教授と院生と童謡 ~問題編~
『教授、教授!』
『どうしたんだい? 院生君。そんなに慌てて。』
『なんか面白い都市伝説があるんですが...』
『また都市伝説かい...』
あくびをしながら、教授は面倒くさそうに返事しました。
『聞きたいですか?』
『ふわー...いや...別に...』
『そうですか!そんなに聞きたいですか!』
『いや、特に聞きたくはないんじゃが...』
教授の意向は完全に無視し、院生君は話を続けます。
『ある有名な童謡が、実は埼玉のある土地に関係しているらしいんです...
ただ、なんていう曲かは明らかになっていないんです。』
『zzz...zzz...』
『教授!教授ったら!!寝てないで聞いてくださいよ!!
これだからお爺ちゃんは...ぶつぶつ...』
『はっ!すまんすまん...わしとしたことが...』
『とりあえず調査しませんか?
その由来のある場所に行きませんか?
そして、その曲は何なのか確かめませんか?』
『うむ...ちなみにどこに行くのかね?』
『武蔵丘陵森林公園です!!』
『おお!森林公園か!!
この時期に遊びに行くのは最高じゃ!!
よし!行くことにするかのう!!』
『そうこなくっちゃ!!』
こうして2人は研究もせず、ピクニックの準備を始めるのでありました。
はたして武蔵丘陵森林公園には、どんな童謡が関係しているのでしょうか?
~ 武蔵丘陵森林公園にて ~
透き通るような青い空。
森林公園の木々の緑が、空の青さと鮮やかなコントラストをなしています。
教授と院生君の少し汗ばんだ頬を、爽やかな初夏の風が吹き抜けました。
『気持ち良いのう!!院生君!!』
『そうですね!教授!来て良かったですね!』
『それでは早速調査開始じゃ!!』
『はい!!』
教授と院生君はお弁当と水筒の入ったリュックを背負い、森の中へと入っていきました。
『院生君!まずはあの木の下でお昼にしよう!!』
教授が汗を拭きながら言いました。
『そうですね!僕もお腹が空きました!』
2人はキャッキャッと騒ぎながら、大きなケヤキの木の下へと向かって行きました。
『教授!先客がいらっしゃいます!』
『うむ。そのようじゃのう...
ん?あのご婦人、どこかで見たことがあるのう...』
ケヤキの下では、すでにお弁当を食べているご婦人がいらっしゃいました。
その女性は2人の存在に気付いたのか、箸を休めて顔を上げました。
『おや!久米さんか?久米さんじゃないか!!』
『教授!お知り合いですか?』
『そうじゃ!数年前までわしの教室で秘書をしてくださったんじゃ。
久米さん!!お久しぶり!!』
『あら!教授!?教授じゃないですか!
お懐かしいですね!!
お昼ならご一緒にどうですか?』
久米さんと言うその女性は、上品に口元をハンカチで抑えながら2人に微笑みかけました。
教授と院生君はリュックを足元に置き、久米さんの近くにあった木の切り株に腰かけました。
『初めまして!院生と申します!
今年理工学部の教室に大学院生として残りました!
研究テーマはまだ決まっておりません!!』
『私は久米と申します。
この時期になって、まだテーマが決まっていないのね。
ずいぶんのんびりしているのね!おほほほほ!!』
院生君の呑気さに、久米さんが笑いました。
その時、彼女の口の中がちらりと見えました。
なんと、久米さんの口の中には歯が1本もありませんでした。
『おや。久米さん。歯のほうはどうされたのかな?』
『教授。お気づきになりましたか。歯槽膿漏とやらで、歯医者で全部抜かれてしまったんですよ...
最近の歯医者は抜いてすぐインプラントですもん。
私、頭来てその歯医者の頭こづいてやりましたわ!!』
歯がない久米さんは、お弁当を丸呑みしているようです。そのため口元から血が流れています。
とても痛々しい姿です。
『失礼じゃが、お年はいくつになったんじゃ?』
教授は気の毒そうに顔をしかめ、尋ねました。
『53歳です。
ちなみに私がこづいたその歯医者には「あんたの知恵は7歳並みだ!」なんて罵られましたけどね。』
久米さんは少し寂しそうに答えました。
『少し太ったかのう?』
『そうなんです。教授。ご飯が噛めないから丸のみで...どんどん太っちゃって。
今は完全なメタボです。
ちょっと痩せないとね。』
そう笑いながら答える久米さん。しかしその右手にはなんとラードがあり、それをボトボトとおかずにつけているではありませんか!
それを見ているだけで、教授と院生君は吐き気を催してきました。
『久米さん...わしら帰りますわ...』
『あら、教授!?もうお帰りですか?』
『うむ。どうも食欲がなくてな。』
『それでしたら、私が作ったおかず、少し持って帰ってくださいな。』
久米さんは、ラードのたっぷり塗られた「納豆おろし和え」と「白い貝殻の散りばめられたチーズ」「イカリング」を差し出しました。
『ああ久米さん...ありがたいんじゃが、ラードがこんなにたっぷりじゃ、味がのう...』
『教授!でも久米さんがせっかく作ったおかずです。もらいましょうよ!!』
『まあ!院生さん!あなたは素敵な方ね!!
気分が最高よ!
良いわ!私の得意の歌を歌ってあげるわ!!』
『いえ...そんな...結構です...』
『さぁ、歌うわよ!!!』
戸惑う2人を尻目に、久米さんは華麗に歌う魔性の女となりました。
ん?この歌、どこかで聞いたことがある曲です。
この美しいメロディとテンポ...
そうです!あの名曲ではないですか!!
『教授!この歌は...
そうですよね!あの童謡ですよね!!』
『本当じゃ!!やはりこの都市伝説は本当じゃったんじゃな!』
さてここで問題です。
この童謡とは一体何という曲なのでしょうか?
解答は次のお話で.....
続く




