂敷を解いた院生君は唖然とし、しばらくの間固まってしまいました。
その中には、何か衣裳が入っているのでありました。
『.....
.....教授...
...これを今年24になる、この僕に着ろと...』
『そうじゃ。
それを着ないとこの道具は動かん。』
『これを着ないと動かないんですか!?ずいぶん面倒な道具ですね...
まあ仕方ない。
着なきゃいけないんですよね!?
はいはい!着ますよ!着ればいいんでしょ?』
不平を言いながら院生君は、半ばやけくそになって着替え始めました。
その服はサイズもぴったりです。
着替え終わった院生君は、自分の姿を確かめようと、横にある窓ガラスに目をやりました。
そこには「のび太君」のリアル版が立っているではありませんか!
そう、その風呂敷の中には「のび太君」の三種の神器である「黄色いTシャツ、黒縁メガネ、そして黒い半ズボン」が入っていたのでした!
院生君がいくら少年体型とは言え、この小学生のような服装にはどう見ても無理があります。
167cmの成人男性が着る「黄色いTシャツ、黒縁メガネ、そして黒い半ズボン」。
違和感ありまくりです。
こんな人間が歩いていたら、少し頭のいかれた人物に見え、恐らく誰も声をかけてはこないでしょう。
もし彼に話かける方がいたとしたら、それは職務質問の警察官くらいだと思われます。
『よし!!
さっそく出発じゃ!!
じつはわしの服装も理由があってな。これを着ないと、やはりこの道具は動かないんじゃ。
ドラえもんとのび太君のコンビになって、やっと作動する仕掛けなんじゃよ。
旅先では何かあったら「ドラえも~~ん!」と情けない声でわしに訴えるんじゃぞ!』
『はいはい...』
『そしてわしは「なんだいのび太君?」と切り返す。良いか?』
『はいはい...』
「元気な変態」と「あまり乗り気のしない小学生風大学院生」は「どこでもいつでもドア」の、少し重い扉を開きました。
こうして、「ドラえもん風ネコ型ロボット変態仕込み」と「リアルのび太君」の旅が始まりました!
続く




